
選と文/編集部
アトランティック・レコードの魅力は、ゴスペルやブルースからR&B、ソウル、ロック、そして前衛ジャズにいたるまで、その取り扱う範囲の広さにある。広大なフィールドの中から、ひときわ光彩を放つ名作や重要作品、そして人気作品をここに紹介しよう。
Lee Konitz
Lee Konitz with Warne Marsh
リー・コニッツ
『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』
1955 Jazz
40年代半ば、颯爽と登場したチャーリー・パーカーによって、ジャズ界はビ・バップ一色に染まるが、そのなかでパーカーの影響下から離れたところで独自の表現を模索し、創り出し得たのがリー・コニッツだった。音楽的理論の近いテナーサックス奏者のマーシュとの共演盤である本作は、くつろいだ雰囲気の中にもコニッツならではの天才的なアイデアや美学が味わえる名盤。
Charles Mingus
Pithe Cantropus Electus
チャールズ・ミンガス
『直立猿人』
1956 Jazz
チャールズ・ミンガスを「前衛」の範疇に入れる人は今では皆無だろうが、ちょっと気取ったタイトルやジャケットのアートワーク、コンセプト・アルバムのような楽曲構成からはアヴァンギャルドな匂いが漂ってくる。R&Bが主力だったアトランティックにしてはかなり飛躍したプロデュースだったが、ギャンブルは大成功。ドラマティックで重厚な“ミンガス・ミュージック”の幕開けを告げる傑作となった。
Lennie Tristano
Lennie Tristano
レニー・トリスターノ
『鬼才トリスターノ』
1957 Jazz
ジャズの歴史を語る上では欠かせないアルバム。レニー・トリスターノのピアノ奏法や音楽表現は、アトランティックのドル箱だったルーツミュージックとは無縁の機械的で人間味の薄いものだったが、彼の音楽理論はリー・コニッツやビル・エヴァンスをはじめ、多くのジャズミュージシャンたちの拠りどころとなった。孤高の先駆者然としたジャケット写真が、彼の立ち位置を象徴しているかのようだ。
The Jimmy Giuffre
Jimmy Giuffre 3
ジミー・ジュフリー
『ジミー・ジュフリー3』
1957 Jazz
映画『真夏の夜のジャズ』冒頭の「The Train and The River」のグルーヴィな名演で広く知られるジミー・ジュフリーがアトランティックに残した傑作。クラリネットのジュフリー、ギターのジム・ホール、ベースのラルフ・ペーニャの三者が一体となって行う集団即興演奏は、決して難解ではなく、どこか牧歌的な雰囲気も漂う。高度な技術に裏付けられたエンターテインメントがここにある。
Ray Charles
Rock And Roll
(Halleluijah I Love Her So)
レイ・チャールズ
『ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー』
1957 R&B/Soul
伝記映画『RAY』で改めてレイ・チャールズとアーメット・アーティガンの関係が浮き彫りにされたが、本物の、しかも新しいタイプの黒人音楽を求めていたアーティガンにとって、敬虔なゴスペルをセクシャルなラブソングに生まれかえるレイの革新性は、まさにアーティガンが望んだものであり、また当時の大衆が求めていたものでもあった。レイの50年代初中期の代表曲が集められた決定盤。
Chris Connor
Sings The George Garshwin Almanac Of Song
クリス・コナー
『ガーシュイン・ソング・ブック』
1957 Jazz
ハスキーでジャジーな歌声で人気を集めた白人ヴォーカリスト、クリス・コナーによるジョージ・ガーシュイン作品集。ラルフ・シャフリン、レイ・エリスらによる都会的な洗練されたアレンジとミルト・ジャクソン、アル・コーンらの一流奏者との絡みが絶妙な仕上がりを見せている。本来はキメの荒いところもあるコナーだが、ここでは原曲のメロディを大きく崩さずに、丁寧に歌い上げているのが印象的。
John Coltrane
Giants Steps
ジョン・コルトレーン
『ジャイアント・ステップス』
1959 Jazz
「シーツ・オブ・サウンド(音の洪水)」と形容される、アドリブの構成要素をいったんすべてバラバラに解体して、それをまた猛スピードで再構築するかのようなコルトレーンの演奏スタイルは本作でピークを迎える。情念の欠けた実験的作品では終わらせずに、テナーサックスという楽器がもたらす「新しい美」を提示したところに、本作が名盤として長く語り継がれている理由があるのだろう。
Ornet Coleman
The Shape Of Jazz To Come
オーネット・コールマン
『ジャズ来るべきもの』
1959 Jazz
調子はずれの音、セオリーを無視した作曲方法など、まるでキュビズムが画壇に初めて登場してきたときのようだった、とたとえても大げさではないほどにオーネット・コールマンの革新性、先進性はきわだっていた。しかし本作が「前衛」と言われたのも今は昔。さまざまな音楽があふれかえる現代の耳には、一服の清涼剤と呼んでもいいほどに、ナチュラルで歌心にあふれた演奏が展開されている。
John Coltrane
My Favorite Things
ジョン・コルトレーン
『マイ・フェイヴァリット・シングス』
1961 Jazz
1960年、マイルス・デイビスのもとから離れたジョン・コルトレーンは、マッコイ・タイナーやエルヴィン・ジョーンズといった自分よりも若い世代を中心に自身の四重奏団を結成し、モード・ジャズの可能性をさらに広げようと突き進む。斬新なハーモニー解釈の下、限りなくフリーでエンドレスに続くかのようなタイトル曲は、ビートルズをはじめ多くのロック・ミュージシャンたちにも多大な影響を与えた。
Ben E.King
Don't Play That Song
ベン・E・キング
『ドント・プレイ・ザット・ソング』
1962 R&B/Soul
ジョン・レノンもカヴァーした代表曲「スタンド・バイ・ミー」を収録した、ドリフターズを脱退してソロとなって3作目のアルバム。後年ともすれば“オールドスタイル”と評価されがちではあるが、その瑞々しく、自由奔放でエモーショナルな歌唱方法は、実はのちのロック・ヴォーカルにも多大な影響を与えていることを忘れてはならないだろう。タイトル曲は、アーメット・アーティガンとの共作によるもの。
Booker T & The MG'S
Green Onions
ブッカーT&MG'S
『グリーン・オニオンズ』
1962 R&B/Soul
ブッカーT・ジョーンズのブルージーなハモンドとスティーブ・クロッパーによるエッジの効いたカッティングギター……タイトル曲は「クール」「ヒップ」という言葉の代名詞ともいってよい永遠の名演奏。メンフィスサウンドのお手本とされているが、時代を反映してか、西海岸の若者たちにもウケそうなサーフィンミュージック的な要素もあり、後年ほどのファンキーさはまだ見せてはいない。
The Drifters
Under The Boadwalk
ドリフターズ
『渚のボードウォーク』
1964 R&B/Soul
50年代、クローヴァーズ、コースターズなどのR&Bグループがヒットを連発してアトランティックの屋台骨を支えるが、60年代になってもその輝きを失わなかったのが、大御所ドリフターズ。クライド・マクファター、ベン・E・キングなどのスターを輩出したのちの本作のリード・ヴォーカルは、ジョニー・ルイスとルディ・トーマス。「渚のボードウォーク」「アップ・オン・ザ・ルーフ」などが収められている。
Otis Redding
Otis Blue
オーティス・レディング
『オーティス・ブルー』
1965 R&B/Soul
オーティスのアルバムはどれもレベルが高いが、あえて1枚を選ぶとすれば本作か。ヒット曲や代表曲が網羅されていることのみならず、ビートルズやザ・バンドなど多くのミュージシャンを魅了したアイデアがたっぷりとつめこまれている。全編にわたって哀しみにあふれたオーティス節が炸裂し、メンフィスサウンドを作りあげたバック・ミュージシャンたちの演奏も限りなくディープで重い。
Wilson Pickett
In The Midnight Hour
ウィルソン・ピケット
『イン・ザ・ミッドナイト・アワー』
1965 R&B/Soul
幼いときからゴスペルで鍛え上げたノドで豪快にシャウトするピケットのスタイルは破壊力抜群、R&Bの男性ヴォーカリストのひとつの理想像を作りあげたといっていいだろう。実力とは裏腹にデビュー以来あまりパッとしなったピケットの才能が陽の目を見るようになったのは、アトランティックに移籍して最初に発表したタイトル曲から。次作の「ダンス天国」でその人気を不動にする。
Solomon Burke
The Best Of Solomon Burke
ソロモン・バーク
『ザ・べスト・オブ・ソロモン・バーク』
1965 R&B/Soul
日本ではいまひとつのソロモン・バークだが、敬虔なクリスチャンということもあってか、アメリカでは抜群に人気が高い。そのスタイルはジョン・フォガティなどのロック系シャウターをはじめ、多くのヴォーカリストの範となった。本作は60年代の彼のヒット作を網羅したもので傑作揃い。いまだバリバリの現役で、先の「アーメット・アーティガン・トリビュー・コンサート」でもアフターパーティでステージを務めた。
Carla Thomas
Carla
カーラ・トーマス
『カーラ』
1966 R&B/Soul
60年代初めから「ウォーキング・ザ・ドッグ」などのダンス・ナンバーでファンキーなアプローチを試みたルーファス・トーマスは日本でももっとその功績を評価されてもいいが、その愛娘カーラがデビューを飾り、最大のヒット曲となった「ベイビー」を収録したアルバム。カーラのパフォーマンスも素晴らしいが、60年代半ばのスタックス全盛時代のバック・ミュージシャンによる演奏がすごい。
Sam & Dave
Hold On,I'm Comin'
サム&デイブ
『ホールド・オン』
1966 R&B/Soul
アーメット・アーティガン・トリビュート・コンサートでも元気なパフォーマンスを見せたというサム・ムーア。相方のデイヴ・プレイターは88年に惜しくも交通事故で他界したが、「サム&デイヴ」というダイナマイトデュオの名前は永遠に光り輝き続ける。エリック・クラプトンとBBキングもカヴァーしたタイトル曲をはじめ、これぞソウル、というスタックス黄金時代の名演が盛りだくさんの代表作。
Percy Sledge
When A Man Loves A Woman
パーシー・スレッジ
『男が女を愛する時』
1966 R&B/Soul
有名なタイトル曲は、アトランティックに初のミリオンセラーをもたらした傑作。アラバマ州で病院看護士をしていたパーシー・スレッジの成功は、まさにアメリカンドリームだった。その後不振の日々が続くが、05年発表の最新作で劇的なカムバックを果たし、アーメット・アーティガンが創設した「ロックの殿堂」入りも果たす。先のトリビュート・コンサートでもアフターパーティでステージを務め、その冥福を祈ったという。
Albert King
Born Under A Bad Sign
アルバート・キング
『ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン』
1967 Blues
3大ギタリストならぬ3大キング(BB.キング、フレディ・キング)の1人として、ブルースギター界に大きな影響を残したアルバート・キング。このアルバムは、彼がそれまで活動をしていたセントルイスを離れ、スタックスと契約した第1作にして最高傑作。クリームのカヴァーで知られるタイトル曲をはじめ、チョーキングを多用したシンプルで豪快なプレイをたっぷり聴くことができる。
Charles Lloyd
Forest Flower
チャールス・ロイド
『フォレスト・フラワー』
1967 Jazz
66年のモンタレイ・ジャズ・フェスでの実況録音盤。メンフィス生まれのテナーサックス奏者チャールス・ロイドは、65年に自身の楽団を作るが、メンバーはキース・ジャレット(p)、ジャック・デジョネット(ds)、セシル・マクビー(b)というスーパーバンドだった。サイケデリックでフォーキーなタイトル曲は、フラワームーブメント全盛の当時のニーズにぴたりとマッチし、ロイドは一躍時代の寵児となる。
Young Rascals
Groovin'
ヤング・ラスカルズ
『グルーヴィン』
1967 Rock
イタリア系移民によって結成されたヤングラスカルズは、デビュー当初はR&Bのカヴァーに終始する“ブルー・アイド・ソウル”系バンドだったが、3作目の本作でメンバーの作曲能力が開花、ほぼ全体をオリジナルで占めるようになる。大ヒットしたタイトル曲をはじめ、ラテン・フレイバーも加味されたNY出身バンドならではの多国籍的なグルーヴは、“ニューソウル”ムーブメントに影響を与えた。
Aretha Franklin
I Never Loved A Man The Way I Love You
アレサ・フランクリン
『貴方だけを愛して』
1967 R&B/Soul
ソウルの女王ことアレサ・フランクリンがアトランティックに残したアルバムはいずれも傑作だが、ここでは記念すべき第1作を取り上げる。オーティス・レディングのカヴァー「リスペクト」は、全米ナンバー1にも輝いたアレサの代表曲だが、タイトル曲もそれに劣らぬ名演。男の喉元に鋭いナイフを突き立てるかのようなアレサの迫力は、女性ヴォーカルの新しいスタイルを指し示すものだった。
Buffalo Springfield
Buffalo Springfield
バッファロー・スプリングフィールド
『バッファロー・スプリングフィールド』
1967 Rock
このバンドの代表作といえば、まずは2枚目の「アゲイン」、続いて3枚目の「ラストタイムアラウンド」となるが、このデビューアルバムも佳曲が揃い、非凡な輝きを放っている。当時はまだメンバーもレコーディング作業に不慣れだったと伝えられるが、そうした環境の中でも、バンドよりも個人のあり方が優先されるという、新しいバンド力学がすでに見てとれるところがとてもユニークで先進的だ。
