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映画コラム 女の目線
『七夜待』とタイ古式マッサージでデトックス

七夜待

 少し前から、ビューティ業界では“デトックス”という言葉が使われ始めました。今ではすっかり定着し、誰もが使っているこの言葉。 “detoxification”の短縮形です。もともと欧米では、身体に溜まってしまう有害な化学物質やアルコール、薬物等を“解毒する”治療(及び治療目的の行為)を指していたようですが、体内の毒素や老廃物を取り除く=綺麗になるという発想と、妙に効きそうな響きゆえ、一気に美容業界でも広まったというわけです。

 デトックス効果をうたったサプリメント、ハーブティ、入浴剤などが、巷に溢れているのはご存知の通り。最近では、心のデトックスにまで目を向けたサービスや商品にも注目が集まっているのです。

 最近、女子の間で話題のタイ古式マッサージもそのひとつ。“二人で行うヨガ”とも呼ばれるもので、マッサージする側もされる側も、共にヨガのような動きをしながら、互いに呼吸を合わせ、本来の身体機能を取り戻していくもの。本国では伝統医学のひとつとされ、2500年もの歴史を持っています。施術者に求められるのは、指圧、腕まで使ったマッサージ&ストレッチ、矯正と、多種多様な技術に加え、体に関する豊富な知識。しかも、根底には仏教の教えが流れ、施術者はマッサージする相手の健康と心の安らぎを祈るものとされているため、誰もが簡単に習得できるというものではありません。それゆえ、優秀な施術者が多くなかった日本では、受けられる場所が限られていました。ところが、ここ数年でやっと安心できるサロンが増加。人気が盛り上がってきているのです。

 耳にしたことのある人が多い割に、その魅力についてあまり知られていないタイ古式マッサージ。実は、その魅力を堪能できる映画があります。河瀬直美監督作『七夜待』。デビュー作『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞し、『殯の森』で同映画祭グランプリを受賞した、あの河瀬監督の最新作です。監督が初めて海外ロケを敢行。タイの美しい森を舞台に一人の女性の変化をたおやかに描いた作品です。

七夜待
 物語は、日本人女性が、たった一人でタイに降り立つところから始まります。30歳を迎え、人生に漠然とした不安を抱えた彼女は、人生のリセットを求めてこの国にやって来たのです。ところが、言葉も通じず、土地勘もない異国の地で、森の中に迷い込んでしまいます。そこで出会ったのは、タイ人の親子とフランス人青年。癒されたい一心で訪れた国なのに、相手の言葉を理解できず、自分の言うことも理解されず、ここが何処であるかも分からずに、不安と苛立ちは最高潮。そんな彼女を救ったのは、タイ人の母親が教えてくれたタイ古式マッサージ。都会から纏ってきた鎧のような緊張も、見知らぬ土地にいる不安も、緑濃く瑞々しい自然の中で徐々に取り除かれていくのです。

 この作品には、身体の滞りはもちろん、心の滞りを流し、本来の自分に戻ろうというメッセージが込められています。お疲れ気味の現代人には、心に響くシーンも多いこの作品。同様の目的を持つタイ古式マッサージは、重要なモチーフにもなっているのです。

 私自身、二度ほどタイ古式マッサージを受けた経験があるのですが、押されたり、伸ばされたりしているうちに、鈍感になっていた身体感覚が蘇ってくるのを感じました。ゆっくりとした動きの中で、一枚一枚、自分を覆っていた緊張のベールがはがされていくようで、自分の身体がどれほど強張っていたかを思い知らされました。忙しい生活の中で、どうやら脱力することを忘れていたようです。このマッサージは、ゆっくりと少なくとも2時間ほどを費やすことが望ましいとされています。2時間というと短いように感じるかもしれませんが、携帯やパソコン、俗世から完全に離れることができる2時間は、現代人にとって貴重。そのせいもあって、深い瞑想状態も体験できます。

 病院に行くほどではないけれど、ここのとこなんだか調子が悪いという方は、ちょっとタイ古式マッサージを受けたくなったのでは? 最近は、信頼できるサロンも増えてきて、女子の間でもかなり盛り上がってきていますから、女性にお勧めサロンを教えてもらうのもいいでしょう。男性ではなかなかこの種の情報は集めにくいものですから、いっそ完全に頼りきって、“一緒に連れて行って!”とお願いするのもいいかもしれません。実は、男性が女性と一緒に施術を受けられる部屋を用意しているサロンもあるのです。「一緒にスポーツクラブに行く」程度の軽い感覚で誘えば、警戒されることもないはず。気軽に誘った割には、親密なひとときを共有できるかもしれませんよ。

【筆者プロフィール】
牧口じゅん
映画ライター。通信社、映画祭事務局、webマガジンの編集部を経てフリーに。
映画そのものの話題はもちろん、周辺ネタを追いかけるのが好き。
現在は女性誌を中心に映画紹介、インタビュー記事を執筆。

【映画データ】
七夜待
『七夜待』
11月1日より、シネマライズ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
上映時間:90分
配給:ファントム・フィルム
公式HP:http://www.nanayomachi.com


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