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2010.03.05UP

2度観て、2倍楽しめるスコセッシの新作

「シャッター アイランド」

「シャッター アイランド」4月9日(金)よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
(C)2010 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

マーティン・スコセッシ監督の「シャッター アイランド」を2度も観た。
1度目はもっぱらストーリーの展開、とりわけミステリーの謎解きに集中
してスクリーンを眺め、どんでん返しに騙される快感をたっぷりと味わった。
そして、2度目は全編に張り巡らされた巧みな伏線の数々を再確認する
楽しみを堪能した。

われながら驚いたことに、すでにトリックを知っていながら観た2度目の
ほうが、1度目よりもはるかに楽しめたのである。さすがはスコッセシ!
映画の一番の魅力がかならずしもストーリーではないことを見事に証明
してくれた。

映画の最大の楽しみが、内容もさることながら、その語り口、つまり
監督のスタイルにある、という点でも映画は他の芸術と同様なのである。
スコセッシはその第一人者といっても過言ではない。

「シャッター アイランド」

「シャッター アイランド」4月9日(金)よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
(C)2010 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

レオナルド・ディカプリオが演じる連邦保安官テディが、新しい相棒
チャック(マーク・ラファロ)とともに、ボストンの沖合に浮かぶ孤島
"シャッター アイランド"を訪れるところから映画はスタートする。
彼らの目的は、その島にある精神を患った犯罪者を収容する病院から
失踪した女性患者の捜査だ。

ネタばれになる恐れがあるので、序盤の設定だけを簡単に紹介すると......
患者の名はレイチェル。わが子3人を殺して収容されていた彼女が、
前夜、厳重に警護された個室から煙のように消えてしまったのだ。
院長のコーリー(ベン・キングズレー)から事情説明を受けたテディと
チャックは患者たちへ聞き込みを開始する。

しかし、レディスという患者を知らないか、と失踪事件とは関係のない
質問を繰り返すテディにチャックは怪訝な表情を浮かべる。レディスとは、
アパートに火を放ち、最愛の妻ドロレス(ミシェル・ウィリアムズ)を
死に追いやった放火魔のことで、この病院に収容されている彼を見つけ
出し自らの手で制裁を加えることが、この島を訪れた本当の目的である
ことをテディは打ち明ける......

スコセッシといえば<映画の生き字引>と誰もが認めるほど、映画に
関しての博覧強記ぶりで知られる存在である。この新作に関しても
撮影のスタートの時点で、彼は題材に関連した有名無名の映画の数々を
スタッフおよびキャストに見せて、インピレーションを与えようとした、
という。
マーティン・スコセッシ

「シャッター アイランド」4月9日(金)よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
(C)2010 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

プレス・シートに列挙されたそれらの作品の数々は、残念ながら大半が
本邦未公開作だが、第2次世界大戦、そして50~60年代の精神病院の
実態を伝えるものだ。ちなみに「シャッター アイランド」の設定は
1954年、ハリケーンのシーズンの4日間となっている。また、
主人公テディは従軍し、ナチスのユダヤ人収容所の惨状を目撃、
深いトラウマを負っている。

戦場のトラウマと妻を失った衝撃などから引き起こされる幻覚症状が、
いつしか現実との境界線を見失わせていくというめくるめく展開は、
あのデイヴィッド・リンチに勝るとも劣らぬスコセッシならではの
見せ所、といいたい。

さらにまた、字幕に神経を使う1度目と違って、映像に集中できる
2度目の楽しみは、この監督の<生き字引>ぶりである。随所に
仕掛けられた映画的記憶を喚起させるショットの数々は、映画ファンに
とってたまらない楽しみといっていい。


スコセッシはこの新作で、自作の引用という大技を繰り出して僕を
驚かせ、うれしくさせてしまうのだ。それもなんと、いきなり
オープニング・シーン!しかも、引用されるのはよりによって
この監督の2大傑作たる「タクシー・ドライバー」と「レイジング・ブル」。

島を目指して進む船の中──船酔いで猛烈な吐き気に襲われたテディは
トイレに駆け込み、何度も何度も吐く。ようやく落ち着きを取り戻した
彼は、それから鏡に向かってしっかりしろ、と自らを励ますように
声をかける。

「シャッター アイランド」

「シャッター アイランド」4月9日(金)よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
(C)2010 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

鏡の中の自分に話しかけるディカプリオの姿に、前述の2作のロバート・
デ・ニーロが重なって見えないというスコセッシ・ファンがいるだろうか?

重く、深く垂れ込めた霧の中から抜け出たテディとチャックの
目の前に、島が忽然と姿を現すシークエンスは「キング・コング」の
スカル・アイランド登場のシーンさながらといえまいか?

彼らが招きいれられた病院の光景──いかにも無気力な患者たちと、
白いユニフォームに身を包んだ屈強そうな黒人を中心とする看護
助手たちの姿は、「カッコーの巣の上で」を即座に連想させはしないか?

テディの目の前に現れたレディスの風貌──額の右上から眉間を通り、
左の頬まで深く刻まれた醜悪な傷跡と、傷口を縫い合わせる金具の
不気味な輝き。これは紛れもなく、「フランケンシュタイン」の
主人公が生み出した怪物そのものといっていい。この<フランケン
シュタインの怪物>のモチーフがもたらすシンボリックな意味合いに
関して、ここではこれ以上語るわけには行かないが......。

そして、クライマックスの舞台となる灯台、その内部の螺旋階段
──わが最愛のヒッチコック作品である「めまい」がよみがえる!

なぞの数々が解き明かされ、登場人物たちが抱える秘密の数々も
明らかとなって、もう一度眺めるスクリーンの上では、同じセリフが
別の意味を持ち、同じ表情が違ったニュアンスを漂わせる。
同じ映画がまったく新しいもう一本の映画のごとくに見えてくる。

スコセッシのこの新作は2度目のほうがはるかに面白い所以である。

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今野雄二(映画・音楽評論家)
1943年生まれ。北海道出身。国際基督教大学(ICU) 卒業後、出版社勤務を経て評論活動へ。「11PM」など数々のTV、ラジオ番組で映画、音楽を紹介。「週刊朝日」の星とり評を連載中。

Title Photo:Tsuyoshi Harikae
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