
運命に抗う男たちの哀しみを描いたルメットの新たな代表作
冒頭から見てはいけないものを見てしまったような気分になる。そして、その気分は映画が終わるまでつきまとう。「十二人の怒れる男」「狼たちの午後」「ネットワーク」など、多くの傑作を手掛けてきた84歳の名匠シドニー・ルメットによる新作は、ニューヨーク郊外で起きた強盗事件をきっかけに、ひとつの家庭が崩壊するまでの一部始終を描いた現代の悲劇である。
主人公は会社の金を横領して、麻薬漬けの日々を送る会計士の兄アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、娘の養育費を払えずに離婚した妻から「ルーザー(負け犬)」呼ばわりされている弟のハンク(イーサン・ホーク)。ともに経済的に切迫している2人は、人生を立て直すため、子供の頃からよく知っているという理由から両親(アルバート・フィニー、ローズマリー・ハリス)が営む小さな宝石店を襲う。だが、世の中そう甘くない。強盗は失敗に終わり、母親も失ってしまう……。
アル・パチーノが銀行内を所狭しと暴れ回った「狼たちの午後」と同様に、ルメットは本作でも破滅に向かって突っ走る男たちの焦燥をじりじりとあぶり出す。やがて、その焦燥は父親をも巻き込み、物語は最悪の方向へとなだれ込んでいく。もがけばもがくほどドツボに嵌まっていく2人を、ホフマンとホークは自らの脆さ、醜さを120%さらけ出し、見事に体現。運命に抗う男の哀しみを醸し出している。「評決」(1982年)以降、長い間精彩を欠いていたルメットだったが、ここにきて新たな代表作を作り上げた。
(C) eiga.com inc.

「十二人の怒れる男」「狼たちの午後」の名匠シドニー・ルメットの監督45作目。優雅な暮らしを送る会計士のアンディは、娘の養育費に窮している弟ハンクに、両親が営む宝石店への強盗計画を持ちかけ、2人は計画を実行に移すが……。ひとつの誤算から家族の抱える闇が浮き彫りになっていくサスペンスドラマ。「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマンが自らの不正の発覚に怯える兄を、「ガタカ」のイーサン・ホークが甲斐性のない弱気な弟を演じている。
原題:Before the Devil Knows You're Dead
監督:シドニー・ルメット
脚本:ケリー・マスターソン
製作総指揮:ベル・アベリー
撮影:ロン・フォーチュナト
音楽:カーター・バーウェル
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、アルバート・フィニー、ローズマリー・ハリス、アレクサ・パラディノ、マイケル・シャノン、エイミー・ライアン、ブライアン・F・オバーン
製作国:2007年アメリカ・イギリス合作映画
上映時間:1時間57分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
恵比寿ガーデンシネマほかにて現在公開中
http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/sonodoyoubi/
- 「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」あくどくておかしくてたまらない。毒と機略が地雷のように炸裂する 2008.11.27
- 「ハッピーフライト」航空機の飛行に関わるプロの姿を描く、グランドホテル形式の群像劇 2008.11.19
- 「X-ファイル/真実を求めて」TV版のファンなら腑に落ちるに違いない 2008.11.12
- 「レッドクリフ PartⅠ」ジョン・ウー監督インタビュー 2008.11.07
- 「リダクテッド/真実の価値」巨匠ブライアン・デ・パルマがその起源に立ち戻る映画 2008.10.30
- 「ICHI」綾瀬はるかインタビュー 2008.10.23
- 「その土曜日、7時58分」運命に抗う男たちの哀しみを描いたルメットの新たな代表作 2008.10.16
- 「容疑者Xの献身」人間ドラマにこそ比重を置いた、ささやかな良心作 2008.10.08
- 「アイアンマン」ロバート・ダウニー・Jr. インタビュー 2008.10.01
- 「アキレスと亀」北野武監督インタビュー 2008.09.25
- 「おくりびと」美学の極致まで達した死の儀式を見せる美しい映画 2008.09.18
- 「イントゥ・ザ・ワイルド」ショーン・ペン監督インタビュー 2008.09.10
- 「TOKYO!」レオス・カラックス監督インタビュー 2008.09.04
- 「20世紀少年」記憶の曖昧さを抱え込んだまま進む、壮大な物語のプロローグ 2008.08.28
- 「ダークナイト」クリスチャン・ベール インタビュー 2008.08.21






