2010.01.19UP
突如、試写室の床が抜け落ちたのかと錯覚しそうな大音響が轟いた──『パラノーマル・アクティビティ』という映画のワン・シーンでのことである。
画面に映っているのは、監視キャメラが捕らえた何の変哲もない、どこにでもありそうなベッド・ルームで、若いカップルが眠っている。時間は真夜中で、物音ひとつしない静寂に包まれている。静止状態さながらの、無音の映像がずうっと続いている......。
そこへ突然、前述の地響きのような轟音! その衝撃度は並みのものではない。

「パラノーマル・アクティビティ」 1月30日(土)よりシネマサンシャイン池袋、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
(C) 2009 Oren Peli d.b.a. Solana Films.
イスラエルに生まれ育ち、19歳でアメリカに移住し、アニメーションとヴィデオゲームのプログラム開発に携わってきたというオーレン・ペリが監督、脚本、製作、編集を手がけたこの映画は、わずか15,000ドル(約135万円)の経費と、たった7日間の撮影で完成した、という。
主要キャストはたったの二人──教師志望の女子大生ケイティを演じるケイティ・フェザーストンと、デイトレイダーのミカを演じるミカ・スロートで、どちらもこれが初めての映画出演というアマチュア同士だ。
ストーリーはシンプルそのもの──2006年、カリフォルニア、サン・ディエゴ郊外の一軒家で暮らすケイティ&ミカのカップルは、毎晩彼らが寝付いたあとに家の様子がいつもと変わっていることに気がつく。
自分たちの家に起こっている"何か"を突き止めようと、二人は生活の一部始終をヴィデオ・キャメラで撮影することにする。寝るときは、パソコンに繋いだそのキャメラを監視用にベッド・ルームに設置することも忘れない。
『パラノーマル・アクティビティ』はケイティとミカの家族、およびサン・ディエゴ警察に残されたヴィデオ映像のみで構成されている、という設定であるから、スクリーンに映し出されるのは一切手の加わっていない生の映像ということになる。
あの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド/HAKAISHA』など一連のフェイク・ドキュメンタリーとまったく同様のスタイル、といえるだろう。手持ちキャメラ特有の落ち着きのない動き、ピントのぼけなどいかにもアマチュアっぽい映像の数々を、キャメラを手にしたミカ役のミカ・スロート自身が担当している点でも前述の作品群と共通している。
しかし、この映画の新機軸ともいうべきは、ミカの手持ちキャメラが、ベッド・ルームの壁の上部に設置されて、監視キャメラの機能を果たすシークェンスの数々である。
ショック効果を狙って、やたらとキャメラを乱暴に、派手に振り回すのがホラー映画の常套手段だとすれば、このベッド・ルームの固定されたキャメラはその対極にある。
夜ごと映し出されるのはダブル・ベッドと、その脇にあるドアを中心とするありふれた室内の光景。時間軸に沿って、第一夜から順にその模様が映し出されていく。基本的には毎晩同じ光景が続くのだから、記録されたすべてではなく、いくつかの夜が割愛されているのも気が利いている。
ドアが少し開いたり、シーツが微妙に動いたり、消したはずのTVのスウィッチが入ったり......日を追って超常現象が徐々に変化していくとはいえ、これらのシークェンスの最大の見所はそうしたヴィジュアルにもまして、サウンドによってもたらされる効果のほうである。
たとえば最初の夜──見た目には何の変化も起こらないが、かすかに低周波のノイズが聞こえてくるだけで、一気にサスペンスが高まっていく。その後も、様々にトーンを変えながら正体不明のノイズが、画面の外のあちらこちらから聞こえてくる、という仕掛けが最初にすさまじい効果をあげる瞬間については最初に紹介したとおりだ。
これらのシーンでは音が完全に主役、といっても過言ではない!これは音を観る映画、と言い換えてもいいだろう。その効果が最高潮に達するクライマックスの衝撃は特筆ものといっていい。余談ながら、エンディングは、この映画のクオリティーのあまりの高さに驚愕したというスティーヴン・スピルバーグの意向を踏まえたヴァージョンに変更されている。
ここまで過激ではないが、僕はかつて同じような音を観る楽しみを味わった映画を思い出した。他でもないオカルト映画の傑作『エクソシスト』である。それも序盤──少女の悪魔憑きの前触れの段階で、母親が家の中で正体不明の不気味なノイズがすることに気がつくエピソードだ。最初は屋根裏から......。
『パラノーマル・アクティビティ』がある部分、『エクソシスト』の序盤の展開に酷似していることに思い当たり、試写を見た日、久しぶりに『エクソシスト』をDVDで観た。
ディレクターズカット版で、5.1chサラウンドEXとあって例のノイズが様々の方向から響いてくるところは、何度繰り返し観てもぞくぞくさせられる。

『エクソシスト ディレクターズカット版』DVD (C) ワーナー・ホーム・ビデオ
もしそうだとすれば、ペリは自分の映画が『エクソシスト』の序盤の展開に触発されたものであることと同時に、ウィリアム・フリードキン監督のそれとはまったく次元の違う、デジタル・エージならではのストーリー・テリングに挑戦したことを宣言したかったのかもしれない。
いずれにしろ、また一人、将来が楽しみな映画作家が登場した。
