僕とミカ・バン、ロンドン、そしてビートルズ / 加藤和彦 音楽家

―ビートルズのなかで好きなアルバムは何ですか?
K:一番好きなのは、イギリスでオリジナル発売されたEP盤の『マジカル・ミステリー・ツアー』。クオリティが高いし、いらないもんがない。熱狂的なファンは別として、ビートルズはなんでもOKじゃないし、例えば『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67年)の実験的な面白さはあるけど、好き? って聞かれても答えようがないよね。ただ、自分にとっては今までなかったことをやろうという姿勢や詞章的には影響を受けていると思うけど。それから2003年にリリースされた『レット・イット・ビー…ネイキッド』(注・本来の自然なままという意向で、フィル・スペクターの編集を拝した“素”の音源で再リリースされたもの)とフィル・スペクターのプロデュースした『レット・イット・ビー』を聴き比べてみたら、それぞれのよさが分かって面白かった。『ネイキッド』を追求しているのはザ・バンドに代表されるアメリカ系のグループが多く、でもイギリスは加工貿易の国だからレコード制作に要求される配慮を重視し、だからこそレッド・ツェッペリンやクリームのようなグループが誕生するんだね。

―話がまた戻りますが、『黒船』のレコーディングはどうでしたか?
K:今では当たり前のことが、当時は制作の関係者から理解を得るのが大変。クリスのプロデューサーもそうだったけど、スタジオをブロック(長期利用)することさえも説得が必要で(笑)。僕らはそのときレコーディングでは、生の演奏を忠実に再現しなくてもいいという考えをもっていたから、僕らの出来上がった楽曲をクリスのこうやったら面白いというオーケストレーションの感覚を活かして作りあげていった。クリスのレコーディングのテックニックは引き出しがたくさんあり、これはみんな勉強になったんじゃないかな。

―サディスティック・ミカ・バンドはプラスティック・オノ・バンドをもじったと言われていますが?
K:そうだけど、単にネーミングがよかったからで音楽性は関係ない。

―ポール・マッカートニーやジョージ・ハリスンは?
K:ポールはポピュラー度、ジョージ・ハリスンはミュージシャン・シップ、リンゴ・スターは独特のドラム。ジョン・レノンの圧倒的な存在感。

32年後のロンドンで

―最近、ロンドンには行かれましたか?
K:このあいだのミカ・バンのコンサートの前に曲を作っているときに煮詰まって、勝手に遊びに行って、これはプログラムにも書いたんだけど、タクシーに乗ったらブロンドの可愛い顔をしたドライバーが「ミカ・バンを知っているか?」と向こうから僕に聞いてきて、自分もドラムをやっていて「TAKAHASHIはすごい!」みたいなことを盛んに話してくれた。タクシーを降りるときに「僕はミカ・バンだよ」って言ったら、驚いたのか降りてきて握手を求められた。コンサートをやった直後ならわかるけど(笑)(注・1975年、ミカ・バンはロキシー・ミュージックのオープニングアクトとして全英ツアーを行なう。そのときのロンドン・ウェンブリースタジアムでのコンサートの模様は『ライブ・イン・ロンドン』に収録)。32年経っているけどいまだロンドンのうるさ方の記憶の断片として残っているんだね。

―ポリスのメンバーや元JAPANのスティーブ・ジャンセンやデヴィッド・シルビアンたちもミカ・バンのウェンブリーでの演奏を見ていて、衝撃的だったらしいですね。ところでロンドンでは買い物なんかもなさるんですか?
K:今、大都市へ行けば世界中同じものが買えるからロンドンでは、行きつけのテーラーとか靴屋、それから食器や家具を買う。そのくらいかな。

―さて、今後の活動は?
K:和幸も一段落して、今度、僕と小原礼クンと屋敷豪太クンそしてANZAというハーフの女のコとまたぞろバンドをやる予定です。

 初めてアルバム『サディスティック・ミカ・バンド』(73年)や『黒船』(74年)に針を落としたときのワクワクとした衝撃はいまも忘れられない。『それから先のことは』や『あの頃、マリー・ローランサン』などのソロ・アルバムでも加藤和彦さんが発信する音楽はいつも時代の最先端で輝き、その動向は我々のライフスタイルにまで及んでいる。それは『帰ってきたヨッパライ』(67年)から始まっているのだが、今日に至るまでその影響力は計り知れないものがある。

加藤和彦 音楽家

加藤和彦 かとう かずひこ

1947年京都市出身。アマチュアバンド「ザ・フォーク・クルセダーズ」の解散記念に制作したインディーズアルバムの『帰ってきたヨッパライ』が大ヒット(累計283万枚)。サディスティック・ミカ・バンドを結成し、イギリスツアーへ。90年代からは歌舞伎音楽を手がけ、また、映画「パッチギ」では毎日映画音楽賞受賞。2007年坂崎幸之助氏とのユニット和幸(かずこう)でアルバム『和幸:ゴールデン・ヒッツ』をリリースしライブを行う。


黒船/サディスティック・ミカ・バンド

「黒船/サディスティック・ミカ・バンド」
EMIミュージック・ジャパン
高中正義、小原礼、高橋幸宏、加藤ミカのオリジナルメンバーによる日本ロック史のエポックメイキング的アルバム。1974年発表


ライブ・イン・ロンドン/サディスティック・ミカ・バンド

「ライブ・イン・ロンドン/サディスティック・ミカ・バンド」
EMIミュージック・ジャパン
小原礼が脱退し、後藤次利が参加した1975年全英ツアーのライブ。高いパフォーマンスでロンドンの聴衆を圧倒した様子がうかがえる名盤



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