給料1万円の時代にLPが1枚2500円。収入の4分の1をレコードに使えない。そんなことから僕の若い時分は名曲喫茶が流行っていたんですよ。ところが今は、CDの値段は据え置きで給料が数十倍でしょう。音楽をインターネットでダウンロードすることもできる時代だからCDはまるで売れない。名曲喫茶が寂しくなるのも当然でしょうね」
名曲喫茶ショパンは、『読むだけで通になるクラシック面白エピソード』(ヤマハミュージックメディア)、『マエストロ宮本のおもしろクラシック100』(平凡社)などの著作で知られる音楽評論家、宮本英世氏がオーナーの店だ。
「ジャズ喫茶と違って名曲喫茶は、店主が曲をピックアップして空間を演出することはしないんですね。長い曲でも丸々流すのが基本スタイルなんです。名曲喫茶全盛の時代は聴きたい曲をリクエスト帳に記入して、順番が来る頃に店に戻ってくる、なんてことが普通でした。ところがオペラがリクエストされていると、聴きたい曲なんて回って来ないんですよ(笑)。そんな経験もあって、私の店では原則リクエストは受け付けない。ベストではないけれど、お客様間では公平ですよね」
となると、宮本さんの好みが反映されることになるわけだが…。
「そうですね(笑)。名曲喫茶でお客様の雰囲気に合わせて曲調を変えていくという店づくりは私の知る限りありませんね。クラシック音楽を、自宅では聴けないオーディオ・システムでじっくり聴くというのが名曲喫茶です。こんな空間でもない限り、落ち着いて交響曲を全曲聴くなどということは、なかなかありませんね」
この店では、声楽から管弦楽曲、室内楽などあらゆるジャンルのものが流れるが、店名にするだけあってショパンのピアノ曲がかかる頻度が高い。
「ピアノの詩人と呼ばれるだけあって、ショパンの音楽は本当に美しい。ただ私は、誰々の弾いたショパンの何々がおすすめだ、なんてことを強いたりはしません。誰が弾いたかより、聴く人が何を感じるかの方が大切だと思っていますから」
執筆、講演活動旺盛な人だけに、ちょっとしたきっかけから、音楽の話を面白おかしく聞かせる術がある。コーヒー1杯で、音楽と話が聞けるというのはいかにもお得だ。
「私の解説で、敷居が高いと思われているクラシックを身近な音楽として聴いてもらえるなら、話甲斐があるというものです。ますは親しみ、そこから音楽や空想・想像を楽しむことにつなげて欲しいものです」
取材・文/森澤郁夫 写真/関根則夫
1.新宿に店鋪をかまえていたが、都庁の新宿移転を機に、要町の住宅街に移った。
2.音はクラシック専用ともいえるタンノイの大型スピーカーから出てくる。「オーディオにはいろいろな考え方がありますが、私は音の出口が一番大事だと考えています」。
3.宮本さんが手掛けた書籍が並ぶ。ここで宮本さんの話を聞くのも楽しみの一つ。
4.キリン一番搾り600円、ブレンドコーヒー400円。軽食やアルコール類も揃う。
5.音楽企画・音楽評論の世界でも知られる存在の宮本英世さん。クラシックの音楽評論家と聞くと堅苦しいイメージだが、それとは裏腹に物腰の柔らかい、話好きの好紳士である。
名曲喫茶ショパン
東京都豊島区高松2-3-4
03-3974-7609
9:00~18:00
金
コーヒー400円、バタートースト300円


