都心から少し離れた、静かな駅。その正面にあるジャズレストランは、週末になるとジャズファンの熱気で満ち溢れる。これまでライブに出演したミュージシャンは、リッチー・コールやジョージ・ロバーツ、穐吉敏子、大野雄二など、そうそうたる顔ぶれ。人通りもまばらな街にある小さな店に、なぜ国内外の超一流ミュージシャンが集うのか。答えは簡単。マスターも超一流のミュージシャンだからだ。
ジョージ・岡田さんは、“日本のジョージ・ロバーツ”との異名を取るトロンボーン奏者。ナタリー・コール、サミー・デイビス・Jr.の来日公演やフランク・シナトラの来日公演・香港公演でバックを務めたと聞けば、ジャズファンならずともその実力を推し量ることができるだろう。
スタジオミュージシャンとしての実績も、群を抜いている。過去にレコーディングした楽曲は、実に3万5000曲以上。井上陽水や松任谷由実、山下達郎をはじめ、日本のトップアーティストのレコードにはほぼ100%参加している、と言っても過言ではない。
そんな岡田さんが、なぜジャズレストランを開いたのか。「日本の音楽がデジタル化しはじめた頃に、スタジオミュージシャンを辞めたんです。僕はアコースティックな人間だから、デジタルの音が大嫌い。デジタルの音は、人間の生理に合わない音だと思っています。本物の音楽を、本物の音で聴かせる場所を残したかったんです」。
天然木で作られた天井や壁は、絶好の音響装置。スピーカーを通さず直接耳に届く音楽には、大ホールでは味わえない高揚感がある。耳の肥えた客に乗せられて、「ついつい良い演奏をしてしまう」というミュージシャンも多いとか。海外の有名ミュージシャンも「さくらんぼうで演奏したい」とやってくる。
ライブ演奏のない平日や昼間には、JBLのスピーカーから流れるジャズに合わせて、地元の人々がリズムを取る。マスター自らサイフォンで淹れる有機豆のコーヒーや、奥様の手作り料理にもファンが多い。「音楽だけじゃなく、コーヒーも料理も内装も妥協できない。全部本物じゃなきゃ駄目なんです」。世界の本物を知る超一流のこだわりは、とどまることを知らない。
取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫
1.マスターがシナトラと共演した際の写真やレコードジャケットが飾られている。時計はすべて、シナトラが亡くなった時刻である2時50分を指している。
2.JBLの大ホール用スピーカーは、日本に数本しかない逸品。ボックスはマスターの手作りだ。半年間かけて音のバランスを調整したという。
3.真空管が入ったドイツ製のマイク。もともとはレコーディングスタジオ用に作られたもので、自然で美しい音声が楽しめる。
4.キリン一番絞り(生)600円。人気のカレーをはじめ、オムライスや豚しょうが焼きなどの食事メニューも充実している。
5.マスターのジョージ・岡田さん。ビッグバンド「宮間利之&ニューハード」のトロンボーン奏者としても活躍している現役のミュージシャンだ。
ジャズレストラン さくらんぼ
東京都調布市菊野台2-22-3-2F
042-488-0626
12:00~深夜0:00
正月
ライブ開催時ミュージックチャージ、ミニマムチャージあり※ライブにより料金は異なる


