今年5月でオープン30周年を迎えた代々木上原のジャズバー「por tin tin」を訪ねた。30年前には真っ白で味気なかったという漆喰の壁は薄茶色にくすみ、アールヌーヴォーやアールデコの家具とともに温もりを醸し出している。一歩ずつ確実に歴史を刻んできた店だけが持つ、本物の重厚感。隠れ家のようにひっそりと佇むこの店には、レコードから流れるジャズがよく似合う。
30年間にわたって店を切り盛りしてきたのは、外資系航空会社の客室乗務員からジャズバーの店主へと転身した大林由利子さんだ。「人通りが少なく静かで、目立たないところが気に入った」と、この地に店をオープンさせた。「まったくの素人だった私が30年間も続けてこられたのは、いつも様々なジャンルの素敵な飲んべえさんたちが集い、豊かな時間を共有できたからでしょう。時代の流れとともにお客様の層も飲み方も変りつつありますが、今も文化の香りを残していると思います」と話す口調は、仕事に対する誇りと愛情に満ち溢れていた。
クール・ジャズやモダン・ジャズを中心に1500枚を超えるレコードを持ち、昔から大のジャズファンだったという大林さん。しかし、過去に流行していたジャズ喫茶の形態にはやや懐疑的だったという。「物音一つたてず、シーンとした場所で一人聴くジャズも時にはいいかもしれないけれど、酒場のようにリラックスした雰囲気で聴けたら、お酒も美味しくより楽しいのでは…」店内は、お客の話し声とジャズの音色が入り混じり、いつも活気でいっぱいだ。
この30年間で、街の様相は大きく変わった。当時閑散としていた街には洒落たレストランやバーが建ち並び、人通りもずいぶんと増えている。「これからもっと若い人たちが増えて、代々木上原がどういう街に発展していくのか楽しみ」と話す大林さん。この店が40周年、いや50周年と続いていくことを、願ってやまない。
取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫
1. スペイン風のバーやフランスのビストロをイメージした店内。代々木上原駅から徒歩2分とアクセス至便だが、周囲は静かで喧騒とは無縁だ。
2. CDもあるが、レコードが中心。「ジャズは、レコードのほうが柔らかい音質でお酒に合う」とはママの弁。
3. 4.机や椅子から照明、時計まで、アンティークに囲まれた空間。漆喰の壁には、レコードジャケットがディスプレイされている。1人で来てもリラックスできる雰囲気だ。
5. ビールの中で最も人気が高い「キリンラガービール(中瓶)730円。ボリュームたっぷりの「チョリソー」850円とともに。
por tin tin
東京都渋谷区上原1-35-6 水上ビル1F
03-3465-6328
18:00~翌1:00(土は~深夜0:00)
日・祝
チャージ600円


