江戸時代より寺町として知られ、今も70数軒の寺が建ち並ぶ町・谷中。関東大震災や戦火を免れたこの町には、古い長屋や細い路地が昔のままの姿で残されている。最近は、下町情緒が味わえる散策コースとして、外国人観光客からも人気が高い。
『谷中ボッサ』は、そんな谷中の町に佇む、小さな小さな喫茶店だ。木の扉を開けると、そこは誰にも邪魔されない穏やかな空間。築100年の民家を改装した店内は居心地がよく、音量を絞ったボサノバは耳元で囁くように優しい。周りを見渡せば、地図を広げながら考えごとをする人、一眼レフで撮影に興じる人、道行く人々をぼんやりと眺める人……。それぞれが自分だけの時間にどっぷりと浸りながら、店の空気に溶け込んでいる。
「コーヒーを飲みつつ、長居してくださるお客様が多いですね」と話すのは、物腰柔らかなマスター。音楽はもちろん、コーヒーやアマゾンの自然、サッカーなどブラジルのすべてを愛して止まない、筋金入りのブラジル・フリークだ。「うちのコーヒーはすべて、無農薬・有機栽培の豆を使っています。有機のコーヒーはヘンな酸味や苦味がないから、体に良いだけじゃなくておいしいんですよ」と教えてくれた。料理に使う野菜も、なるべく無農薬や減農薬にこだわるなど、細やかな心配りが嬉しい。ブラジル・北東部バイーア地方の郷土料理「ムケッカ」や、手作りのケーキにもファンが多いという。
週末の夕方を中心に、不定期でライブも開催している。ボサノバはもちろん、キューバ音楽や韓国太鼓、弦楽と詩のコラボレーションなど、ジャンルは多彩。アンプやマイクに頼らず、小さな店ならではの親密なムードを大切にしている。
静かに流れる音楽を聴きながら、まったりと過ごすひととき。傍らには、体にも舌にも嬉しいコーヒーと料理。散策の途中に、ぜひ立ち寄りたい隠れ家だ。
取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫
1-2.店名の“ボッサ”とは、ポルトガル語で“隆起”や“らくだのこぶ”、転じて“波”や“傾向”という意味。「谷中の町で新たな潮流を生み出したい」というマスターの願いが込められている。
3.イギリスの有名メーカー“B&W”のスピーカーを設置。クセがなくどんな音楽にも合うため、プロのミュージシャンからも評価されている。
4.革張りのソファ席も用意。ひとりで来ても仲間と訪れても、きっとお気に入りの場所が見つかるだろう。
5.上質な酸味とシトラスの香りが楽しめる「モカシダモ」500円と、自家製の「本日のケーキ」500円。
喫茶 谷中ボッサ
東京都台東区谷中6-1-27
03-3823-5952
11:30~20:00
火(水は月に1日農作業のため不定休)
ライブは公演によって、チャージ無料の「投げ銭制」と「チケット制」の2種類がある。ライスカレー(ひとくちサラダ付)700円、キッシュ&サラダ700円など


