2010.01.07UP
年明け早々、ある映画のDVDの発売記念トーク・ショーに参加することになった。
その映画というのは去年の夏のこのブログ(2009・7・9UP)で紹介した"Scott Walker 30 Century Man"というドキュメンタリーである。
海外では非常に評価の高い作品だが、スコット・ウォーカーというカルト的な存在のアーティストにふさわしく、いかにもマニアックなこのドキュメンタリーがわが国では劇場公開はおろか、DVDの発売など思いも寄らぬこと、と思っていた。
ところがなんと、その日本版が出るという驚くべき情報が飛び込んできた。年末も押し迫ったころアップリンクという映画配給会社からの連絡だった。
『スコット・ウォーカー 30世紀の男』という邦題で、1月15日発売だという。日本語字幕の翻訳も進行中で、ついてはこの僕にその字幕監修を担当してもらえないだろうか、という打診であった。字幕監修の経験などまったくないので、最初は戸惑ってしまった。

『スコット・ウォーカー 30世紀の男』DVD Photo (C)Chris Walter
よりによってなぜこの僕に? その理由は、うれしいことにアップリンクのスタッフがこのブログに目を通してくれていたからだった。
という訳で、解説(ライナーノーツ)共々この仕事を引き受けることとなった。初体験とはいえ、もともとの翻訳がしっかりしたものだったので、作業は比較的スムーズに進んだ。固有名詞や音楽業界用語のチェックを中心に、明らかな誤訳と思われる箇所をいくつか指摘したのだが、映画の字幕が小説の翻訳などとはまったく性質の違うものであることを改めて実感させられた。
たとえば──字幕は1行に最大13.5文字(0.5は半角)、目安として1秒に対して4文字が最大文字数、[、]や[。]は使わない、などの厳しい制約に加えて、字幕の順番や、字幕の表示が始まるタイムコードを示す何桁もの数字の羅列に正確に適応させていかなくてはならない。大胆な意訳や、省略などがどうしても不可避となるわけである。

スコット・ウォーカー
「スコット・ウォーカーのことをなにか知っている人間なんているだろうか?」と語っているのは、このドキュメンタリーの製作総指揮を務めたデイヴィッド・ボウイ(ちなみにデヴィッド・ボウイというよく見る表記はしっかり改めた)だが、謎と神秘のヴェールに包まれたスコット・ウォーカーの人物像と音楽性に肉薄を試みた作品の内容については、前述のブログを参考にしていただければ幸いである。

デイヴィッド・ボウイ
ただし、1箇所だけ訂正をお許し願いたい。それはブライアン・イーノのスコット・ウォーカーのアルバム評を引用した部分──[ロクシー・ミュージックもトーキング・ヘッズもこのアルバムから一歩も進化していないなんて、情けなくなる]とあるのは正確には、[これを聞くのは屈辱的だ 今でも これを超えられない ロキシー・ミュージックや トーキング・ヘッズの 真似をしているバンドだらけだ]となる。実際の字幕を引用したが、ロクシーの表記だけはあまり馴染みがなさそうなので残念だがロキシーのままにした。
字幕監修という役割のおかげで自分自身の'誤訳'を見つけられたのはいかにも皮肉だが......さて、肝心のトーク・ショーの会場は渋谷のアップリンク・ファクトリー。僕が参加するのは1月13日の夜。19時30分からの『スコット・ウォーカー 30世紀の男』(本編95分)の上映終了後、小休止をはさんで21時15分頃からスタートの予定。
ご一緒するのは音楽評論家の中山康樹さん。これが初対面となるが、スコット・ウォーカーの音楽を20世紀でも21世紀でもなく、たしかに30世紀のものなのかもしれない、と著書の中で述べている。
僕はタイトルの[30世紀]を、ギリシャ神話のオルフェからの時間の流れ、と違う捉え方をしていたので、中山さんとのトークがとても楽しみだ。
