大通り沿いにあるビルの扉を開き階段を下りると、グランドピアノが出迎えてくれる。壁に埋め込まれたタンノイのスピーカーから流れるのは、バッハやモーツァルト。美しい音楽と向き合いながら、ドリップで落としたコーヒーを味わい、静かに会話を楽しむひととき…。1985年に開業した「カフェ アンサンブル」は時を経た今も、クラシック音楽を愛する人たちの憩いの場だ。
オーナーの望月正修さんは独学でピアノを学び、釧路管弦楽団の指揮を務めた音楽家。「当時はこのあたりには銭湯がいっぱいあってね。東大の学生さんがいっぱい来て、何時間も音楽を聞きながら勉強していたものですよ」とオーナーの奥様は当時を懐かしむ。1枚のレコードが初任給よりも高く、名曲喫茶が重宝されていた時代。誰もがスピーカーに正対し、真剣に音楽を聴いていたという。
今や、パソコンや携帯電話を通して曲を買える時代。音楽は手頃な娯楽となり、レコードを聴くためにわざわざ店に足を運ぶ人も少なくなった。それでも、“静かに集中して音楽を聴く”という店のスタイルは昔から変わらない。「ここには余分な雑音がないから、自分の中に音楽を取り込みやすい。よりよい環境で音楽を聴けるように、雰囲気づくりを心がけています」と話してくれたのは、両親とともに店に立ちながら選曲も担当している次男の文哉さん。BGMとして聞き流すのではなく、あくまでも音楽が主役の喫茶店。音楽を愛する一家とルールの分かる客によって、昔のままの雰囲気が守られている。
店ではときおり、クラシックのコンサートを開催。プロの演奏家たちが、息遣いが聞こえるほど間近で演奏してくれる。ときには、トップオーケストラの主席や、サントリーホールで演奏するほどの実力家も登場するというから見逃せない。
同じビルの2階では、10名の専門家が教える音楽教室も行われている。チェロ奏者である三男の直哉さんは、この教室の先生。聴くだけでなく演奏してみたい、と思ったら、扉を叩いてみるのもいいだろう。
取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫
1.日常から離れた独特の世界が広がる。店内には写真や版画、絵画などを展示。ギャラリーとしても活用されている。
2スピーカーはタンノイの「EDINBURGH」。開店当時から使っているが、一度も故障したことはないという。
3. 常連客からプレゼントされたビクターの蓄音機。これで聴くSPレコードは、不思議とリアル感があり、間近で演奏しているような錯覚に陥る。
4.レギュラー、ライト、ストロングの3種類から濃さが選べるブレンドコーヒー480円と、しっとりとなめらかな食感の手作りパウンドケーキ370円。
カフェ アンサンブル
東京都目黒区駒場2-17-8 ローズハイムまつながB1F
03-3467-6296
月・火・木・金11:00~21:00、木8:00~14:00、土・日・祝12:00~19:00
月・火・木・金11:00~21:00、木8:00~14:00、土・日・祝12:00~19:00
毎月最終月曜。コンサート開催時はお休み。


