#52 伝説の場所で、若い頃の彼らの姿が幻のように浮かんできました (芦原すなお)
1. 「今日着ている、4人が飛び跳ねているシルエットが刺繍されたポロシャツは、リバプールのアルバート・ドックという波止場にあるビートルズ・ストーリーのビートルズ・グッズ・ショップで買ったものです。シャツのコレクターには、着ないで取っておく人もいるようですが、僕はどんどん着ます。生活のなかにこういう形でビートルズがあるのはいいですよ」
2. 「ショットグラスも、ビートルズ・ストーリーで買いました。グラスにただTHE BEATLES Storyと書いてあるだけなんですけど(笑)、お気に入りです。たまにこれでウィスキーを飲みますね」
3. 芦原さんが所属するバンド、ロッキング・ホースメンのCD『The Rocking Horsemen』。「91年に『青春デンデケデケデケ』が直木賞を受賞して、郷里で友だちがお祝いをしてくれたんです。その席で、小説のモデルになったバンドといっしょに演奏しました。それがとても面白かったので、正式にグループを結成したんです。丸17年間で、150回くらいステージをやりました。オーストラリアのシドニーで演奏したこともありますよ。いつ物故者が出てもおかしくないから(笑)、ちゃんと音源を残そうということで2008年5月に録音して、CDを作ったんです。僕が作詞作曲したオリジナル曲のみが入っていますが、ライブではビートルズの曲もやります。取り組んでみると、次々に発見がありますね。「エイト・デイズ・ア・ウィーク」は、コードが変わってもギターはEの開放弦をずっと鳴らしているとかね。本来は必要ない音を入れ続けることで、不思議な効果を生んでいるんです。どの曲にも常にそういう驚きがあって、飽きませんね」
66年のビートルズ来日公演は、興奮しながらテレビで観ました。香川県の少年には、武道館は遠かったです。東京の大学に通っていた僕の兄貴は抽選でチケットを当てて、生で観たんですよ。悔しかったなあ(笑)。
94年に『芦原すなおのビートルズ巡礼』という本のための取材で行ったのが、最初のイギリス訪問です。ロンドンとリバプールを中心に、ビートルズ関連の名所を細かく訪ねました。
ロンドンで印象深いのはアビイ・ロードです。横断歩道に信号がないので、車が途切れたときに渡って写真を撮ろうと思っていたら、イギリスのドライバーは紳士でね。停まってくれるんです。でも、そのうち白バイ警官が2人来て(笑)。「ムーブ・アワイ(立ち去れ)!」とロンドン訛りで怒られました。みんなあそこで写真を撮るから、お巡りさんはうんざりしてましたね。
リバプールでは、ペニー・レインが格別でした。ラウンドアバウト(バスロータリー)から道路が何方向かに延びて、広々していて。その日はきれいに晴れて、秋口なのに春のような日和でね。気持ちよくて、頭のなかに「ペニー・レイン」の曲が流れてきました。そこにいた子どもたちが、男の子も女の子も、伸び伸びして闊達で人懐っこくてね。自転車でついてきて、「道わかる? 案内してあげようか」なんて声をかけてくれるんです。
それから、ビートルズの行きつけだったパブをいくつか回りました。ジョンがいつも酒を飲んでバカ騒ぎしていたイー・クラックという店で、彼が好きだったカクテル、ブラック・ベルベットを注文しました。なめらかでおいしかったです。その日はサッカーの試合があって、リバプールが勝ったので、地元の青年たちが大騒ぎしながら入ってきました。店の親父が「うるさい! 騒ぐのなら帰れ!」と怒鳴ったりしてね。イギリスのサッカー・ファンはすごいですよ。もしリバプールが負けていたら大変だったでしょうね(笑)。その他、キャバーン・クラブ、ジョンとポールが出会ったセント・ピーターズ教会の裏庭、ジョンが育ったミミ叔母さんの家……。いろいろな場所に立って、そこにまつわる伝説を思うたび、若い頃の彼らの姿が幻のように浮かんできました。
イギリスだけでなく、ドイツのハンブルクにも行きました。ビートルズが腕を磨いたレイパーバーンは、ビートルズがいた頃よりずいぶんおとなしい街になったらしいんですが、ストリップ・ショーやアダルトショップなどのいかがわしい店がずーっと軒を連ねていてね。ある店でビールを飲んでいて、店員が「おかわりはどうだ」と言うので、もう1杯頼んだんです。するとシャンペンのフルボトルを2本も出してきて、しかもすでに栓が抜いてある(笑)。ずいぶんぼったくられました。あの街で過ごした頃、ビートルズはさぞかし楽しかったでしょうね!
ビートルズからは、好きにやってみる姿勢を学びました。とてもすばらしいことです。音楽は、専門的な訓練を受けた人がやるものだという概念を壊して、自分たちがやりたいものを作って歌ってみせた。僕は小説家になったわけですが、遠慮することねえじゃん、自分で書きたいものを書けばいいではないかと。そこにはビートルズ精神というものがあると思います。
取材・文/鳥居一希
芦原すなお
作家
1949年生まれ。香川県出身。早稲田大学大学院博士課程中退。86年『スサノオ自伝』でデビュー。90年『青春デンデケデケデケ』で第27回文藝賞受賞。翌91年同作品で第105回直木賞を受賞。以後、『ユングフラウ』まで、25作を超える著作を発表。かたわらロックバンド「ロッキング・ホースメン」の活動でも知られる。2007年9月から、四国新聞紙上で『野に咲け、あざみ』を連載中。同作品は、新聞に掲載された同日に、RNC西日本放送のラジオ番組で朗読されている。
四国新聞「エンタメ 連載小説『野に咲け、あざみ』朗読」HP






