
あいにく小雨模様の土曜日、ふっとテレビに目をやると『ゴンチチ結成30周年記念ツアー』の告知スポットが流れている。アコースティックギター・デュオとして30年間活動を続け、いまやテレビ媒体を使っての集客をするほどになったのだ。地味なバンドなのに良くがんばっているな・・・そんなことを思いながら外出の支度をする。毎年夏、日蓮宗の名刹、東京池上本門寺・野外特設ステージで行われている音楽イベント、今年で5年目となる、『Slow Music Slow Live』に行くのだ。
わたしゃ、スローフード、スローライフ、ロハス、クールビズなどなど、言葉の意味はよく理解できるのだが、「みんなで楽しくエコロジー」とかはどうにも苦手な性格。でも、このイベントだけはちょっと別。出演アーティストが良質、そしてスタッフが一所懸命、夏フェスとか野外イベントというと、大きさや規模、出演アーティストを競ってしまう傾向にあるが、このイベントはゼンゼンそうではない。場所のせいもあるが、なによりもこぢんまりしているのが良い。
都内で行われる野外イベントは騒音問題に要注意。ヘビメタでガンガンだと会場近隣に大変な迷惑をかけることになる。しかしこの本門寺、2000人も入ればいっぱいになるようなスペースにアコースティック楽器中心のサウンド、そしてちょっとした音なら境内にあるたくさんの木々の緑が吸音材となり、いらない音は自然に吸いとられる。
いつの間にやら開演時間となり、髪にティアラ、身体にサリーをまとったお嬢さんが一番バッターで登場する。ヒンズー語を勉強し、インドに留学して音楽を学んだという沖縄出身の、ミナクマリ。素直な歌声、初めて観る人だが、つむぎ出す音は懐かしい。これはその昔ハマったシタールの音色だ。そう、ジョージ・ハリスン、ラヴィ・シャンカールだ! あれれ、どうにも古いかな、いまやノラ・ジョーンズの時代だもんね。インド楽器特有の共鳴弦が作り出すホワッとした残響が雨音にしみ込む。
続いてまたまた沖縄出身、多和田えみの登場。ちょっとハスキーでソウルフルな歌声。歌い終わっておしゃべりすると沖縄の方言が出てきて突然キャラクターが変わり「県民ショー」になってしまう。そこがとってもカワイイ。イーグルスの「desperado」を上手にカバーする。
会場内には野外イベントの名物でもあるテント屋台が数軒出ている。プルコギ丼、ロコモコ丼、ペンネ・アラビアータ、焼きおにぎりなどなど。私、野菜チジミ、ナスの漬物、白ワインをいただく。
ウクレレという単純きわまりない構造のインストが、こんなにも素晴らしく楽しく美しく、そしてまたソリッドで激しく荒々しい音を出せる楽器だったのだということを世に知らしめたのは次のステージ、ジェイク・シマブクロである。雨足がちょっと強くなると「ハワイもサムタイムス、雨。Rain is good」とおしゃべりも楽しい。ソロの他、チェロ奏者、柏木広樹とのコラボを数曲。オリジナルの他、ジョージ・ハリスンの「While My Guitar Gently Weeps」を巧みにカバー、聴かせます。
ちょっと霧雨っぽくなってきた頃、グループ名どおり、柔らかでメルヘンチックな歌を聴かせる、羊毛とおはなの二人組が登場。最近のアーティストは気軽にカバー曲を歌ってくれるので、我々おじさんたちは嬉しい。彼らはスティングの「Englishman In New York」をピックアップ、目のつけ所が面白い。
そして、元ちとせの出番となる。このライブ前日、北京オリンピック陸上400メートル・リレーで、日本チームがトラック競技では80年ぶり、男子は初めてというメダルを獲った。競技直後のインタビュー、4人の選手の「いままで陸上界を引っ張ってきてくれた多くの先輩たちの努力あったからこそ、ここまで来られた」というようコメントが清々しかった。音楽も同じだと思う。過去から今そして未来へとつながる道がある。誰もが多くの先人たちが築いた道をたどっている。ゴンチチがデビューした30年前、沖縄にはコンディション・グリーンという、いかにも本土復帰直後という感じのロック・バンドがいた。それ以来、沖縄がヤマトンチュー(本土)音楽に与えた影響は多大なものがある。ウチナンチュー(沖縄)の音楽なかりせばJ-ポップもこれほどの発展はしなかっただろう。そのなかでも元ちとせという歌い手の出現は、強烈だった。彼女のDNAが伝えるあの独特のこぶしまわし・ふしまわしは、ポップスを含む日本の歌謡シーンに新鮮な驚きを与えたものだ。
ふっと思いたって彼女の歌の途中、寺の境内を歩いてみた。近所の方々が場外に数十人、立ち並ぶお墓やお塔婆、降りしきる雨の中、傘をさしてじっと元ちとせの歌を聴いている。お寺ならではの光景だ。
今回のトリは、BAHO。スタートの「上を向いて歩こう」でしっかりお客をつかむ。地元、品川戸越銀座出身のcharとfrom OSAKA、石田長生のアコギ・ユニット。私、恥ずかしながら観るのは初めて。30年以上の芸歴を誇るベテラン二人、なんの問題もない。お気に入りのブルース曲からおなじみのヒット曲「気絶するほど悩ましい」まで、余裕でこなす。「お墓のまわり、ここもあそこもあちこちに霊が飛んでいる」と紹介して歌うのはビートルズの「Here, There and Everywhere」。ジェイク・シマブクロを呼び込み3人でベンチャーズの「Diamond Head」、テケテケテケ・・・を演奏。そしてアンコールは「Come Together」。バラエティに富む選曲とテクニック。お天気はいまひとつだったが、お客様も仏様も充分に満足できた夜であった。
(2008年8月23日東京池上本門寺・野外特設ステージにて)
亀渕昭信
1964年(株)ニッポン放送入社、69年から「オールナイトニッポン」のDJを務め「カメ」の愛称で大人気に。99年同社代表取締役社長就任、同社相談役を経て 08年6月同社を退任。近著に『亀渕昭信のオールナイトニッポン 35年目のリクエスト』(白泉社)。本誌では連載コラム「カメカメポップス」を執筆中。

