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2009.03.17UP

3月17日(火)ガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』の試写を観る。

 ガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』の試写を観る。
 ヴァン・サントは、ハーヴィー・ミルクの物語をどこから語り出すのか。その始まりの部分が印象に残った。1970年のニューヨーク、スーツを着たビジネスマンのミルクが、地下鉄の階段で20歳も年下のスコット・スミスに声をかける。スミスは、40歳以上はお断りだと答える。するとミルクは、自分はラッキーだと言う。その日の夜の12時を回るまでは39歳だからだ。そしてふたりは恋に落ちる。自分の殻に閉じこもっていたミルクは、"新しい世界"というスミスの言葉に動かされて、ニューヨークを旅立つ。その新しい世界とは、ゲイのメッカ、サンフランシスコのカストロ・ストリートだったことがやがて明らかになる。

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『ミルク』4月18日(土)よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目他にて全国ロードショー!(C)2008 Focus Features LLC and Axon Film Finance l, LLC. All Rights Reserved.

 ミルクがスミスと地下鉄の駅で知り合うのは、実際には彼が41歳の誕生日を迎えて間もなくのことだった。しかも、その当時、ミルクは殻に閉じこもっていたわけではない。彼は60年代末から、オフブロードウェイの舞台に関わり、カウンターカルチャーを牽引する人々と付き合うようになっていたし、短期間ではあるがすでにサンフランシスコにも住んでいた。

 閉ざされた世界を生きていたミルクが、新しい世界に旅立つ。それはヴァン・サント的な世界の入口となる。ヴァン・サントは、これまで自分の作品のなかで、様々なかたちで『オズの魔法使』のイメージやモチーフを引用してきた。彼の映画は、『オズの魔法使』のある種の変奏、あるいは現代的な解釈といえる。

 魔法の国で過ごす時間は楽しいが、いつか我が家に戻らなければならないときが来る。ヴァン・サントが関心を持っているのは、その魔法の国ではなく、むしろ帰り道の方だ。何らかの事情で現実と隔たりのある生活を送ってきた人間が、どのように現実を受け入れていくのか、あるいは、受け入れられないのか。彼はそれを描きつづけてきた。

 『ミルク』のハーヴィー・ミルクは、ニューヨークからカストロ・ストリートという魔法の国に旅立つ。そして、ゲイ・コミュニティのなかで、親しみを込めて"カストロ・ストリートの市長"と呼ばれるようになる。だが彼は、魔法の国に留まるだけではなく、公職選挙に出馬することによって、本当に政治に関わり、現実を受け入れ、そして変えていこうとする。この映画のラストでは、ミルクがスミスの"新しい世界"という言葉に動かされる場面が甦る。

 70年代を背景にしたミルクの物語が、どうして時代を越え、不思議なほど身近に感じられるのか。それは、ヴァン・サントがこだわる『オズの魔法使』のモチーフが生きているからでもある。

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大場正明(評論家)
1957年神奈川県横浜市生まれ。中央大学法学部卒。映画、音楽、書物その他の評論。著書・編著書は『サバービアの憂鬱』『CineLesson15 アメリカ映画主義』など。趣味は登山、写真、料理。
大場正明 HOMEPAGE http://c-cross.cside2.com
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