

漫画のチカラは大きいなとつくづく感じる今日この頃。映画の近くで仕事をしているとそう思います。特に邦画の場合、ここ数年の話題作に漫画を原作に持つものは驚くほど多い。『さくらん』『NANA』『自虐の詩』『ハチミツとクローバー』『どろろ』……。大ヒットTVドラマも含めれば、漫画原作の映像作品は、そこらじゅうに。ハリウッドでいよいよ『ドラゴンボール』の映画化が動き出したことも考えると、これは日本に限ったことではないとわかります。
私は漫画を読むのを中学生で止めてしまったのですが、近頃は取材資料として映画の原作漫画を読むことが多くなり、「よく出来ている!」と感動することも少なくありません。漫画ならではのカット割り、画とセリフのコンビ、静止画ながら躍動感のあるひとコマひとコマに、関心しきり。そして、内容的にも良く練られていたり、専門的な内容が徹底リサーチされていたりと驚きました。とにかくハイクオリティのものが多い。今更ながら、日本の漫画文化を誇らしく思ったのでした。「そんなことは言わずもがな」という方はいいとして、「漫画なんて子供騙しだ」と今も思っている方にはぜひ見直していただきたいものです。
とはいえ、今回ご紹介する『ラフマニノフ ある愛の調べ』に漫画の原作があるわけではありません。でも、主人公であるロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフの人気に、再び火をつけたのが漫画『のだめカンタービレ』であるのは有名。TVドラマ化されたのでご存知の方も多いでしょうが、私は圧倒的に漫画を支持。『のだめ』の愛称で知られるこの人気作品は、天才的指揮者・千秋真一と変態(?)ピアニスト・野田恵=“のだめ”が音大で出会い、お互いを刺激しあいながら、音楽家として成長していく姿を、ロマンスあり笑いあり涙もありで描いた傑作漫画。千秋さまの身勝手な王子様ぶりとキモ可愛らしいのだめの魅力が、幅広い年齢層の女性たちの心をくいっとワシ掴み。高尚なクラシック音楽をテーマにした物語なのにこんなに笑っていいものかと戸惑うほどに面白く、クラシックのイメージを一新。さらには読んでいるうちにクラシックの基礎知識も備わるのですから一石二鳥。女性コミックだからといって敬遠などしていたらもったいない、ぜひ手にとって欲しい一作なのです。
その『のだめ』の前期クライマックスであるワンシーンで、ピアノの腕も抜群の千秋さまが奏でるのが、ラフマニノフの「協奏曲第2番」。もともとラフマニノフといえば人気の作曲家。異色のピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた映画『シャイン』では、彼の「ピアノ協奏曲第3番」が有名になりましたし、「パガニーニの主題による狂詩曲」は映画に使われることが多いのですが、『のだめ』における「第2」は、ストーリーの重要性と緊張感、曲の持つロマンティックな音色があいまって、のだめファンの女子の間ではひときわ重要な存在。クラシックコンサートでも、この曲が演奏されるときに若い女性の姿が多く見られるのは、『のだめ』の影響が大きいに違いないのです。
この曲は、音楽史上、最も美しく最も難しいピアノ協奏曲のひとつとされていますが、誕生秘話も非常にドラマティック。1897年の「交響曲第1番」の初演に失敗し、極度の自信喪失に陥っていたラフマニノフが一人の精神科医と出会い、「あなたは素晴らしいピアノ協奏曲を作る」と催眠療法を施され、自信を取り戻した末に誕生したのです。そんな名曲誕生秘話と、その後アメリカに亡命した彼の日々を、ラフマニノフを支えた女性たちの姿とともにしっとりと描いたのが『ラフマニノフ ある愛の調べ』。つまり、『のだめ』好き、ラフマニノフ好き、ロマン好きの女性を誘うにはもってこいの映画なのです。
さらに、この映画で盛り上がったら、「今度はコンサートで、生のラフマニノフを聴いてみない?」とすかさず次の約束を取りつけることも可能。クラシック音楽は生演奏を聴くと案外ハマりますから、この次はこの演目を、今度はこの演奏家で、来月はこの指揮者で……などと話は発展し続け、知らないうちに趣味を共有することになるかもしれません。女性は共通の趣味を持った人に過度の親しみを感じるものですから、「のだめ」「クラシック」「ラフマニノフ」を暗号に、女心を掴むことも夢じゃないというワケなのです。それに、誘われたのがロックコンサートだったりすると、一緒に行った相手のノリ具合(手拍子はどうしよう? 立ち上がるの? 踊っていいの? なんだかその手拍子、テンポがずれるんですけど……など)が気になってしまうことがありますが、クラシックコンサートなら静かに聴くことがお約束ですから、まだそれほど親しくない間柄でも大丈夫。さらに、クラシックコンサートは値の張るものも少なくないので、誘われれば「喜んで!!」という女性も少なくないはずですし、「おしゃれして行こう!」と異様に気分が盛り上がったりもするのです。
そんな展開にご興味をお持ちなら、まずは『ラフマニノフ 愛の調べ』で、相手の女性の好みに探りを入れてみてはいかがでしょう。あなたがクラシック初心者ならば、その際は『のだめカンタービレ』で予習をお忘れなく。
映画ライター。通信社、映画祭事務局、webマガジンの編集部を経てフリーに。
映画そのものの話題はもちろん、周辺ネタを追いかけるのが好き。
現在は女性誌を中心に映画紹介、インタビュー記事を執筆。

Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ他にて全国順次公開中
(C)2007 THEMA PRODUCTION JSC (C)2007 VGTRK ALL RIGHTS RESERVED
上映時間:96分
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
宣伝:ギャガ×アルシネテラン
公式HP:http://rachmaninoff.gyao.jp/
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