優れた音楽とジャケットを読み解く、クラシックファンのバイブル
LPで育った世代にとって、音楽メディアの中心がCDに移って一番さみしかったのは、ジャケットのサイズが小さくなったことかもしれない。縦横30cmの正方形というLPジャケットの大きさは「画面」としての魅力があった。逆にいえば、LPジャケットのサイズは、デザイナーの創作意欲を刺激するサイズでもあるのだ。
ビートルズの『Abbey Road』などを持ちだすまでもなく、LPジャケットのデザインはさまざまな逸話や伝説を生んできた。また、デザインの名作としてしられるジャケットも多い。ジャケットの話題といえばロックやポップスに偏りがちだが、クラシックだってどうしてなかなか、がんばっているのである。
この本は、「ジャケットのデザイン」という切り口でクラシックの名盤100枚を紹介している。著者はLPレコードの世界的なコレクターである高橋敏郎氏。5万枚におよぶ高橋コレクションの中から厳選された100枚とはどんなものだろうか。
「ロマン派」も「印象派」も、音楽用語であるとともに美術用語でもある。ショパンとドラクロワ、ドビュッシーとモネなどにかぎらず、音楽家と画家は互いに刺激を与えながら芸術の新たな地平を切り開いていった。先ごろ亡くなったムスティスラフ・ロストロポーヴィチも、シャガールと親交が深い。旧ソ連で不自由な演奏活動を強いられていたロストロポーヴィチが西側のオーケストラ(パリ管)を初めて指揮した『シェーラザード』のジャケットは、シャガールから献呈された美しい絵が飾っている。
本書では、さまざまなジャケットとそのエピソードを紹介しているが、LP時代はちょうど戦後の東西冷戦という時代とも重なり、全体に時代性を感じさせるジャケットが印象的だ。ジョン・F・ケネディの前で演奏するパブロ・カザルスなどその典型であろう。他にも日本人デザイナーによる傑作、歴史的名盤のそっけないジャケット(ホロヴィッツの復活ライブ)など、見飽きることがない。エピソードの紹介も秀逸である。
ちなみに、掲載されているジャケット写真は実物のCDと同サイズになっている。こういう小ワザを効かせるのは新潮社の「とんぼの本」シリーズの特徴かもしれない。音楽ファンとしてリクエストするならば、演奏者や曲名の索引なども用意していただきたかったと思う。

