1978年から続く老舗のシャンソニエ『ピギャール』は、意外にもモダンな場所にある。東京ミッドタウンからほど近い、ビルの地下。扉を開くと、壁いっぱいに描かれたロートレック調の絵画、そしてアンティークランプから漏れる柔らかな光……。アールヌーヴォー期のパリが息づくインテリアに、心がざわめく。
「六本木には昔からシャンソンの店が少なかったんですよ。今も続いているのは、うちくらいじゃないかしら」と話すのは、名物マダムの神長まさみさん。伝説のシャンソン喫茶“銀巴里”で活躍し、パリの名店“ラパン・アジル”のステージに立った経験を持つ、現役のシンガーだ。40年以上にわたって唄い続けているが、シャンソンへの情熱は衰えるどころか増すばかり。「今でも誰にも負けないような大きな声が出ますよ。きっと皆さんに、パワーを分けてあげられると思います」と話す表情は、酸いも甘いも噛み分けたプロフェッショナルの誇りに満ちている。
店内中央には、グランドピアノを配置。月曜日はジャズ、それ以外はシャンソンと、連日ライブが楽しめる。若手からベテランまで、出演者の経歴はさまざまだが、「素人は出さない」のがポリシー。たとえ名前が知られていても、実力がなければお断り。マダムの厳しい耳で選んだプロの歌声は迫力たっぷりで、耳の肥えた客をも唸らせている。
ただし、毎週火曜だけは例外。 “お客様の唄の日”と題して、シャンソンを習っている一般の人々がマイクを握るからだ。最近は、中高年の間で再びシャンソンが流行しているという。「シャンソンの歌詞は、人生のドラマそのものなんです。だから年を重ねたほうが、歌詞の意味をより深く理解できるかもしれませんね」とマダム。直接マダムから教わることもできるので、興味を持ったらトライしてみるのもいいだろう。
客層は40~60代が中心で、ワインを味わいながらゆっくりとシャンソンに聴き入る人が多い。大人の街・六本木とシャンソンは、相性が抜群。愛好家にとっても、また初めて聴く人の入り口としても、都会の真ん中で“本物”に出会える場所だ。
取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫
1. ベルエポック時代のパリをイメージ。店名の『ピギャール』は、実在するパリの広場から名づけられた。
2-3. アンティークランプは、マダムがパリの骨董市で手に入れたもの。日本人女性画家が描いた絵画とともに、パリのエスプリを感じさせてくれる。
4. 仙台から取り寄せた『牛タンシチュー(パン付き)』1500円。『グラスワイン』は赤・白ともに1000円で楽しめる。
5. マダムの神長まさみさんも時折ステージに立ち、見事な歌声を聴かせてくれる。「大事なのは、お腹から声を出すこと。そして、聴いている人々の心に響かせること」。
ピギャール
東京都港区六本木4-4-11 第一ヴィレッジビル B1
03-3408-9103
18:30~深夜0:00
土曜・日曜・祝日
ミュージックチャージ4000円、チャーム1000円より。19:30までに入店すると5000円(1ドリンク・1ステージ)のサービスセットあり


