
NYやパリ、ロンドンと並ぶカルチャー都市である東京を舞台に、3人の映画作家が短編を競作するオムニバス映画「TOKYO!」。「殺人の追憶」(2003年)、「グエムル/漢江の怪物」(06年)によって世界的な注目を浴びている韓国の気鋭ポン・ジュノ、MTVのスターディレクターから映画界に進出し、独自の世界観を展開する異才ミシェル・ゴンドリーとともに名を連ねているのが、レオス・カラックスである。17歳で映画監督としてデビューし、“ジャン=リュック・ゴダールの再来”と言われた早熟の天才。寡作な映画作家としても知られるが、この短編「TOKYO!<メルド>」も、「ポンヌフの恋人」(1991年)から8年空いて撮った「ポーラX」(99年)から9年目の新作となった。ミシェル・ゴンドリー、ポン・ジュノは、「自らの映画製作にもっとも影響を与えた重要な映画作家」と絶賛するが、ワールドプレミアされたカンヌ映画祭でも、もっとも熱狂を持って迎えられ、天才監督の人気の顕在を証明した。
レオス・カラックス監督インタビュー
「僕は、後退している現代に対して、
新たなアプローチを見つけなければならなかった」
──前作から長い時間が空きましたね。
「この間に、旅行をしたし、病気もした。恋をして、子供も生まれた。読書をして、物を書いて、映画を作ろうとして、資金調達に苦しみ、エネルギーと時間を費やした。何もしていなかったワケじゃないんだよ。自分のプロジェクトがなかなか実現しないでいるときに、『東京で撮影してみないか』という誘いを受け、それもいいかもしれないと思ったんだ」
──「メルド」は、ドゥニ・ラヴァン演じる怪人が、地下から這い出てきて人々を襲うというストーリーですが、このアイデアはどこから生まれたのですか。
「この企画のオファーを受ける数週間前、パリの大通りを歩いていたとき、地下道からクリーチャーが出てきて、ピストルで通行人を殺すというシーンを想像したんだ。僕は、都市に対して、ときどき嫌悪感を覚えることがあって、そのときもまさにそうだった。で、このアイデアを、東京という街で使えると思ったんだ。それに、戦後のポップカルチャーや、ゴジラ、また、9.11との関係などが肉付けされ膨らんでいった」
──日本、あるいは東京とゴジラのイメージは、あなたのなかでどのように結び付いたのでしょうか。
「正直言って、映画『ゴジラ』のファンというわけではなかった。脚本を書き終える頃、日本についての資料のひとつとして、50年代に撮られたオリジナルの『ゴジラ』を観た。3歳の娘と一緒に観ていたんだが、彼女がゴジラを大好きになったんだ。僕は、娘がゴジラに魅了されているということにより興味を持ったんだ」
――核実験の影響で生まれたゴジラは、人間によって作り出されたクリーチャーです。敵のようでいながら、人間の子供でもある。地下道の怪人メルドも、人為的に作り出されたクリーチャーというメッセージが託されているのでしょうか。
「ゴジラだけでなく、キングコングなどこうしたクリーチャーは、すべて人間が作り出したものだと思う。ジキルとハイドと同様に、我々人間の裏表なんだと思う。で、そうしたクリーチャーは、みんな子供なんだ。それが世の中に放たれる」
――メルド役に16年ぶりに、ドゥニ・ラヴァンを起用しましたね。かつて、彼はあなたの分身、アレックスを演じていました。再び彼を起用した理由は?

ミシェル・ゴンドリーの監督作
「TOKYO!<インテリア・デザイン>」。
「面白いことに、かつて、ドゥニ・ラヴァンが僕の分身だと言われると、『そんなことはない』と否定していた。でも、メルドに関しては、僕の分身だと言える。正直言って、彼の役を書くことは、簡単なんだ。同じ年齢で、身長も同じ。で、彼の身体は、ダンサーのようでもあり俳優のようでもある。かつて、僕のキャスティングはとてもシンプルなものだった。自分の恋人とドゥニ・ラヴァンを組み合わせれば良かったから。でも、あるときから、それをやめようと決めて、探すようになった。今では、この人と思える俳優を探すのは、もっとも難しい作業のひとつになってしまったんだ」
――9.11は、クリエイターとしてのあなたにどのような影響を与えたのでしょうか。
「9.11が起こったとき、僕の携帯電話にほぼ同時に2本の電話がかかってきた。ひとつは、NYで起こったことを知らせる電話で、もうひとつは、姉が癌にかかっているという電話だった。だから、9.11を考えるとき、僕は、より個人的な思いがある。あのテロ事件には、呆然としたとしか言いようがない。これまで、9.11についての本や映画などが書かれたり、作られたりしているけれど、語りきれたものはひとつもないと思う。あまりに、考えられないことなので、アーティストたちはあの事件に太刀打ちできないでいるんだ。思想を作れないでいる。僕は、この『メルド』を描くことで、自分なりに9.11事件について考察したつもりなんだ」
――過去のあなたの作品と比べると、コミック的な要素が多いと思いますが。
「TOKYO!<シェイキング東京>」で
香川照之、蒼井優を起用。
「メルドという大人のようでありながら子供、子供のように大人な人物を描くに当たって、ファルス(笑劇)というスタイルはふさわしいと思ったんだ。実際、今という時代は、さまざまなことが、後退しているように思う。それは、コミック的でもあり、恐ろしさもある。僕は、時代が後退していることによって、現代に対して、新たなアプローチを見つけなければならなかったんだ。完成した『TOKYO!』を観たとき、3つの作品のなかで、僕の作品が一番、子供っぽくプリミティブだと感じたよ。僕が3人のなかで一番年上なのにもかかわらずね。もちろん、僕は、いつも映画がプリミティブだった時代、つまり無声映画に影響を受けてきた。それは死ぬまで続くと思う。無声映画以降、それ以上の力のある作品はできていないとも思う。でも、僕は、『ただ過去のなかに留まっていればいい』と言っているわけではないけれどね」
――作品の最後に、次にメルドはNYに出没するというメッセージが現れますが。
「ジョークのようでもあるけど、実は、メルドの話の続きをNYを舞台に作ろうと思っているんだ。東京で撮影した一部を使って。次作に関しては、ロシアとアメリカを舞台にした『スカーズ(傷痕)』という作品も考えているので、何が先に撮れるのかわからないけれど。」(取材・文:立田敦子)

東京を舞台に、3人の映画作家が短編を競作するオムニバス映画。駆け出しの映画監督の恋人と一緒に上京してきたヒロコは、高校の同級生のアパートに転がり込む。東京で野心に燃える彼とは裏腹に、ヒロコは自分の居場所がないことに気づく「TOKYO!<インテリア・デザイン>」(ミシェル・ゴンドリー監督/藤谷文子、加瀬亮主演)。赤毛の髪・顎髭の男メルドが、マンホールから銀座の中央通りに出没、人々に危害を加えてはまた消えていく。やがて特殊部隊に捕らえられた彼は、特殊言語を口にする……「TOKYO!<メルド>」(レオス・カラックス監督/ドゥニ・ラヴァン、石橋蓮司主演)。10年間家に引きこもったままの男は、ひょんなことからピザの配達員の少女と目を合わせてしまう。そのとき突如激しい地震が起こり、少女は気を失い倒れる「TOKYO!<シェイキング東京>」(ポン・ジュノ監督/香川照之、蒼井優主演)。
2008年フランス・日本・韓国・ドイツ合作映画/1時間50分
配給:ビターズ・エンド
シネマライズ、シネ・リーブル池袋ほかにて現在公開中
http://www.tokyo-movie.jp/
(C)2008「TOKYO!」.
- 「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」あくどくておかしくてたまらない。毒と機略が地雷のように炸裂する 2008.11.27
- 「ハッピーフライト」航空機の飛行に関わるプロの姿を描く、グランドホテル形式の群像劇 2008.11.19
- 「X-ファイル/真実を求めて」TV版のファンなら腑に落ちるに違いない 2008.11.12
- 「レッドクリフ PartⅠ」ジョン・ウー監督インタビュー 2008.11.07
- 「リダクテッド/真実の価値」巨匠ブライアン・デ・パルマがその起源に立ち戻る映画 2008.10.30
- 「ICHI」綾瀬はるかインタビュー 2008.10.23
- 「その土曜日、7時58分」運命に抗う男たちの哀しみを描いたルメットの新たな代表作 2008.10.16
- 「容疑者Xの献身」人間ドラマにこそ比重を置いた、ささやかな良心作 2008.10.08
- 「アイアンマン」ロバート・ダウニー・Jr. インタビュー 2008.10.01
- 「アキレスと亀」北野武監督インタビュー 2008.09.25
- 「おくりびと」美学の極致まで達した死の儀式を見せる美しい映画 2008.09.18
- 「イントゥ・ザ・ワイルド」ショーン・ペン監督インタビュー 2008.09.10
- 「TOKYO!」レオス・カラックス監督インタビュー 2008.09.04
- 「20世紀少年」記憶の曖昧さを抱え込んだまま進む、壮大な物語のプロローグ 2008.08.28
- 「ダークナイト」クリスチャン・ベール インタビュー 2008.08.21







