店に入った瞬間、サウンドの素晴らしさに心を揺さぶられる。空気を含んだ、柔らかくも芯のある音。名プレーヤーがまるで目の前で演奏しているかのような錯覚は、この店を訪れた人だけが味わえる特権だろう。
白山駅の目の前にある『JAZZ喫茶 映画館』。この店の特徴は、マスターのこのひと言に凝縮されている。「真剣に、レコードを聴きに来て欲しい」。
大音量を奏でる真空管アンプも、滑らかな曲線を描くウッドホーンも、音にうるさいマスターがこだわり抜いた末に完成させた自作。かけるレコードは、フリージャズなどのハード系が中心で、BGMになるようなソフトなジャズはほとんどかけない。大声での会話や携帯電話の使用など、音楽鑑賞の妨げになる行為はご法度だ。
とはいえ、初心者お断りの店、というわけでは決してない。「ジャズを知るには、中途半端な知識を身につけるよりも、耳で覚えることが大事」と語るマスター。知識はなくても聴く意志さえあれば、珍しいレコードを薦めたり、リクエストにも応えてくれる。実際、学生時代からここに通い、ジャズを覚えたという常連客も多い。
毎週土曜の夜には、ジャズ愛好家がレコードを持ち寄り鑑賞会を開いている。参加者の年代は30~70代と幅広いが、皆一様にジャズへの造詣が深く、和気藹々とした雰囲気。鑑賞会中も一部の席では通常営業をしているので、興味のある人は覗いてみるといいだろう。
実はマスターは、元ドキュメンタリー映画の監督。雑然と置かれた骨董品の中には、1920年代・フランス製の9・5ミリカメラや、フィルムケースで作られた照明など、珍しいものが多い。こうしたオブジェを眺めながらジャズを聴くのも、また一興。時おり、看板猫の“虎太郎”が足元をすり抜け、心を和ませてくれる。ジャズやオーディオのマニアはもちろん、音楽を愛するすべての人を、とことん満足させてくれる一軒だ。
取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子
1. 1976年に創業。店名は、創業当時に映画の上映会を行っていたことに由来する。現在、映画の上映は行っていないが、レコード鑑賞会や詩の朗読会、シンポジウム、写真展などのイベントを随時開催している。
2. マスター自ら木を削って作ったホーンを中心にとしたスピーカーシステム。ウーハーやツイーター、ケーブルなど、細部にまでこだわり、リアルなサウンドを実現した。
3. マスターの吉田昌弘さん。一見怖そうだが、慣れると気さく。もちろん知識も豊富で、真剣にジャズを聴きたい人にとって心強い存在だ。
4. 刻んだじゃがいもをたっぷり使った「オムレツ」680円は、常連のフランス人女性から教わったレシピ。コクのあるオリジナルブレンドの「コーヒー」は500円。また、「伊佐美」(700円)などのプレミア焼酎も手頃な価格で提供している。
5. 地下鉄・白山駅A3出口を出ると、白い看板が視界に飛び込んでくる。階段を下りてガラスの扉を開くと、そこは独特の空間。
JAZZ喫茶 映画館
東京都文京区白山5-33-19
03-3811-8932
16:00~23:30
日・祝日
イベント開催時には、木戸銭が必要な場合あり


