相倉久人 菊地成孔対談 後編
Real Jazz

LINE UP
MOVIE


e-days特集一覧


 今春、マイルス・デイヴィス研究本を発刊される予定の菊地成孔さんと、モダン・ジャズ評論の第一人者である相倉久人さんによる対談、今回はその後半。今年生誕100年を迎える究極の趣味人でもあった文筆家=JJこと植草甚一のエピソードから、最後は今後のジャズに対して求めるもの、どうあっていくべきかの道筋にまで及ぶ壮大な話へと展開していった。一字一句逃さず読んでほしいと思う。

取材・文/岡村詩野 写真/サコカメラ
相倉先生や山下洋輔さんから何を感じるかっていうと、それは黒人ぽさなんですよね(笑)。(菊地)
菊地:相倉先生はジャズについての文章をお書きになるきっかけとして「お金がなくて楽器が買えなかったから文章を書き始めた」という名言を残されていますが、楽器がなければ歌えばいいし、俳優なんかでもいい、というように思われたことはなかったのですか?
相倉:映画は2本出てるんですよ。『ツィゴイネルワイゼン』(80年)とかね。あれはね、最初、藤田敏八の役を私が、という話だったんですよ! でも、実際に(監督の)鈴木清順さんと改めてお会いして、「役柄にしては(性格が)明る過ぎる」ってことで(笑)、結局その役にはならなくて。でも、せっかくだからって他の役で出ることになった。当初は藤竜也がやるはずだった役なんですけどね。いや、嫌いじゃないんですよ、演劇や映画の世界もね。演出もやったことがあるし。ただね、映画は作りたかったけど、膨大なお金がかかるからね(笑)。
菊地:先生がジャズ評論から離れていかれた一番の理由というのは何だったのですか? ご自身のエピゴーネンが増えてきたのに息苦しくなってきたのかな?って思ったりもしたんですけど。あと、時代と共にジャズよりロックの方が集客が増えていったりもしましたよね。
相倉:エピゴーネンがどうの、というのもあったんですよ。僕自身ははぐれもののつもりだったんですけど、だんだんと権威になっちゃった。僕の周囲から山下洋輔が育っていったりしてね。で、今度は相倉を追い越してやれとか、あんなの撲滅してやれ!みたいなのが出て来たりして、まあ、でも、それはそれでいいと思っていたの。ちゃんと敵対する分には良かった。でも、あることがきっかけでこっちの真意が歪んで伝わっていったことがあった。それで、これはかなわんと思ったのがきっかけの一つ。まあ、そういうことがイヤで、僕は昔から弟子をとらない主義だったんですけどね。そもそも、僕は自分から率先してやった仕事ってないんですよ。全部依頼された仕事ばかり。司会もそう。「日本のジャズを変えようとした男」とかって言われたりしたけど、それはえらい迷惑な話で(笑)。ヘンな力学が働いて僕の方に人が集まってきていただけで、人から恨まれたりね。そういうのがイヤになったっていうのもありますね。そんな僕のことをいち早く理解してくれたのは唐十郎なんですけどね。僕はね、『ピットイン』が出来た時に「日本のジャズを育てよう」っていううたい文句だったんですけど、そういうのもすごくイヤだった。で、実際に山下洋輔が大きくなっていって、演奏はしてないけど僕のほうがジャズやってると思っていたのがそう感じられなくなった時に、違う方向に行きたくなった。それがジャズから離れたもう一つの理由ですね。
菊地:なるほどね〜。僕がそもそも相倉先生や山下洋輔さんから何を感じるかっていうと、それは黒人ぽさなんですよね(笑)。誰も理解してくんないんです。「山下洋輔は黒っぽいよ」って言ってもね。でも、そんなこと言ったらそもそも相倉先生が黒っぽいんだからって。「日本の古き良きモダン・ジャズを紹介して闘争していた人でしょ?」みたいに言われたりしてきましたけど、僕には相倉先生は黒っぽく感じるんですよ。で、それは結局ブラック・ミュージック、ジャズそのものなんですよね。で、その黒人ぽさっていうのは、やっぱり司会業、MCをやってこられたからなんだろうなって思うんですよね。ホントに、相倉先生の司会ってヒップホップ・クルーのMCそのものですから。日本では司会業に対する意識が低いっていうか、評価される土壌がないってだけで、一緒になってステージを盛り上げてそこに移入して行っているわけですからね。
相倉:僕ね音楽っていうのはあくまでも聴き手の耳が作るものなんだって思うんですよ。作り手が作るものじゃなくて。例えば海の波の音を音楽として聴くことができるのは、聴く人がそれを音楽として受け止めるからであって、でも、どんな高尚な音楽でも聴く人がいなければそれは音楽ではないってね。それを悟るきっかけになったのはジャズの司会業、MCだったんですよね。それでやりたいなと思ったのは「聴き取り学」というものの展開でね。要するに聴取の専門家でありたいと思ったの。ミュージシャンになりそこなって評論家になったって人は大体技術的なことに負けるんですよ。で、「これはこういうことですね?」ってミュージシャンに言うと「はい、その通りです」ってことになる。そういう接し方を否定はしないけど、僕は演ってる方も気づかなかった盲点のようなことを指摘したら、そのミュージシャンはものすごく喜んでくれる。そういうのを覚えたのがジャズの司会業でしたね。
NEXT PAGE

e-days「イーデイズ」は大人の感性を刺激するWEBマガジンです。