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CD REVIEW

ロッド・スチュワートの集大成ともいえるベスト・アルバム発売!


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ロッド・スチュワート
スーパースター・ストーリー
〜ザ・ベスト・オブ・ロッド・スチュワート〜

ワーナーミュージック・ジャパン
2009年1月28日発売

<通常盤 2CD>
WPCR-13304 \3,280(税込)
<デラックス・エディション 2CD+DVD>
WPZR-30326 \3,980(税込)


【Disc1】
1.マギー・メイ
2.マンドリン・ウィンド
3.エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー
4.ステイ・ウィズ・ミー
5.ユー・ウェア・イット・ウェル
6.セイリング
7.キリング・オブ・ジョージー(パートI&II)
8.今夜決めよう
9.さびしき丘
10.胸につのる想い
11.ただのジョークさ
12.ホット・レッグス
13.アイム・セクシー
14.パッション
15.燃えろ青春

【Disc2】
1.トゥナイト・アイム・ユアーズ
2.ベイビー・ジェーン
3.おまえにヒート・アップ(インファチュエーション)
4.サム・ガイズ
5.ラヴ・タッチ
6.フォーエヴァー・ヤング
7.キャント・テル・ミー・ノー
8.ダウンタウン・トレイン
9.ジス・オールド・ハート・オブ・マイン
10.もう話したくない
11.リズム・オブ・マイ・ハート
12.ザ・モータウン・ソング
13.トム・トラパーツ・ブルース
14.ハンドバッグと外出着(アンプラグド)
15.ハブ・アイ・トールド・ユー・レイトリー(アンプラグド)
16.リーズン・トゥ・ビリーヴ(アンプラグド)
17.トゥー・シェイズ・オブ・ブルー

【Disc3 DVD(デラックス・エディションのみ)】
1.セイリング
2.もう話したくない
3.キリング・オブ・ジョージー(パートI&II)
4.さびしき丘
5.胸につのる想い
6.ホット・レッグス
7.アイム・セクシー
8.あばずれ女のバラード
9.ダンスは一人じゃ踊れない
10.燃えろ青春
11.トゥナイト・アイム・ユアーズ
12.ベイビー・ジェーン
13.フォール・イン・ラヴ・トゥナイト
14.ウー・ラ・ラ

 今、ロック・ファンの間で最もホットなニュースと言えば、2月21日と22日、突如決定したエリック・クラプトンとジェフ・ベックの、史上初となる夢の共演コンサート(チャリティ・イベントやゲストでの共演は除く)だろう。かつてそのジェフ・ベック・グループの一員としてメジャー・デビューし、現在でもジェフ・ベック・グループの歴代メンバーの中で最高のヴォーカリストと評されているロッド・スチュワートの2枚組ベスト・アルバムが、こちらは13年ぶりとなる3月の来日公演を前にリリースされることになった。

 因みにそのジェフ・ベックとのバンドは短命に終わり、『Truth』(68年)と『Beck-Ola』(69年)の2枚のアルバムのみで解散してしまったが、このバンドがレッド・ツェッペリン結成に多大なインスピレーションを与え、雛形になったというエピソードは有名だ。その後、ロン・ウッドと共にフェイセスに参加して 人気ロック・ヴォーカリストとなり、フェイセス在籍中からソロ・アルバムもヒットさせて70年代英ロック・シーンを代表するアーティストとなったロッドはフェイセスを独立。アメリカでも大成功を収めてスーパースターになったのはよく知られるところだ。

 さて、この2枚組ベスト・アルバム収録曲だが、フェイセス名義のDisc1-4以外は全てソロ・アルバムからの選曲で、リストのように主だったヒット曲、代表曲、全32曲が網羅されている。それぞれの曲について詳しく紹介するスペースはないが、初めて全米チャートナンバー1に輝き大出世作となったDisc1-1を始め、初期のフォーキーな、あるいはカントリー・フォーク調の素朴なアコースティック・サウンドのナンバーにこそロッド本来の魅力があるのではないかと改めて思った。

 もちろん、Disc1-6、8、9、10、11といった美しく郷愁を誘うようなミッド〜スロー・バラードでの歌唱力が素晴らしいのは言うまでもないが、全英全米共にチャート№1に輝いたDisc1-13のようなディスコ・ブームに乗ったヒット曲でも、独自の個性をしっかりアピールしているのに今更ながら驚かされる。さすがにそれ以降、アメリカでヒットしたディスコ調の曲やポップ路線のDisc2-1〜5あたりは今聴くと時代遅れなアレンジで少しツライが、トム・ウェイツの名曲カヴァーDisc2-8、13、「セイリング」タイプの傑作バラードDisc2-10の切なく甘いヴォーカルも思わず聴き惚れてしまう。

 更にDisc2-14〜16は、93年に収録されたMTVの人気番組『アンプラグド』出演時のスタジオ・ライヴで、最初期の隠れ名曲14、ヴァン・モリソンのカヴァー15、原曲でもギターを弾いていた現ローリング・ストーンズの盟友、ロン・ウッドがギターでゲスト参加した16と、どれも素晴らしい出来だ。また最後 の17は、98年のアルバム『ザ・ニュー・ボーイズ〜ウー・ラ・ラ 1998』録音時の注目の未発表アウトテイクで、「ストレンジャー・イン・パラダイス」でもお馴染みのポロディンの歌劇から美しく切ないメロディを取れ入れたロッドのオリジナル曲である。

 60年代からのロッド・ファンの我が儘としては、ソロ・デビュー作からの「ダーティー・オールド・タウン」や、セカンドからの「カントリー・コンフォート」等も入れて欲しかったが、それだと2枚組では収まらないということだろう。因みに本作にはDVD付きのデラックス・エディションもあり、今回初めて商品化される70年代の懐かしいビデオ・クリップばかり全14曲を収録しているのが話題で、ファンならこのDVDを見るためだけでも買う価値はあるはずだ。

 一方で昨年11月、ロッド・スチュワート、ロン・ウッド、ケニー・ジョーンズ、イアン・マクレガンの4人が、フェイセスの再結成に向けてのミーティングを行なったとのビッグ・ニュースも飛び込んできた。とりあえずみんなが曲を覚えているかどうかの確認のためにリハーサルを行なったとの噂だが、いずれにせよ今回のソロ・ツアー終了後、フェイセスとしてのワールド・ツアーの可能性は極めて高いだけに、今後の動向から目が離せない。

文=保科好宏




CD REVIEW

リイシュー4作品が同時発売!ザ・フーの音楽的魅力を再発見するチャンス


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A Quick One Box / THE WHO
『ア・クイック・ワン』 〜コレクターズ・ボックス
日本独自企画 / 初回生産限定 / シリアル・ナンバー入り
SHM-CD2枚組み
UICY-93539/40 \10,000(税込)
2008年11月12日発売

【Disc 1(モノ)】
1.ラン・ラン・ラン 2.ボリスのくも野郎 3.アイ・ニード・ユー 4.ウィスキー・マン 5.恋はヒートウェーヴ 6.くもの巣と謎 7.ふりむかないで 8.恋のマイ・ウェイ 9.ソー・サッド・アバウト・アス 10.クイック・ワン 11.恋のピンチヒッター 12.恋のサークル 13.アイム・ア・ボーイ 14.イン・ザ・シティー 15.バットマン 16.バケット・T 17.バーバラ・アン 18.ディスガイジズ 19.ハッピー・ジャック 20.寂しい別れ 21.恋のピンチヒッター (USシングル・ヴァージョン) 22.アイム・ア・ボーイ 23.バットマン (インストゥルメンタル) 24.ハッピー・ジャック (アコースティック・ヴァージョン) 25.ハッピー・ジャック (オルタネイト・ミックス)

【Disc 2(ステレオ)】
1.ラン・ラン・ラン 2.ボリスのくも野郎 3.アイ・ニード・ユー 4.ウィスキー・マン 5.恋はヒートウェーヴ 6.くもの巣と謎 7.ふりむかないで 8.ソー・サッド・アバウト・アス 9.クイック・ワン 10.アイム・ア・ボーイ 11.イン・ザ・シティー 12.バットマン 13.バケット・T 14.バーバラ・アン 15.ディスガイジズ 16.寂しい別れ 17.マン・ウィズ・マネー 18.マイ・ジェネレーション〜希望と栄光の国 19.アイム・ア・ボーイ (オルタネイト・ヴァージョン)

UICY93746.jpg
TOMMY / THE WHO
『トミー』 〜デラックス・エディション
UICY-93746/7 初回限定盤 ¥4,200(税込)
2008年11月12日発売

【DISC 1】
1.序曲 2.イッツ・ア・ボーイ 3.1921 4.すてきな旅行 5.スパークス 6.光を与えて 7.クリスマス 8.従兄弟のケヴィン 9.アシッド・クィーン 10.アンダーチュア 11.大丈夫かい 12.フィドル・アバウト 13.ピンボールの魔術師 14.ドクター 15.ミラー・ボーイ 16.トミー、聞こえるかい 17.鏡をこわせ 18.センセイション 19.奇蹟の治療 20.サリー・シンプソン 21.僕は自由だ 22.歓迎 23.トミーズ・ホリデイ・キャンプ 24.俺達はしないよ 25.シー・ミー・フィール・ミー〜リスニング・トゥ・ユー

【DISC 2】
1.アイ・ワズ 2.クリスマス (アウトテイク3) 3.カズン・ケヴィン・モデル・チャイルド 4.ヤング・マン・ブルース (ヴァージョン1) 5.トミー、聞こえるかい (別ヴァージョン) 6.トライング・トゥ・ゲット・スルー 7.サリー・シンプソン (アウトテイク) 8.ミス・シンプソン 9.歓迎 (テイク2) 10.トミーズ・ホリデイ・キャンプ (バンド・ヴァージョン) 11.俺達はしないよ (別ヴァージョン) 12.ドッグズ (パート2) 13.イッツ・ア・ボーイ 14.すてきな旅行 15.クリスマス 16.大丈夫かい 17.ピンボールの魔術師

UICY9348.jpg
LIVE AT LEEDS / THE WHO
『ライヴ・アット・リーズ』 〜デラックス・エディション
UICY-93748/9 初回限定盤 ¥4,200(税込)
2008年11月12日発売

【DISC 1】
1.ヘヴン・アンド・ヘル 2.アイ・キャント・エクスプレイン 3.フォーチュン・テラー 4.いれずみ 5.ヤング・マン・ブルース 6.恋のピンチヒッター 7.ハッピー・ジャック 8.アイム・ア・ボーイ 9.クィック・ワン 10.サマータイム・ブルース 11.シェイキン・オール・オーヴァー 12.マイ・ジェネレイション 13.マジック・バス

【DISC 2】
1.序曲 2.イッツ・ア・ボーイ 3.1921 4.すてきな旅行 5.スパークス (インストゥルメンタル) 6.光を与えて 7.クリスマス 8.アシッド・クイーン 9.ピンボールの魔術師 10.大丈夫かい 11.フィドル・アバウト 12.トミー、聞こえるかい 13.ドクター 14.ミラー・ボーイ 15.鏡をこわせ 16.奇蹟の治療 17.サリー・シンプソン 18.僕は自由だ 19.トミーズ・ホリデイ・キャンプ 20.俺達はしないよ

UICY93750.jpg
Who's next / THE WHO
『フーズ・ネクスト』 〜デラックス・エディション
UICY-93750/1 初回限定盤 ¥4,200(税込)
2008年11月12日発売

【DISC 1】
1.ババ・オライリィ 2.バーゲン 3.ラヴ・エイント・フォー・キーピング 4.マイ・ワイフ 5.ソング・イズ・オーヴァー 6.ゲッティング・イン・チューン 7.ゴーイング・モービル 8.ビハインド・ブルー・アイズ 9.無法の世界 10.ベイビー・ドント・ユー・ドゥ・イット 11.ゲッティング・イン・チューン 12.ピュア・アンド・イージー 13.ラヴ・エイント・フォー・キーピング 14.ビハインド・ブルー・アイズ 15.無法の世界 (未発表ヴァージョン)

【DISC 2】
1.ラヴ・エイント・フォー・キーピング 2.ピュア・アンド・イージー 3.ヤング・マン・ブルース 4.タイム・イズ・パッシング 5.ビハインド・ブルー・アイズ 6.アイ・ドント・イーヴン・ノウ・マイセルフ 7.トゥー・マッチ・オブ・エニシング 8.ゲッティング・イン・チューン 9.バーゲン 10.ウォーター 11.マイ・ジェネレイション 12.ロード・ランナー 13.ネイキッド・アイ 14.無法の世界

 ザ・フーの初単独来日ツアーの記念盤のようなタイミングで、日本でも人気の高い彼らの代表作3枚と、1966年リリースのセカンド・アルバム『ア・クイック・ワン』がリイシューされた。

 今回の注目は高音質のSHM-CDでの初リイシューが話題だが、紙ジャケ・パッケージにアウトテイクスやデモ等を纏めたボーナス・トラックCDやブックレット等を付けた、特別デラックス・エディション(初回限定)での発売なのも嬉しい。

 まず『ア・クイック・ワン〜コレクターズ・ボックス』は、この8月にリイシューされて好評だった『マイ・ジェネレーション〜コレクターズ・ボックス』に続く豪華ボックス・シリーズの第2弾。60年代中期に初めてステレオという技術が開発された際、それまでのモノラル盤との2種類(ミックス違い)が同時発売されたことから、このシリーズではモノとステレオ・ミックスの両ヴァージョンを完全収録というのがポイントだ。更にアルバムだけでなく、初めて関連シングル/EP収録曲もオリジナル・マスターから96k/24-bitの高音質でリマスターして収録している他、未発表インストゥルメンタル・トラック「バットマン」、「ハッピー・ジャック」のアコースティック・ヴァージョン、「アイム・ア・ボーイ」の2種類のオルタネイト・ヴァージョン等、セカンド作に関連するほぼ全てのレア音源が纏められているのはマニアも大満足に違いない。

 更に付録として、当時、世界各国が独自に制作した7種類のLPジャケットをCDサイズで復刻。加えてこれも当時各国で制作したシングル/EPの紙ジャケット20種類をCDシングル・サイズで復刻し、ボックスにはシリアル・ナンバー入りというのもコレクター心をくすぐる。

 また本作は、マネージャーの提案でメンバー全員が曲を提供した唯一のアルバムとしても有名で、キース・ムーン作曲の「アイ・ニード・ユー」は隠れ名曲として知られている。名曲と言えばタイトル曲の「クイック・ワン」は、後の大作ロック・オペラへの布石となった9分超のミニ・ロック・オペラで、当時としては極めて斬新な実験ソングと言えるだろう。またモータウン・カヴァーの「恋のヒートウェーヴ」と「ソー・サッド・アバウト・アス」の2曲は、70年代にポール・ウェラー率いるザ・ジャムがカヴァーしたことでも知られるだけに、聴き所の多いアルバムだ。

 そしてザ・フーの人気と名声を決定付けたロック史に残る傑作ロック・オペラ『トミー』は、映画、ミュージカルでも大ヒットした作品だけに説明は不要だろう。今回のリイシューは、1969年のUK初回リリース時の2枚組の3面見開きジャケットとシリアル・ナンバー入りの12ページ・ブックレットをCDサイズで忠実に再現し、日本初回盤LPの帯も復刻。更に72年にUKでバラ売りされた際のLPジャケット2種類をCDサイズで復刻してボーナス紙ジャケとしてセットされているのが嬉しい。またボーナスCD全17曲は、前回のデラックス・エディション“SACD”盤と内容は同じながら、更に高音質で楽しめるというわけだ。

 続く1970年リリースの名作ライヴ『ライヴ・アット・リーズ』は、やはりこれまでのリリースされた音源中、最もライヴならではの臨場感が味わえるシャープな音像となっているのが何よりも嬉しい。パッケージはこれもUK初回リリース時のポケット式見開きジャケットを再現し、マーキーのポスター等、計12点のオマケ書類等を忠実に再現した上で、日本初回盤LPの帯も復刻。ボーナス紙ジャケにはスペイン、ブラジル、コロンビア盤という各国レア・ジャケットのミニチュア版まで付属。またボーナスCDは既発表ながら、同じ日に演奏した『トミー』のほぼ全曲を収録しているので、前回の『デラックス・エディション』を買いそびれていたファンは要チェックだろう。

 最後にスタジオ・アルバムの最高傑作との誉れ高い1971年の『フーズ・ネクスト』は、ロック史上初めてシンセサイザーのループを取り入れた名曲「ババ・オライリー」や「無法の世界」等、ザ・フーのコンサートでは欠かせない名曲揃いのアルバムとして人気の名盤だ。これもUK初回リリース時のジャケットを忠実に再現した上で、日本初回盤LPの帯を復刻。ボーナス紙ジャケとしてスペイン、メキシコ(見開き)盤のミニチュアを付けるなど、ファンにとっては至れり尽くせりのリイシューとなっている。

 というわけで、ザ・フーの代表作を高音質のCDで聴き直すにはこれ以上良い機会はないだろう。昔から欧米ではビートルズ、ストーンズと並ぶイギリスの大物ロック・バンドとしてのポジションを確立しながら、何故か日本では正当に評価される機会に恵まれなかっただけに、今回の来日とリイシュー、映画の公開などによって、彼らの個性派バンドとしての多彩な音楽的魅力をぜひ再発見して欲しい。

文=保科好宏




CD REVIEW

26年の歳月を経て、ザ・クラッシュ幻のライヴ音源をリリース!


LIVE AT SHEA STADIUM / The Clash

LIVE AT SHEA STADIUM / The Clash
ライヴ・アット・シェイ・スタジアム / ザ・クラッシュ
Epic Records
2008年10月22日発売

<通常盤>
EICP-1061 \2,520(税込)

<初回生産限定盤>
EICP-1060 \3,150(税込)
豪華パッケージ&オールカラー32Pブックレット
(特殊紙)デジブック仕様

【曲目】
1.イントロダクション
2.ロンドン・コーリング
3.ポリス・オン・マイ・バック
4.ブリクストンの銃
5.トミー・ガン
6.7人の偉人
7.アルマゲドン・タイム
8.7人の偉人(Return)
9.ロック・ザ・カスバ
10.トレイン・イン・ヴェイン
11.出世のチャンス
12.スペイン戦争
13.クランプダウン 14.イングリッシュ・シヴィル・ウォー
15.シュド・アイ・ステイ・オア・シュド・アイ・ゴー
16.アイ・フォート・ザ・ロウ


Revolution Rock(DVD)/ The Clash

Revolution Rock(DVD)/ The Clash
レヴォリューション・ロック / ザ・クラッシュ
Epic Records
2008年10月22日発売
EIBP-108 \3,990(税込)

【曲目】
1.トゥモロウ・ショウ・ウィズ・トム・シュナイダー
2.NBCライヴ・アット・ファイヴ
3.ポリスとコソ泥
4.ホワッツ・マイ・ネーム
5.キャピタル・ラジオ1
6.白い暴動
7.反アメリカ
8.ロンドンは燃えている
9.1977
10.ハマースミス宮殿の白人
11.トミー・ガン
12.セイフ・ヨーロピアン・ホーム
13.ロンドン・コーリング
14.クランプダウン
15.ブリクストンの銃
16.トレイン・イン・ヴェイン
17.ディス・イズ・レディオ・クラッシュ
18.7人の偉人
19.新型キャディラック
20.シュド・アイ・ステイ・オア・シュド・アイ・ゴー
21.権利主張
22.出世のチャンス(ライブ・ヴィデオ)
23.クレジット


 1982年10月12日と13日、ザ・フーの解散ツアーの一環として行われたニューヨークのシェイ・スタジアム公演2日目、オープニング・アクトを務めたザ・クラッシュ幻のライヴ音源が、26年の歳月を経て突如リリースされた。

もともと本作は、グリン・ジョーンズのプロデュースの下、リリースを前提にライヴ録音されたものだけに音質やミックスは素晴らしく、単なるレア発掘音源とは次元の違う作品。お蔵入りしていた理由は、しばらく後にミック・ジョーンズがジョー・ストラマーから解雇されるなどゴタゴタがあってタイミングを逸してしまっていたからで、ジョーの死後に彼の家でマスターテープが発見され、今回発表されることになったのだとか。

 因みに当時のクラッシュは、全米トップ10ヒット曲「ロック・ザ・カスバ」を含む『コンバット・ロック』でブレイクし、最もアメリカで成功したイギリスのパンク・バンドとして人気のピークにありながら、同年にはドラッグ問題からドラマーのトッパー・ヒードンを解雇し、更にはジョーとミックの確執など、一触即発の状態にあった。しかしながらこれが上昇気流に乗ったバンドの勢いなのか、このライヴには弾けるような躍動感と、恐いもの無しの瑞々しい覇気や渦巻くようなエネルギーが漲っていて圧倒される。惜しむらくはドラマーが、長い間クラッシュを支え、同年1月の最初で最後の来日公演にも同行したトッパー・ヒードンではなく、急遽呼び戻された初代メンバーのテリー・チャイムスだったことだが、それでも演奏面は申し分なく、むしろメンバー間にある張り詰めた空気感のようなものが、サウンド全体にピリッとした緊張感を与えているのが素晴らしい。これを聴けば当時、ピート・タウンゼントが、自分達の後継者だと認めていたからこそクラッシュをサポート・バンドに指名したという話も頷ける。

 約50分、全16曲のセットリストは、来日公演時とも大きくは違わない彼らのベスト選曲と呼べるもので、改めてクラッシュの曲はメロディもメッセージも質が高いと再認識させられる。そして粗っぽい演奏からしっかり伝わる本物のロック、パンクならではの熱い息吹に、彼らのファンなら当時のことを想い出し、気分が高揚して血が騒ぎ始めること間違いなしで、改めてジョー・ストラマー、ミック・ジョーンズ、ポール・シムノンという個性的な3人のカッコ良さに男惚れせずにはいられない。

 今回のリリースには、初回限定生産のデジブック版もある他、77年から83年の彼らの歴史をライヴで追ったドキュメンタリーDVDも同時発売されているので是非チェックして欲しい。因みにDVDには、このシェイ・スタジアムでのライヴ映像や80年初来日公演の映像等、未発表映像も多数収録されているのでファンは必見だ。

文=保科好宏




CD REVIEW

本格派女性ツェッペリンカヴァー・バンド、レズ・ツェッペリンに注目!


LEZ ZEPPELIN/レズ・ツェッペリン

LEZ ZEPPELIN/レズ・ツェッペリン
カッティング・エッジ
CTCR-14584 \1,575(税込)
2008年7月9日発売


【曲目】
1.胸いっぱいの愛を
2.オーシャン
3.ON THE ROCKS
4.貴方を愛しつづけて
5.ロックン・ロール
6.WINTER SUN
7.コミュニケイション・ブレイクダウン
8.カシミール
9.移民の歌(Live Ver.) /ボーナス・トラック
10.レイン・ソング(Live Ver.) /ボーナス・トラック
※M3、M6はLEZのオリジナル楽曲


 熱心なレッド・ツェッペリン・ファンならもう噂は耳にしていることと思うが、女性4人によるツェッペリン・トリビュート・バンド、その名もレズ・ ツェッペリンがデビュー・アルバムを発表し、来日公演を行なった。

 彼女達が本当にレズビアンかどうかは知らないが、英語だとスペルが“LED”と“LEZ”の1文字違い、しかも女性によるトリビュート・バンドであることが一発で判るネーミング・センスは実にお見事だ。しかしお見事なのはネーミングだけでなく、10月1日の渋谷クアトロで見せたライヴ・バンドとしての実力もかなりのもので、超満員の観客の声援や拍手が曲が進むに連れて高まっていったのは、彼女達の演奏が聴き応え、見応えともに充分だったからだろう。

 そんな彼女達のライヴは、昨年12月の本家の再結成ライヴで演奏されなかった曲の中で、最もファンが聴きたかった一曲、「移民の歌」でスタート。女性 ヴォーカリストならではのハイ・トーン・ヴォイスを目一杯シャウトするこの一曲だけで、彼女達が洒落や酔狂でやっているバンドでないことは充分に伝わってきた。

 ただ正直言うと前半はまだエンジンの掛かりが悪かったのか、ヴォーカルの頑張りを除けば演奏内容はイマイチで、やはり女性バンドということで許されているトリビュート・バンドなのかとも思ったのだが、中盤以降は見違えるようにアンサンブルも良くなり、会場も熱く盛り上がっていった。そのバンドとしての力量を喩えるなら、2、3枚アルバムを出した辺りのイギリスの男のバンド・レベ ルは超えていると感じたが、そんなことよりも耳に馴染んだツェッペリン・ナンバーをほぼ完コピで次から次へと繰り出すのだから、ツェッペリン・ファンなら楽しくないわけがない。

しかも「幻惑されて」では、バイオリンの弓を使ったお馴染みの奏法とアクションを交えてのギター・ソロをたっぷり披露し、曲に合わせてジミー・ペイジと同じモデルのギターを使い分けるなど(もちろん、ドラゴン刺繍スーツも含め)、ショーとしての見せ方もしっかり心得ているのはトリビュート・バンドならではだろう。

 しかも僕が驚いたのは後半の「オーシャン」、「死にかけて」といった変拍子の難しい曲ほどリズムがアジャストしてバンドの一体感が増していったことで、 「ブラック・ドッグ」での“ハァー♪ハァー♪”のコール・アンド・レスポンスでは 観客とも一体となるステージ構成が鮮やかだった。そして本編の最後は、本家の再結成ライヴでもハイライトの一つとなった「カシミール」で、シンセサイ ザー・ストリングスと重いギター・リフとドラムスが奏でる荘厳で雄大なこの曲 は、レッド・ツェッペリンの演奏同様、胸が熱くなるような高揚感を味わうこと が出来たのは、オリジナルの曲が良いからだけではないだろう。続くアンコールも「ロックン・ロール」「胸いっぱいの愛を」で会場を盛り上げ、2度目のアンコールでは「コミュニケイション・ブレイクダウン」を披露。「天国への階段」は演らなかったものの、文句なしに楽しめるライヴだった。

 欲を言えば、ドラム・セットもラディックを使ってもっと重い音にして欲しいとか、本家に近付くためのハードルは高いが、彼女達にはこのままツェッペリン道を極めていって欲しいと願わずにはいられない。何故なら男のトリビュート・バンドは上手くて当たり前で、いくらコピーの精度が高い演奏でもさほど驚くことはないが、女性のバンドが最高峰のロック・バンドに挑み、女性ならではのヴォーカルの魅力を活かせるトリビュート対象は、ビートルズでもローリング・ストーンズでもなく、レッド・ツェッペリン以外にないと思うからだ。彼女達のデビュー・アルバムを聴けば、ツェッペリン好きのロック・ファンの方になら、僕が言うことにもなるほどと納得してもらえるに違いない。

文=保科好宏




CD REVIEW

ピンク・フロイドのギタリスト、D・ギルモアの初ソロ・ライヴ・アルバム!


狂気の祭典〜ライヴ・イン・グダニスク(Special Deluxe Edition)/デイヴ・ギルモア

狂気の祭典〜ライヴ・イン・グダニスク(Special Deluxe Edition)/デイヴ・ギルモア
ソニーレコーズ インターナショナル
通常盤:2CD+DVD/SICP-2027 \4,410(税込)
2008年10月8日発売


【Disc1】
1.スピーク・トゥー・ミー
2.生命の息吹き(Breathe)
3.タイム
4.生命の息吹き(リプリーズ) *オーケストラと共演
5.キャッスルロライゾン
6.オン・アン・アイランド *オーケストラと共演
7.ザ・ブルー *オーケストラと共演
8.レッド・スカイ・アット・ナイト *オーケストラと共演
9.ディス・ヘヴン *オーケストラと共演
10.ゼン・アイ・クローズ・マイ・アイズ *オーケストラと共演
11.スマイル *オーケストラと共演
12.テイク・ア・ブレス *オーケストラと共演
13.ア・ポケットフル・オブ・ストーンズ *オーケストラと共演
14.ホエア・ウィー・スタート *オーケストラと共演

【Disc2】
1.クレイジー・ダイアモンド
2.天の支配
3.デブでよろよろの太陽
4.運命の鐘 *オーケストラと共演
5.エコーズ
6.あなたがここにいてほしい
7.壁が崩壊した日 *オーケストラと共演
8.コンフォタブリー・ナム *オーケストラと共演

【Disc3/DVD】
1.キャッスルロライゾン
2.オン・アン・アイランド
3.ザ・ブルー
4.レッド・スカイ・アット・ナイト
5.ディス・ヘヴン
6.ゼン・アイ・クローズ・マイ・アイズ
7.スマイル
8.テイク・ア・ブレス
9.ア・ポケットフル・オブ・ストーンズ
10.ホエア・ウィー・スタート
11.天の支配
12.運命の鐘
13.エコーズ
14.壁が崩壊した日
15.コンフォタブリー・ナム
16.「連帯」結成記念日コンサートのドキュメンタリー(36分間)
17.クレジット

 ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアの、ソロでは初めてのライヴ・アルバム(DVD付き)がリリースされた。

 このライヴは2006年8月26日、「連帯」(民主化に貢献した労働組合組織)結成 26周年を記念し、ポーランドのグダニスク造船所に5万人以上の観客を集めて開 催された特別イベントを収録したもので、40人編成のポーランド・バルト・フィルハーモニック交響楽団と共に巨大な特設ステージで繰り広げるコンサートは、ピンク・フロイド同様、サウンド、ステージ・セットともに、破格のスケール観と質の高さに圧倒される。

 この日のセットリストは、『狂気(THE DARK SIDE OF THE MOON)』の前半部とギル モアのソロ作『オン・アン・アイランド』全曲を第1部に、第2部(とアンコー ル)は「クレイジー・ダイアモンド」や「エコーズ」といった大曲を含むピン ク・フロイド・クラシックスという構成。しかもライヴのメンバーはキーボードとヴォーカルに先日他界してしまったリチャード・ライト他、これでドラムスが ニック・メイスンならほぼ90年代のツアー時のピンク・フロイドそのままなのだから申し分のないラインナップと言えるだろう。

 因みに06年のツアー中、オーケストラとの共演はこの日だけの特別なもので、「壁が崩壊した日」はこの記念日のためだけに演奏された他、珍しい初期ピンク・フロイド・ナンバー「天の支配」は、同年に他界した伝説のオリジナル・メンバー、シド・バレットに捧げられたものだろう。

 本作での聴きものは言うまでもなくピンク・フロイド同様、リアル・オーケストラを率いてのシンフォニック・サウンドとのコラボレーションということになるが、ギルモアのエレガントでスペイシー、虚空の彼方まで響き渡る透明感溢れるギター・サウンドと、叙情的でメランコリックなヴォーカル・メロディの凛とした美しさに尽きる。特にスライド・ギターで紡ぎ出す滑らかなメロディの艶っぽさは、彼がいかに優れたブルース・ギタリストであり、オリジナルで傑出したスタイルを確立した演奏家かよく分かる。

 2枚組CDのトータル時間は2時間30分、DVDはその内約2時間分を収録 し、更に36分のドキュメンタリーと隠しコマンドによるボーナス映像が収録されているのもファンには嬉しいところだ。更にはこの通常盤以外に、完全限定生産の『スーパー・デラックス・エディション』(3CD+2DVDの5枚組)もあり、こちらには通常盤に加えて、同年のツアーからロンドン、ニューヨーク、アビィロード・スタジオ等で収録したライヴDVDと、欧米各国でのライヴ音源を纏めた12曲入りCDの他、コンサートのチケット、ポスター、ポストカード、ギター・ピック、バックステージ・パス、アーティスト・パス、写真7枚といった メモリアルグッズがオマケとして封入されたコレクターズ・アイテム仕様となっている。

 いずれにせよ本作は、今後ピンク・フロイド名義での新作の発表やワールド・ツアーの可能性がほぼ断たれた今、ギルモア、そしてピンク・フロイドのキャリアの総括的ライヴという意味合いを持つのは間違いない。このライヴ・アルバム は、ロックが50年掛けて辿り着いた一つの到達点であり、これほど荘厳という形容が相応しいパフォーマンスはない。

文=保科好宏


狂気の祭典〜ライヴ・イン・グダニスク

狂気の祭典〜ライヴ・イン・グダニスク
【初回生産限定盤/スーパー・デラックス・エディション】
ソニーレコーズ インターナショナル
SICP-2022 \9,975(税込)
2008年10月8日発売

1)ボーナスDVD+ボーナスCD付5枚組(3CD+2DVD)
2)20Pブックレット付
3)トールBOX仕様
4)コンサートチケット(復刻)、ポスター、ポストカード、ピック、バックステージパス、アーティストパス、フォト7枚組封入




CD REVIEW

レッド・ツェッペリン10タイトルが、音質アップで紙ジャケ・リイシューに!


レッド・ツェッペリン結成40周年記念-初回生産限定-
『UK盤仕様(E式)紙ジャケットCDボックスセット』Definitive Collection of Mini-LP Replica CDs / デフィニティヴ・ボックスセット<紙ジャケットSHM-CD>

SHM-CDで登場するオリジナル・アルバム(94年のリマスター音源使用)全10タイトルの紙ジャケットCD

 先頃行なわれた北京オリンピックの閉会式で、次回開催国代表としてベッカム等と共にダブルデッカーで登場し、「胸いっぱいの愛」を演奏して世界中のレッド・ツェッペリン・ファンを驚かせたジミー・ペイジ。昨年12月10日のリユニオン・コンサート以降、未だツアーの発表はなく、ヤキモキしているファンも多いことと思うが、あの閉会式での演奏こそ、近い内に大規模なワールド・ツアーを発表するためのペイジ一流の予告編に違いないと、世界中のロック・ファンの期待は高まるばかりだ。

 そんな中、タイミング良くリイシューされたのが、音質や音の解像度が飛躍的に向上したSHM-CDで登場するオリジナル・アルバム(94年のリマスター音源使用)全10タイトルの紙ジャケットCDである。

 今回の紙ジャケ盤の特徴は、これまでの米国アナログ盤をベースにしたアートワーク仕様から、初めてUK初回盤仕様に拘って作られたもので、世界一クオリティが高いと評判の日本の紙ジャケット制作技術を活かし、パッケージの特殊加工や紙質など、可能な限り当時の英国アナログ盤を忠実に再現しているのがファンには嬉しいところだ。こういった日本盤紙ジャケCDやボックス・セットのディテールがいかに素晴らしいかは、アメリカやイギリス盤のボックス・セットや紙ジャケCDを買ったことのある人ならご存知だろうが、欧米人が芸術品と呼ぶその完成度の高さは、今回のツェッペリン紙ジャケでも遺憾なく発揮されている。

 例えばファーストは、幻と言われる初回プレスのみのターコイズブルー・インクでバンド名やレーベルマーク等を印刷している他、ジャケットのビニール・コーティングまで再現し、レッド/マルーンのツートーンのレーベル、そして全作品、日本初リリース時のオビまで復刻する念の入りようだ。また驚いたのは、インナー(内袋)まで当時の英国アナログ盤に付いていた形態を完璧に再現していたことで、この辺りは日本人ならではの気配りと拘りだろう。

 そして気になるサードも回転するピクチャー・ダイアルの留め金がジャケット内側に収まっているイギリス式で、CDサイズながら窓もしっかり11穴空いている細かさも妥協を許さないマニアックな拘りが感じられる。また『フィジカル・グラフィティ』は、これまでの紙ジャケCDでは不可能と言われていたジャケット写真のビルの細い窓枠から窓穴まで完全に再現。このサイズの紙に正確に小さな穴をずれることなく開ける技術は恐れ入る。 

 更に『プレゼンス』は、タイトルやロゴ等をエンボス加工(型押し)し、オリジナル英国盤同様の透明タイトル・ステッカーの縮小版を貼り(封入)、『永遠の詩』もジャケット両面のエンボス加工だけでなく豪華ブックレットも復刻。また『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』は、水で濡らすと色が出る特殊印刷内袋を再現した他、全部で6種類あるジャケットはBパターンをメインにしながら、5000セット完全限定のボックス『デフィニティヴ・ボックスセット』には、特典として他の5種類のアートワークの他、ファーストの日本盤の紙ジャケ復刻まで封入されているのもマニアにはたまらないはずだ。

 さて、各アルバムの紹介だが、今更ツェッペリン・ファンには不要だろう。いずれもがロック史に燦然と輝く歴史的名盤ばかりで、今回はボーナス・トラックなど一切入れず、完全オリジナル英国盤仕様というスタイルに拘ったのも潔い。気になるアルバム、買いそびれていたアルバムだけを買うも良し、全10タイトル、レッド・ツェッペリンの12年の歴史、そのサウンドの変遷をパッケージしたボックス・セットを大人買いするも良し。本当に音質がワンランク・アップした今回の紙ジャケ・リイシューは、来るリユニオン・ワールド・ツアーに向けての予習用に最高のアイテムだ。

文=保科好宏




CD REVIEW

ギタリスト脱退後、2年ぶりとなるズートンズのサード・アルバムが登場


ザ・ズートンズ『ユー・キャン・ドゥ・エニシング』

You Can Do Anything / The Zutons
ユー・キャン・ドゥ・エニシング/ザ・ズートンズ
Deltasonic/Hostess
HSE-60006 \2,490(税込)
2008年7月23日発売


【曲目】
1.ハーダー・アンド・ハーダー 2.ダーティー・ラット 3.ワッツ・ユア・プロブレム 4.ユー・クッド・メイク・ザ・フォー・ウォールズ・クライ 5.ファミリー・オブ・リーチズ 6.ドント・ゲット・コウト 7.ブンバッグ 8.オールウェイズ・ライト・ビハインド・ユー 9.プット・ア・リトル・アサイド 10.フリーク 11.ギブ・ミー・ア・リーズン 12.リトル・レッド・ドア

 2枚のアルバムがイギリスでプラチナ・ディスクを獲得し、エイミー・ワインハウスがカヴァーした「ヴァレリー」の大ヒットもあって、今や国民的人気バンドとなった感もあるズートンズのサード・アルバムが登場した。

 好事魔多しとはよく言ったもので、バンドを取り巻く状況は絶好調にも関わらず、昨年、結成時からのギタリストが「音楽性の不一致」を理由に突如脱退。バンドは活動休止に追い込まれ、一時期は解散の危機もあったという彼らだが、本作を聴けばそんな不安要素は微塵も感じられず、最高傑作と言ってもいい会心作に仕上がった。

 そんな新作は、気分転換の意味もあってか初めて故郷リヴァプールを離れてのLA録音で、プロデューサーには初顔合わせとなるジョージ・ドラキュリアスを大抜擢。この初期ブラック・クロウズ作品やプライマル・スクリームの「ロックス」、リーフの「プレイス・ユア・ハンズ」を手掛けたプロデューサーの起用が奏功してか、元来のストレートで骨太なバンド・サウンドは一段と逞しさを増し、ソウル、ファンク風味のポップ・チューンに強靱なダイナミズムをもたらしたのが最大の聴き所だろう。

 加えて60〜70年代を連想させる持ち味のR&B風味のメロディにもますます磨きが掛かり、英国人の琴線に触れるソウルフルなシンガロング・ソングが揃っているのもファンにとって何より嬉しいに違いない。確かにデビュー当時のいかがわしいサイケデリック・テイストは後退したのが、その分ソリッドでポップ、揺るぎないズートンズ・サウンドを確立したことを今は素直に喜ぶべきだろう。

 本作を聴けば、誰もがかつてのマッドネスや同期のカイザー・チーフス同様、ズートンズも今後迷うことなく英国ポップ・ミュージックの王道を歩み続けるに違いないという確信にも似た思いを抱くはずだ。そんな彼らの決意表明とも受け取れるサード・アルバムは、今年の英ロック名盤として、また彼らの代表作として評価されるに違いない。

文=保科好宏




CD REVIEW

FUJI ROCK'08で来日するプライマルのレーベル移籍第1弾アルバム


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BEAUTIFUL FUTURE / Primal Scream
ビューティフル・フューチャー/プライマル・スクリーム
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCR-12969 \2,580(税込)
2008年7月16日発売

【曲目】 1.ビューティフル・フューチャー 2.キャント・ゴー・バック 3.アップタウン 4.ザ・グローリー・オブ・ラヴ 5.スーサイド・ボム 6.ビューティフル・サマー 7.ゾンビー・マン 8.アイ・ラヴ・トゥ・ハート(ユー・ラヴ・トゥ・ビー・ハート) 9.オーヴァー・アンド・オーヴァー 10.ネクロ・ヘックス・ブルース 11.ザ・グローリー・オブ・ラヴ(シングル・ヴァージョン) 12.アーバン・ゲリラ(Bonus Track) 13.タイム・オブ・アサシンズ(Bonus Track)

 

 プライマル・スクリームの通算10枚目となる新作が、ワーナー・レーベル移籍第1弾としてリリースされる。前作から2年というインターバルはバンドが好調な証だが、それにしてもアルバム・タイトルから想像できるように、かつてないほど明るくポジティヴなヴァイヴが漲っているのに驚かされる。こんなご時世にも拘わらずこの明るさは何なのか、歌詞カードが手元にない今、これがシニカルなジョークなのか、あるいは父親になったボビー・ギレスピーの願いが込められたオプティミスティックな思いなのかは分からないが、最初はどこか戸惑いや違和感すら感じさせる所がプライマルズらしいと言えるのかもしれない。 もちろん、彼らは浮世離れした能天気なロック・バンドというわけではなく、中東のテロを連想させる5のような曲もあり、これまで通りポリティカルなメッセージも発してはいる。ただ前記したようにアルバム全体として楽観的な色合いが強いのは、恐らくネガティヴなことばかり歌っていても何も状況が良くなるわけではないという、ある種の達観した想いからなのではないかと想像もする。

 そんな本作のプロデューサーには、ブロック・パーティーやベイビーシャンブルズといった若手バンドの作品で頭角を現してきたポール・エプワース(2曲)、ギターのアンドリュー・イネス(2曲)、ユース(1曲)の他、スウェーデンのポップ・グループ、ピーター、ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリング(5曲)が迎えられている。中でも音楽的には水と油とまでは言わないまでも、あまり接点の無さそうなビヨーン・イットリングが半数の曲を手掛けているのが話題で、この思い切ったプロデューサー起用こそ、プライマルズの嗅覚の鋭さであり、それが本作の独特のヴァイヴを生んでいるのは紛れもない事実だろう。

 加えてゲストには、ポール・ウェラーの新作にも参加していたリトル・バーリーのバーリー・カドガン(g)が4曲で粘っこいギターを披露しているほか、英フォーク界の大御所、リンダ・トンプソンとボビーの珍しいデュエットが聴ける9、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが参加したラウドなロックンロール10等、聴き所も多いだけに、ファンは必聴だ。

文=保科好宏




CD REVIEW

ポール・ウェラーがソロ9作目となるコンセプチュアルなアルバムをリリース


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22 Dreams / Paul Weller
22ドリームス/ポール・ウェラー
ユニバーサル インターナショナル
通常盤:UICI-1072 ¥2,500(税込)
初回限定生産SHM-CD盤:UICI-9032/3
¥3,500円(税込)
2008年7月9日発売

【Disc1】
1.ライト・ナイツ 2.22ドリームス 3.オール・アイ・ウォナ・ドゥ(イズ・ビー・ウィズ・ユー) 4.ハヴ・ユー・メイド・アップ・ユア・マインド 5.エンプティ・リング 6.インヴィジブル 7.ソング・フォー・アリス 8.コールド・モーメンツ 9.ザ・ダーク・ペイジズ・オブ・セプテンバー・リード・トゥ・ザ・ニュー・リーヴズ・オブ・スプリング 10.ブラック・リヴァー 11.ホワイ・ウォーク・ホエン・ユー・キャン・ラン 12.プッシュ・イット・アロング 13.ア・ドリーム・リプライズ 14.エコーズ・ラウンド・ザ・サン 15.ワン・ブライト・スター 16.ララバイ・フュア・キンダー 17.ホエアエヴァー・イエ・ゴー 18.ゴッド 19.111 20.シー・スプレイ 21.ナイト・ライツ

【Disc2】
1.22ドリームス(オリジナル・デモ) 2.リップ・ザ・ペイジズ・アップ 3.ライト・ナイツ(オリジナル・デモ) 4.コールド・モーメンツ(オリジナル・デモ) 5.ラヴズ・ガット・ミー・クレイジー 6.インヴィジブル(マルコ・ヴァージョン) 7.ビッグ・ブラス・ボタンズ(インストゥルメンタル) 8.22ドリームス(インストゥルメンタル)

 

 3年ぶりとなるポール・ウェラーのソロ9作目は、全21曲、約70分(アナログ盤は2枚組)の大作で、英国の詩人、サイモン・アーミテイジによるアルバムを元に書き下ろした短編小説が豪華ブックレットに掲載されたコンセプチュアルな意欲作だ。
 まずはフィドルとアコースティック・ギターをバックに、女性シンガーとデュエットを聴かせるトラッド/アシッド・フォーク調の1に意表を突かれるが、そこから一転、メンフィス・ソウル風なホーン・セクションが炸裂するタイトル曲へと繋がる序盤のドラスティックな展開だけで、本作に込められた特別なエネルギーに圧倒される。更にソウル・バラード、ボサノヴァ、ジャズ、ファンク、エレクトロニカ、アンビエント・サイケ等、まるで後期ザ・ジャムからスタイル・カウンシルを経て現在に至るまでの、音楽キャリアの集大成のような多彩なアレンジの濃密な楽曲が次々と繰り出されるのだから、ウェラー・ファンにはたまらないはず。
 そんな収録曲の中には、オアシスのノエル・ギャラガーとの共作曲で、彼がキーボードとベースで参加したボ・ビート風のエモーショナルなロック・チューン14(イギリスでのシングル・カット曲)や、元ブラーのグレアム・コクソンとの共作曲で、彼がドラムとギター、バック・ヴォーカルで参加したジャジーな10といった注目曲もある。加えてオーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドック(g)、リトル・バーリーのバーリー・カドガン(g)の参加等、モッド・ファーザー=ポール・ウェラーのアルバムに相応しいゲスト陣(と言うより弟分)を迎えた本作は、スリリングなセッションから和気藹々としたナンバーまで、特にノンストップで繋がった終盤4曲のメドレーは聴き応え充分だ。
 また初回限定で同時発売のSHM-CD2枚組デラックス・エディションは、収録曲のオリジナル・デモやインスト・ヴァージョン等、8曲を収録したボーナスCD付きで、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとの共作曲も収録されているだけに、熱心なウェラー・ファンは要チェックだろう。

文=保科好宏




CD REVIEW

エレクトロニク・シンフォニック・サイケ・ポップサウンドのMGMTに注目!


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Oracular Spectacular / MGMT
オラキュラー・スペクタキュラー/MGMT
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル 
SICP-1820 ¥2,520(税込)
2008年7月2日発売

【曲目】
1.タイム・トゥ・プリテンド 2.ウィークエンド・ウォーズ 3.ザ・ユース 4.エレクトリック・フィール 5.キッズ 11.タイム・トゥ・プリテンド (Jorge Elbrecht of Violens Remix) 6.フォース・ディメンショナル・トランジション 7.ピーシズ・オブ・ワット 8.オブ・ムーンズ、バーズ&モンスターズ 9.ザ・ハンドシェイク 10.フューチャー・リフレクションズ

 

 今年上半期のイギリスのロック/ポップ部門での最優秀新人が、少し前に紹介したザ・フージアーズなら、アメリカはこのMGMTで決まりだろう。米コネチカット州ミドルタウンの大学で芸術を専攻していた学生2人で始めたユニットが、5人編成のバンドとなって発表した05年のEPとツアーで話題となり、メジャー契約を勝ち取ってリリースしたのがこのファースト・アルバムだ。残念ながらまだアメリカ本国ではアルバム・チャートの100位にも入っていないが、イギリスで12位まで上昇したのは、新しい音楽に敏感なロック先進国、イギリスの面目躍如と言うべきだろう。
 それはともかくMGMTのサウンドは、エレクトロニク・シンフォニック・サイケ・ポップと呼びたくなる個性的なもので、音の雰囲気からフレイミング・リップスやマーキュリー・レヴを連想する人も多いかもしれない。実はプロデューサーがデイヴ・フリッドマンだからそれも当然なのだが、その両バンドに勝るとも劣らない万華鏡のようにカラフルで浮遊感のあるエフェクティヴなエレクトロニク・ノイズ+バンド・サウンドは、聴けば聴くほどMGMTの音楽にこそ相応しいと思えてくるから不思議だ。と言うのもMGMTの心がウキウキするような甘酸っぱくドリーミーで多幸感溢れるポップ・メロディと、おもちゃ箱をひっくり返したようなエレクトロ・ノイズの温かく歪んだ音色との相性が素晴らしいからで、一度ハマると癖になって毎日聴きたくなる、極めて中毒性の高い音楽だからだ。
 そんなMGMTを異例の長期契約でソニーが迎えたという話も興味深いが、本作を聴けば彼らがいかに才能豊かな本物のロック・バンドであるか、分かる人には分かるに違いない。今後どのような成長を遂げていくのか大いに楽しみなブライテスト・ホープなだけに、8月のサマーソニックでのライヴも要注目だ。

文=保科好宏




CD REVIEW

エルヴィス・コステロの新作は、ジ・インポスターズとの4年ぶりの共演作


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MOMOFUKU / Elvis Costello
百福/エルヴィス・コステロ
ユニバーサル インターナショナル
初回限定生産SHM-CD盤:UICM-9011 ¥2,800(税込)
通常CD盤:UICM-1047 ¥2,500(税込)

【曲目】
1.ノー・ハイディング・プレイス 2.アメリカン・ギャングスター・タイム 3.ターペンタイン 4.ハリー・ワース 5.ドラム・アンド・ボーン 6.フラター・アンド・ワウ 7.ステラ・ハート 8.ミスター・フェザース 9.マイ・スリー・サンズ 10.ソング・ウィズ・ローズ 11.パードン・ミー・マダム、マイネーム・イズ・イヴ 12.ゴー・アウェイ 

 

 話題となったアラン・トゥーサンとの共作アルバム『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』に続く新作は、4年ぶりとなるジ・インポスターズとの共演アルバムだ。タイトルの『百福』とは、日清食品の創業者で昨年亡くなったインスタントラーメンの生みの親、安藤百福氏に因んだもので、僅か2週間で簡単に新作が仕上がったことをインスタントラーメンに引っ掛けて命名した(もちろん百福氏の発明に敬意を表して)のだとか。
 気心の知れたバンドと一気に完成させた、というのがこのアルバムのポイントで、パワフルで躍動感溢れるスタジオ・ライヴ風な演奏にのって疾走するコステロのヴォーカルの勢いが何よりも素晴らしい。それはまるで77年のデビュー作『マイ・エイム・イズ・トゥルー』から80年の『ゲット・ハッピー』辺りの最初期作品を彷彿させるエネルギッシュな熱気が感じられるほど。
 とは言え当時のような溌剌としたポップなロックンロールやノスタルジックで甘酸っぱいバラードだけでなく、カントリー、ソウルはもちろん、ラテン調からラグ・タイム風の曲まで、自在かつ滋味溢れるアレンジでいつになく伸び伸びと歌っているようなのが最大の聴き所だろう。また、前記したようにジ・インポスターズの演奏も70年代のアトラクションズを彷彿させるもので、スティーヴ・ナイーヴのチープかつ軽妙なキーボードの音色や、ピート・トーマスのダイナミックなドラミングも、コステロ印のバンド・サウンドとして欠かせない。
 因みに本作は最初、アナログ盤に無料ダウンロードのアドレスが付いた形でのリリースだったことからファンの間で混乱も起きたが、こうして通常のCDと初回限定の高音質SHM-CDでリリースされることになったのは喜ばしい。ただ、もしあなたがアナログ盤を聴ける環境にあるコステロ・ファンなら、是非12インチ・アナログ盤で聴いて欲しい。オーガニックなバンド・サウンドならではのウォームな響きに、コステロのヴォーカリストとしての魅力をより堪能できるはずだ。 

文=保科好宏




CD REVIEW

スティーヴ・ウィンウッドが5年ぶりにアルバムをリリース


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NINE LIVES / Steve Winwood
ナイン・ライヴズ/スティーヴ・ウィンウッド
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
初回生産限定盤:SICP-1856 ¥3,780(税込)

1.アイム・ノット・ドロウニング 2.フライ 3.レイジング・シー 4.ダーティ・シティ 5.ウィアー・オール・ルッキング 6.ハングリーマン 7.シークレッツ 8.アット・タイムス・ウィ・ドゥ・フォーゲット 9.アザー・ショア

 

 この2月下旬の3日間、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行なわれたエリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドの歴史的な共演コンサートの余韻が残る中、ウィンウッドが5年ぶりに新作(通算9作目)を発表した。
 そのクラプトンがゲスト参加した4は、エモーショナルなギター・ソロをフィーチュアした8分近いアルバム最長曲ながら、ウィンウッドのハモンド・オルガンと一体となって盛り上がる後半までの展開が実にホットかつスリリングで、この音に接すれば誰もが短命に終わったかつてのスーパー・グループ、ブラインド・フェイスのことを想い出すに違いない。しかもあのバンドがそのまま成長したような円熟味を増したセッションを、40年近く経った今、再び聴くことが出来る喜びはまた格別なはずだ。
 その他の収録曲もオーガニックなアレンジの滋味溢れるものばかりで、80年代のシンセ・ポップ路線を穏やかにリメイクしたような2や、ジャジー&ファンキーな5、トラフィックの後期やソロでも見せたエスノ・ミュージック(アフリカンやラテン・ビート)へのアプローチを連想させる6、80年代の代表ヒット曲のイメージが重なる軽やかでポップなメロディが印象的な8、美しいヴォーカル・メロディが胸に染みる燻し銀のソウル・バラード9等、まるで自らのキャリアを総括したかのようなバラエティに富んだ作品集に仕上がっているのも本作の特色だろう。またウィンウッドという名前を聞いてもあまりピンと来ないという若い世代のロック・ファンには、彼がいかにポール・ウェラーに影響を与えているか、1を聴けば歌い方も含めてその類似性に驚くに違いない。(ウィンウッド・ファンには、DVD付きの初回限定盤がお薦め!)
 60年代中期に登場した多くの同期アーティストがとうに還暦を迎えた中、スペ ンサー・デイヴィス・グループの天才少年ヴォーカリストとして15歳でデビュー したウィンウッドは、この5月12日でようやく60歳になったばかり。その割りに はライヴも含め、これまでも決して精力的な活動を続けてきたとは言えないだけ に、新作のリリースを機に03年のフジ・ロック以来となる単独での来日公演を期 待したい。 

文=保科好宏




CD REVIEW

ザ・クークスが待望のセカンド・アルバムをリリース


ザ・クークス
Konk / The KOOKS
コンク/ザ・クークス
EMIミュージック・ジャパン
TOCP-66790 ¥2,300(税込)

1.シー・ザ・サン 2.オールウェイズ 3.ミスター・メイカー 4.ドゥ・ユー・ワナ 5.ギャップ 6.ラヴ・イット・オール 7.ストーミー・ウェザー 8.スウェイ 9.シャイン・オン 10.ダウン・トゥ・ザ・マーケット 11.ワン・ラスト・タイム 12.ティック・オブ・タイム 13. ウォーク・アウェイ +ボーナス・トラック(日本盤)

 

 06年のデビュー作が、イギリスではオアシスを大きく上回る2百万枚近いセールスを記録し、新世代バンドを代表する存在となったザ・クークスが、待望のセカンド・アルバムをリリースした。日本ではこの年のもう一つの大型新人で、奇しくも発売日が同じだったアークティック・モンキーズの方が人気、知名度共にかなり上のようだが、少なくとも本国イギリスでは全てが互角の良いライバルのように見えるのは実に健全だ。
 と言うのもクークスのサウンドは、流行りのニュー・ウェイヴ色とも一切無縁の素朴なもので、平均年齢23歳というのが信じられないほどR&Bやフォーク・ロック、レゲエといった英国スタイルを踏襲した極めてオーソドックスなギター・ロックだからだ。そして音作りだけでなく、キャッチーで人懐っこいヴォーカル・メロディも昔ながらの伝統的かつ普遍的な魅力に溢れており、この曲の良さこそデビュー作が半年かかってチャートの2位まで上昇するロング・セラーを記録した最大の理由だろう。もちろん本作でも彼らならではの誠実さが伝わるヴォーカル・メロディの魅力は何も変わっておらず、大ブレイク後のセカンド・アルバムという気負いなど微塵も感じさせない辺りが逆に本当の大物なのかもしれない。
 こういった音楽性/サウンドになったのは、フロントマン、ルーク・プリチャードの幼い頃に死別した父親がミュージシャンで、家にあったビートルズやボブ・ディラン等のロック・クラシックばかりを聴いて育った影響とかで、本作を聴けば60〜70年代のロックに親しんだファンならなるほどと納得し、違和感なく聴けるに違いない。
 そして勘のいいロック・ファンなら気付いていると思うが、アルバム・タイトルはキンクスのレイ・デイヴィスが北ロンドンに所有するスタジオの名前で、2作品ともここでレコーディングしたクークスはこのアナログ・スタジオが大好きなのだとか。もちろんスタジオだけでなく彼らがキンクスの大ファンでもあることは3を聴けば分かるが、20代前半という年齢でこういった曲が書けるのはやはり特別な才能だろう。
 因みにクークスというバンド名も、デヴィッド・ボウイの『ハンキー・ドリー』収録曲のタイトルから付けたと聞けば少々出来すぎた話のように思う人もいるかもしれないが、昔からのブリティッシュ・ロック・ファンとして彼らのような若いバンドの活躍は嬉しいし、心から応援したくなる。

文=保科好宏




CD REVIEW

ジャネット・クライン 21世紀に舞い降りたオールド・タイム・レディ


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Ready Fou You / Janet Klein
レディ・フォー・ユー/ ジャネット・クライン
バッファロー・レコード
LBCY-323 ¥2,500(税込)

1.I'm Getting Myself Ready For You 2.Who's That Knocking At My Door? 3.Lookie,Lookie Here Comes Cookie 4.Walking My Baby Back Home 5.My Canary Has Circles Under His Eyes 6.That's What You Think 7.A New Moon Is Over My Shoulder 8.Have a Martini! 9.Nakasete Chodai 10.Au Bal Musette 11.Them Piano Blues 12.Sentimental Gentleman From Georgia 13.I Love A Ukulele 14.Take A Number From One To Ten 15.Sweet Papa,Momma's Getting Mad 16.Roll On,Mississippi,Roll On 17.Ginza Kan Kan Musume 18.I Ain't That Kind of a Baby 19.Runaway Blues 20.Then I'll Be Happy

 

 まるで、時間の穴をくぐり抜けて、1930年代のアメリカのキャバレーにでも迷い込んだ気分だ。古き良きと謳われる時代、店内には華やかな香りが音と一緒に舞っている。ステージでは、洒落たスーツを着こなした中年男性たちが、ピアノだの、バイオリンだの、バンジョーだの、クラリネットだの、アコーディオンだのを、良い調子で奏でている。その真ん中で、若い女性が歌っている。時には、ウクレレを抱えて、舌っ足たらずの口調で。その風貌からして、古いファッション雑誌からとびだしてきたかのようだ。
 コール・ポーターから古いジャズにラグタイム、ミュージカルで親しまれた曲の数々。いずれも、1920年代、30年代の米国で流行った歌ばかり。かと思えば、高峰秀子の「銀座カンカン娘」に川畑文子の「泣かせて頂戴」のような歌謡曲までもが流れ出る。しかもこれが、達者な日本語だからたまらない。
 歌っているのは、ジャネット・クライン。「21世紀に舞い降りたオールド・タイム・レイディ」の愛称で親しまれるカリフォルニアの女性だ。彼女の元に集まっている中年男性たちは、パーラー・ボーイズと名付けられている。近年そこに加わることの多いイアン・ウィットカムも、今回は渋い喉を披露する。
 歌声が流れ出てきた瞬間に、目に見えるありとあらゆる光景がセピア色に変わった。そして、この世のものとは思えない極上の時間がゆるやかに流れはじめる。アルバムのタイトルは、「レディ・フォー・ユー」という。  

文=天辰保文




CD REVIEW

アラブ・アンダルース音楽の歴史的な流れに迫った画期的な試み


アラブ・アンダルース
マグレブ音楽紀行 第1集〜アラブ・アンダルース音楽歴史物語/ヴァリアス
ライスレコード ARSR-4302 (2CD) ¥4,515(税込)

CD1
1.彼らはいつ帰ってくるの?〜枝がおじぎをした 2.アリハドゥ・ダハビーン 3.ヤー・ザハラ・タン 4.おお、アンダルシーアの民よ 5.私が愛する男は私の魂 6.私の人生は美しい 7.俺が死ぬときの理由 8.良き使者がやってきた 9.こっちにおいで 10.起きて祈って悪魔を追い払え 11.亭主がいる女性 12.彼はベッドで私を見てくれなかった 13.彼らは私の欲望を非難する 14.あなたの完璧な美しさ 15.旅する女性

CD2
1.人生の旅立ち 2.私は異邦人 3.私に何ができるの? 4.美に誘惑された人々 5.それは神が決めたこと 6.ああ、我が運命 7.純粋な心 8.ヒキガエルの物語 9.彼は待っている 10波よ止まれ 11鳩の子 12.彼女は俺の魂I 13.言って欲しいのかい? 14.故郷を追われて

 

 『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスが16世紀から17世紀にかけて活躍したスペインの作家であることはごぞんじのとおり。その彼に「やきもちやきのエストレマドゥーラ人」という短編がある。
 主人公はスペインのセビーリャの金持の老人。嫉妬深い彼は、幼く美しい妻と結婚すると、彼女を屋敷の奥深くに閉じこめ、猫でさえ雌しか飼わなかった。それを知った遊び人の若者が、屋敷に入りこもうとして、まず音楽好きな門番の気をひくため、屋敷の前でギターを弾き語りする。それがどんな曲だったかといえば、モーロ人男女の恋愛を扱ったロマンセ「アビンダラーエスと美姫ハリーファ」などと書かれている。
 それがどんな曲だったかといえば、モーロ人男女の恋愛を扱ったロマンセ「アビンダ ラーエスと美姫ハリーファ」などと書かれている。
 モーロ人とは中世のイベリア半島南部を侵略し、支配した北アフリカ渡来のイスラ ム教徒のことで、たとえばシェイクスピアの『オセロ』の主人公もモーロ人(ムーア 人)だ。
 モーロ人はヨーロッパにさまざまな文化を持ちこんだが、そのひとつが女性崇拝や プラトニック・ラヴの概念だった。『ドン・キホーテ』に風刺的に描かれた騎士道精 神も、さかのぼればイスラムの文化にたどりつく。
 音楽も例外ではなく、イベリア半島のイスラム宮廷で生まれたアラブ・アンダルース音楽は、南フランスやスペインの吟遊詩人や宮廷音楽家に影響を与え、庶民にまで親しまれた。先の短編でセビーリャの若者がモーロ人の恋愛の歌をうたう背景にはそんな歴史があるのだ。
 アラブ・アンダルース音楽は16世紀以降北アフリカ各地に広がり、20世紀にはそこからシャービと呼ばれるポピュラー音楽が派生した。このCDはその歩みをたどったもので、ウードやマンドーラといった弦楽器から洋楽器までを使った音楽の万華鏡が楽しめる。
 最後に入っているダフマン・エル=ハラッシの「故郷を追われて」は90年代にフランスでラシッド・タハがカヴァーし、クラブ・ヒットを記録した。知られざる音楽のこの素晴らしい復刻アルバムからは、いにしえの歴史の音まで聞こえてくるような気がする。

文=北中正和




CD REVIEW

ザ・ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ 傑作サウンドトラック盤


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SHINE A LIGHT/Rolling Stones Martin Scorsese
シャイン・ア・ライト/ザ・ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ
SHM-CD 初回限定盤:UICY-90794/5 ¥3,800(税込)
通常盤:UICY-1408/9 ¥3,300(税込)

DISC [1]
1. ジャンピン・ジャック・フラッシュ 2. シャタード 3. シー・ワズ・ホット 4. オール・ダウン・ザ・ライン 5. ラヴィング・カップ(with ジャック・ホワイト) 6. アズ・ティアーズ・ゴー・バイ(涙あふれて) 7. サム・ガールズ 8. ジャスト・マイ・イマジネーション 9. ファー・アウェイ・アイズ 10. シャンペン&リーファー(with バディ・ガイ) 11. ダイスをころがせ 12. バンド紹介 13. ユー・ガット・ザ・シルヴァー 14. コネクション

DISC [2]
1. マーティン・スコセッシ・イントロ 2. 悪魔を憐れむ歌 3. リヴ・ウィズ・ミー(with クリスティーナ・アギレラ) 4. スタート・ミー・アップ 5. ブラウン・シュガー 6. サティスファクション 7. 黒くぬれ! 8. アンダーカヴァー・オブ・ザ・ナイト(日本盤ボーナス・トラック) 9. リトルT&A 10. アイム・フリー 11. ライトを照らせ

 

 マーティン・スコセッシ監督によるローリング・ストーンズの話題のライヴ・ドキュメンタリー映画公開を前に、CD2枚組、全25曲収録のサウンドトラック盤がリリースされた。日本での公開は今年暮の予定とまだ先の話だが、映画抜きでもこのサウンドトラック盤は、彼らの長いキャリアの中でも3本指に入る傑作ライヴ・アルバムとして楽しめる充実した内容の力作だ。
 何より本作が傑出しているのは、ツアー・ドキュメンタリーのような寄せ集めライヴではなく、一つの会場での演奏を丸ごと収録した一発録りの緊張感溢れる生々しいライヴ音源である点と、その会場が通常ストーンズのコンサートではあり得ない2千人収容のニューヨークのビーコン・シアターというのがミソだ。つまりライヴ・アルバムならではの会場のアンビエンス(残響音)も含め、すぐ目の前でストーンズが演奏しているような贅沢な距離感、空気感で彼らのライヴ演奏が楽しめるのだからそれだけでも特筆ものだが、演奏の出来も近年のベストと言ってもいいほど素晴らしいのだからファンは必聴だろう。
 収録曲はリストを見てもらえば分かるように基本的にキャリアを集大成したベスト選曲だが、「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」で始まる軽快なアップテンポのナンバーを揃えた冒頭の、瑞々しいパワーとシャープなビートで一気に自分達の世界に引き込んでしまう老獪な手腕はさすがストーンズだ。加えてゲストとの共演も聴きもので、1-5ではホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトが、ミック・ジャガーと驚くほど相性の良い声質でデュエットを披露すれば、60年代からの友人でシカゴ・ブルースの重鎮、バディ・ガイは、1-10で年齢を感じさせないパンキッシュなギター・ソロとアグレッシヴなヴォーカルで圧倒的な存在感をアピールする。
 他にも2-3ではミックがクリスティーナ・アギレラとのデュエットを聴かせる が、レギュラー陣も負けておらず、ボビー・キーズのサックスがお馴染みの扇情 的なフレーズを奏でる2-5や、キース・リチャーズ・ファンには1-9、1-14等、思 わず拍手したくなる聴き所が満載だ。ただいくらライヴ盤として充分に楽しめる とは言っても映画があると分かっているだけに、聴けば聴くほど早く観たくてウ ズウズしてくるのがファンには少し辛いところかも。  

文=保科好宏




CD REVIEW

ジャクソン・ブラウン ソロ・アコースティック第二集


ジャクソン・ブラウン

Solo Acoustic Vol.1 / Jackson Browne
ソロ・アコースティック第二集/ ジャクソン・ブラウン
ソニー・ミュージック SICP1767 ¥2,520(税込)

1.ネヴァー・ストップネヴァー・ス 2.intro 3.ナイト・インサイド・ミー4.intro 5.イナフ・ザ・ナイトー6.intro 7.サムシング・ファイン8.スカイ・ブルー・アンド・ブラック9.イン・ザ・シェイプ・オブ・ア・ハート 10.アライヴ・イン・ザ・ワールド 11.intro 12.カジノ・ネイション13.オール・グッド・シングス 14.intro15.誰かが彼女を見つめてる16.intro 17.レッドネック・フレンド18.intro 19.マイ・スタニング・ミステリー・コンパニオン 20.シャドウ・ドリーム・ソング

 

 日々の慌ただしい暮らしぶりの中で立ち止まり、いろいろ考えてみる。それも、たまにはいいものだ。そして、ジャクソン・ブラウンの歌声ほど、そういう気分に相応しい歌声はない。最近彼は、アコースティック・ギターやピアノの弾き語りによるライヴを行っていて、その模様を収めた『ソロ・アコースティック第一集』が評判になった。客席からのリクエストに応えたり、バンドを率いてのライヴとは違った趣きがあって、それまで慣れ親しんだ歌に新風を吹き込んでくれるからだ。今回の『ソロ・アコースティック第二集』でも、そんな魅力が存分に楽しめる。
 今回は近年の作品から選ばれた曲が多い。青春のみずみずしさがほとばしるような歌を70年代に数多く作った人なので、それ以降の作品は蔑ろにされがちだが、こうやって聴いていると素晴らしい曲も沢山あるのだと気づかされる。そしてなによりも改めて教えられるのは、これまで太陽のもとで沢山の喜びや楽しみを得てきたが、それと同じくらい夜の深い闇の中でも、辛くて悲しい出来事からも得られるものが多いということだ。光があれば、そこには必ず影が寄り添っている。またそのことを嘆く必要はない、そんなことを、この人の歌からは殊に学んできたなあ、としみじみと思う。
 日本盤に限って、「シャドウ・ドリーム・ソング」が収録されているのも嬉しい。ソングライターとしての彼に光を当てた初期の代表作だが、本人の歌がこうやって正式にレコード化されたのは初めてのことだからだ。2004年の日本公演で、客席のリクエストに応えての演奏だった。   

文=天辰保文




CD REVIEW

濃密なブリティッシュ・ポップ・マナーを受け継ぐ期待の新人ザ・フージアーズのデビュー作


ザ・フージアーズ"

The Trick to Life/The Hoosiers
ザ・トリック・トゥ・ライフ/ザ・フージアーズ
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
期間生産限定盤/SICP-1775
¥2,100(税込) /2008年4月9日発売

1.ウォリード・アバウト・レイ 2.ワースト・ケース・シナリオ 3.ラン・ラビット・ラン 4.グッバイ・ミスター 5.サッドネス・ランズ・スルー・ヒム 6.クリンギング・オン・フォー・ライフ 7.コップス・アンド・ロバーズ 8.エヴリシング・ゴーズ・ダーク 9.キラー 10.ザ・トリック・トゥ・ライフ 11.マネー・トゥ・ビー・メイド 12.ザ・フィーリング・ユー・ゲット・ホエン 13.ルビー・ブルー 14.ルールズ

※ザ・フージアーズ、SUMMER SONIC 08に出演決定!  

 デビュー・アルバムが全英チャート初登場№1に輝いたと聞くと、すぐにハイプを疑いたくなるのは音楽業界人の哀しい性だが、ごく稀にこの音楽性ならそれも当然と納得せざるを得ない新人との嬉しい出会いもある。ここに紹介するレディング出身のポップ・ロック・トリオ、ザ・フージアーズのデビュー作は、正にそんな1年に一枚あるかないかのデビュー作である。
 というのもこのアルバム、その歌メロやアレンジに70年代〜80年代のブリティッシュ・ポップ・マナーをしっかりと受け継いだマニアックなもので、初めて聴いた時から何故か懐かしさを感じさせる“既聴感”のあるサウンド・メイクに傑出したセンスすら感じられるからだ。
 それを喩えるなら10CC、スパークス、クイーン、ELO、スーパー・トランプ、XTC、スクイーズといったバンドの系譜に連なる濃密なブリティッシュ・ポップやロックのエッセンスが感じられると言ったら少しは興味を持ってもらえるだろうか? これは決して大袈裟な比喩ではなく、イギリスでのアルバム初登場№1は、当然のように幅広い世代の音楽ファンに支持された結果なのは言うまでもないだろう。
 とはいえ誤解の無いように言っておくと、このザ・フージアーズは伝統主義者のコンサバ・ポップ・バンドという訳ではもちろんない。音作りはキャッチーながらも遊び心溢れる実験的アプローチを随所で試みており、ヴォーカル・ハーモニーやキーボードのエフェクト処理の洒落たセンスなど、あの時代のロックを知る人ほど深い部分で楽しめるに違いない。加えてアーウィン・スパークスのファルセットも交えたヴォーカルも実に巧みで、3などはジェフ・バックリーを連想したほど。
 因みに彼らの高校時代の化学の先生で音楽の師匠が、知る人ぞ知る70年代の名ポップ・バンド、セイラーのドラマーだったというのも納得のエピソードだ。もう長いこと新しいロック・バンドには興味が持てず何が面白いのか判らない、というかつてのロック/ポップ・ファンにこそ聴いて欲しい期待の新人がこのザ・フージアーズ。こんなに良くできた音楽を若い音楽ファンだけのものにしておくのは勿体ない。    

文=保科好宏




CD REVIEW

ヨーロッパ中を熱狂させるスパニッシュ・ギター・デュオ、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ


ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ

激情ギターラ!/ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ
ソニーレコード
初回生産限定盤/SICP-1764 [CD+DVD]
¥3,360(税込)
通常盤/SICP-1771 [CD]
¥2,520(税込)

DISC [1] CD
1.タマクン 2.ディアブロ・ロホ 3.ヴァイキング・マン 4.サトリ 5.イックスタパ 6.天国への階段(レッド・ツェッペリン)カバー 7.オライオン(メタリカ)カバー 8.フワン・ロコ 9.PPA 10.セニョリータ(ボーナス・トラック)

DISC [2] DVD
1.タマクン(ライヴパフォーマンス)2.天国への階段(ライヴパフォーマンス)3.ディアブロ・ロホ(ライヴパフォーマンス)  

 今、イギリスをはじめとするヨーロッパ各国でブームを巻き起こしているロドリーゴ・イ・ガブリエーラの日本デビュー作がようやくリリースされた。既に日本でも輸入盤が1万枚以上も売れているというこのメキシコ出身の男女デュオの音楽は、2台のアコースティック・ギターのみのインストゥルメンタル・ミュージックなのだが、イギリスでは4千人近い会場を瞬時にソールドアウトにし観客を熱狂させると聞いても、実際にロンドンでライヴを体験するまで僕自身もにわかには信じられなかった。
 そのサウンドは、ロック+フラメンコ(スパニッシュ)+メタル+ジャズ+ボサノヴァ(ラテン)+プログレ+フォークをミックスしたパッショネイトなもので、何と言っても元スラッシュ・メタル・バンド出身の2人のテクニカルなギターワークが絶品だ。しかもただ単に速弾きが凄いだけでなく、従来のギター演奏の概念を覆すようなボディや弦を指や掌で細かく叩きながらパーカッションとしても鳴らすアクロバティックな奏法により、とてもギター2台だけとは信じられない音響効果を生みだしているのも人気の秘密だろう。
 収録曲では、躍動するラテンのビートとエキゾチックなギターのメロディ・フレーズとの完璧なハーモニーに自然と身体が動き出してしまう1や2、ジミー・ペイジに聴かせたい繊細かつエモーショナルなレッド・ツェッペリンの名曲カヴァー6、メタル・バンドあがりならではのメタリカ・カヴァー7など、従来のギター・インストの常識を超えた訴求力があるのは、彼らの音楽のルーツにロック/メタルがあり、メキシカンとしてのアイデンティティが上手く調和しているからだろう。
 そんな本作の初回生産限定盤には、彼らのイギリスでのコンサートの模様が楽しめる5曲のライヴ映像と、メキシコ時代から成功を収めた現在までの歴史を追った彼らの全てが分かるドキュメンタリー、そしてマジカルなギター・テクニックを本人自ら解説するギター・クリニックまでボーナスDVDに収録されているのも見逃せない。
 また今月(3月)の30日、東京の渋谷DUOで一夜限りのコンサートも決定しただけに、この来日を機に日本でも一気にロドリーゴ・イ・ガブリエーラがブレイクするのは間違いない。要注目!  

文=保科好宏




CD REVIEW

豪華アーティストが参加!ジム・キャパルディ、トリビュート・コンサートを収録したライヴ作


de_va.jpg V.A./ディア・ミスター・ファンタジー フィーチャリング・ザ・ミュージック・オブ・ジム・キャパルディ&トラフィック
ISOL DISCUS ORIGANIZATION /GQCP-10009¥3,000(税込)

1,Paper Sun/ポール・ウェラー2.Lost Inside Your Love/スティーヴィー・ラング3.Living On The Ouside/ジョー・ウォルシュ、ビル・ワイマン&ジョン・ロード4.Elixir Of Life/デニス・ロコリエール5. Whale Meat Again/サイモン・カーク6.Love's Got A Hold On Me/The Storys7.Forty Thousand Headman/ジョー・ウォルシュ8.Man With No Country/Yusuf Islam a.k.a キャット・スティーヴンス9.Light Up Or Leave me Alone/スティーヴ・ウィンウッド10.Dear Mr.Fantasy/スティーヴ・ウィンウッド11.Evil Love/ゲイリー・ムーア12.Here We Go Round The Mulberry Bush/ポール・ウェラー13.Let Me Make Something In Your Life/スティーヴィー・ラング&ジョン・ロード14.Gifts Of Unknown Things/フィル・キャパルディ、ジョン・ロード&ビル・ワイマン15. Love You 'Till The Day I Die/マーゴ・ブキャナン16.No Face, No Name, No Number/ピート・タウンゼント17.John Barleycorn Must Die/ジョー・ウォルシュ18.Pearly Queen/ポール・ウェラー19.Rock And Roll Stew/デニス・ロコリエール、マーゴ・ブキャナン&スティーヴィー・ラング20.Love Will Keep Us Alive/スティーヴ・ウィンウッド、ジョー・ウォルシュ、マーク・リヴェラ、ゲイリー・ムーア、ジョン・ロード、The Storys&ビル・ワイマン  

 05年1月に他界したトラフィックのドラマー、ジム・キャパルディのトリビュート・コンサート(07年1月)を収録したライヴ作が、2枚組CDとDVD(『ジム・キャパルディ&トラフィック・トリビュート・ライヴ』)でリリースされた。トラフィックのフロントマンだったスティーヴ・ウィンウッドと違い、かなりのブリティッシュ・ロック・ファンでないとキャパルディの名前は知らないかもしれないが、実はほとんど全てのトラフィック作品をウィンウッドと共作してきた名ソングライターでもある。
 それだけに参加アーティストも豪華で、結成から解散まで共にトラフィックを 支え、15枚のキャパルディのソロ・アルバム全てに参加してきた盟友、ウィン ウッドがタイトル曲「ディア・ミスター・ファンタジー」で胸に染みる歌声を披 露。またトラフィックと音楽的類似性を指摘されることも多く、01年のキャパル ディのソロ作『Living On The Outside』にもゲスト参加したポール・ウェラー は、「ペイパー・サン」「パーリー・クイーン」など3曲も演奏し敬意を表明し ている。そしてザ・フーのピート・タウンゼントは、自らプロデュースした73年 のエリック・クラプトンのカムバック・コンサート『Rainbow Concert』で、 キャパルディがドラマーとして尽力してくれたエピソードを紹介(DVDヴァー ジョン)し、名曲「ノー・フェイス、ノー・ネイム・ノー・ナンバー」をまるで 自身のオリジナル曲のようにこなれたアレンジで聴かせる弾き語りも秀逸だ。ま たゲイリー・ムーアは「イーヴル・ラヴ」で火が点きそうな熱いギター・ソロ を、キャパルディが曲を提供したこともあるイーグルスのジョー・ウォルシュ も、ビル・ワイマンやサイモン・カーク等が参加したバック・バンドと「フォー ティー・サウザンド・ヘッドメン」等を聴かせるなど、夢のような贅沢なセッ ションは追悼コンサートならではだ。  

文=保科好宏




CD REVIEW

NY感覚あふれるシンガー・ソングライター、ピーター・シンコッティ


Peter East Of Angel Town/ Peter Cincotti
イースト・オブ・エンジェル・タウン/ピーター・シンコッティ
ワーナー WOCR12792 ¥2580(税込)

1. エンジェル・タウン 2. グッバイ・フィラデルフィア 3. ビー・ケアフル 4. シンデレラ・ビューティフル 5. メイク・イット・アウト・アライヴ〜逃亡の人生 6. ディセンバー・ボーイズ 7. 君は君らしく 8. アナザー・フォーリング・スター 9. ブロークン・チルドレン 10. マン・オン・ア・ミッション 11. オールウェイズ・ウォッチング・ユー 12. 魔女の秘薬 13. ザ・カントリー・ライフ

 ここ数年、洋楽の日本市場で男性シンガー・ソングライターの人気が盛り上がっているが、このピーター・シンコッティ(名前から想像するとイタリア系?)も、その手のアーティストだ。とは言え、まったくの新人ではなく、今まで何枚かのアルバムを発表している。 
 いきなり、かなりアタックの強いピアノで始まる1曲目「エンジェル・タウン」を聴くとジャズの強い影響を感じさる。こいうファンキーなピアノの弾き語りは、ベン・シドランの昔のアルバムを思い出したりもするのだが、本人に一番大きな影響を与えたのはハリー・コニックJrだということだ。地元ニューヨークの音楽学校に通いながら12歳でプロの道に入ったというから、かなり早熟なミュージシャンということになる。 
 2003年にフィル・ラモーンのプロデュースでデビュー・アルバムを発売しているが、当初はポップ系ではなくジャズ・ミュージシャンとしての色合いの方が濃かったようだ。この新作は、そんなジャズ・テイストを生かしながら、よりポップでメロディアスな感覚を前面に出して作られている。プロデュースはデヴィッド・フォスター、バックにはネイサン・イースト、マイケル・ランドゥといった実力派が顔をそろえ、オシャレで都会的な世界を展開。90年代以降、この手のシンガー・ソングライターって、いそうでいなかったような気がする。   

文=東郷かおる子




CD REVIEW

地元でのライブを収録したジェイムス・テイラーのCD/DVDセット


ジェイムス・テイラー One Man Band/James Taylor
ワン・マン・バンド/ジェイムス・テイラー
ユニバーサル UCCO-3003 CD/DVD \3600(税込)

1. 彼女の言葉のやさしい響き 2. ネヴァー・ダイ・ヤング 3. フローズン・マン 4. ミーン・オールド・マン 5. スクール・ソング 6. カントリー・ロード 7. スラップ・レザー 8. マイ・トラヴェリング・スター 9. きみの友だち 10. スチームローラー・ブルース 11. 人生の秘密 12. ライン・エム・アップ 13. チリ・ドッグ 14. 愛の恵みを 15. スウィート・ベイビー・ジェイムス 16. 思い出のキャロライナ 17. ファイア・アンド・レイン 18. コッパー・ライン 19.目を閉じてごらん

 それにしても、ジェイムス・テイラーほど、気負いを一切感じさせないでいまもなお創意あふれる活動を続けている人も珍しい。ジャズのマイケル・ブレッカーからブルーグラスのアリソン・クラウスまで、ブラジルのミルトン・ナシメントからアイルランドのモーラ・オコンネルまで交流は多岐に及び、見晴らしのいい景色をいつも楽しませてくれる。また、30代には30代の、40代には40代の、50代には50代なりに、生きていく上で悩みがあり、喜びがあるということを教えてくれた貴重な人でもある。だからこそ、古い友人たちの懐かしい顔が浮かんでくるような、郷愁を含んだ歌声なのに、少しも古臭さを感じさせない。
 その彼が、アコースティック・ギターの弾き語りで、時にはラリー・ゴールディングスのキーボードを交えながら披露する最新ライヴだ。馴染みの歌たちと一緒に彼の40年の歴史が思い出深く流れていく。我々の小さな歴史もそこに重なり、人生のひとコマひとコマが浮かんでは消えていく。それほど、彼の歌は、我々の暮らしぶりに親しく寄り添ってきたということだ。
 アルバムには、同じ内容の映像がついていて、客席とのやりとりも楽しめる。幕開けはこうだ。彼が現れると、客席が全員立ち上がって迎える。「JT最高!」という歓声。それに混じって「レッドソックスも」との声。すると彼は、「ヤンキースをうちのめせ」と冗談で答える。そして、「彼女の言葉のやさしい響き」を歌い始める。ジョージ・ハリスンが、これを聴いて、「サムシング」を書き上げたとされる曲だ。故郷マサチューセッツというのもあるが、この幕開けからして、如何に素晴らしいライヴだったかがわかる。  

文=天辰保文




CD REVIEW

人種のるつぼ、ニューヨーク・ハーレムならではの豊饒な音楽


Harlem Experiment Harlem Experiment/ハーレム・エクスペリメント
Pヴァイン ¥2415(税込)
【トラックリスト】
1 Intro 2 One For Jackie (featuring DJ Arkive) 3 Rigor Mortis (featuring The Harlem House Band / DJ Arkive) 4 Reefer Man (featuring Taj Mahal on vocals) 5 Harlem River Drive (featuring Steven Bernstein on trumpet) 6 Bei Mir Bist Du Schon (featuring Don Byron on clarinet) 7 muMs' Interlude (featuring Larry Legend / muMs) 8 It's Just Begun (featuring DJ Arkive) 9 Mambo A La Savoy (featuring Carlos Alomar on guitar) 10 A Rose In Spanish Harlem (featuring James Hunter on vocals & guitar) 11 One For Malcolm (featuring Malcolm X) 12 'Lil Bit (featuring muMs on the mic) 13 Think (featuring Queen Esther on vocals) 14 A Rose In Spanish Harlem (Instrumental) 15 Walking Through Harlem (featuring Olu Dara on vocals, guitar & pocket trumpet)

【演奏者リスト】
The Harlem Experiment House Band:
Carlos Alomar - Guitars
Steve Bernstein - Trumpet
Don Byron - Clarinet & Tenor Sax
Eddie Martinez - Hammond Organ & Electric Piano
Ruben Rodriguez - Bass
Steve Berrios - Drums & Percussion

Invited Guests:
Queen Esther - Vocals
Olu Dara - Guitar & Vocals
Taj Mahal - Vocals
James Hunter - Vocals & Guitar
muMs - Spoken Word
Larry Legend - Cuts & Bruises

 『ハーレム・エクスペリメント』は、01年の『ザ・フィラデルフィア・エクスペリメント』、04年の『ザ・デトロイト・エクスペリメント』に次ぐ、シリーズ第3弾。世代やバックグラウンド、活動の場は違っても、それぞれハーレムを“ホーム”としてきたミュージシャンが一堂に会し、その地に捧げて奏でた音楽である。
  演奏するのは、これまでラテンの首領たちと共演してきたキーボード、ベース、ドラムス/パーカッションに、カルロス・アロマー(g)、ドン・バイロン(cl)、スティーヴ・バーンスタイン(tp)を加えた6人編成のハウス・バンド。さらにヴォーカルほかのゲストが加わる。演目の半数強は、ジミ・キャスター・バンチやキャメオ、マチート楽団やエディ・パルミエリらをオリジナルとする、ソウル〜ファンクやラテン〜ジャズのカバーだ。
  ジャイヴ王キャブ・キャロウェイの曲はラテン調、ベン・E・キング61年のヒット曲はギター弾き語り+ドゥワップ・コーラスに。30年代初頭にイディッシュのミュージカル用に書かれたジャズ・スタンダードからはクレツマーが匂い立つ。マルコム・Xのスピーチに触発されるように始まる即興があり、DJによるヒップホップ/ファンクのインストも。最後はオル・ダラの独演で、街をぶらつくおっちゃんに伝説的グリオの影を見る鼻歌的ブルース……といった具合だ。
 人種のるつぼであり、様々な文化や音楽が交差する地ハーレムの、これが豊かさと創造性を映し出すものだ!とでもいうように、いろいろなスタイルが立ち現れては交わり、特有のサウンドを織りなす。ふとした楽器の音に古き時代の美しさを聴き、また街の猥雑さを感じたり裏通りの匂いをかぐことにもなる。とこどろころに挟み込まれた語りは、まるでラジオを聴いてるような気分にさせてくれる。それでいて、深い。素敵な体験ができる“エクスペリメント”だ。  

文=松永記代美




CD REVIEW

2007年ベストアルバム 5枚 選者/保科好宏


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 今年は終盤になってからレイ・デイヴィス、ケヴィン・エアーズ、ロバート・ワイアット、ニール・ヤング等、ベテラン勢が続々と秀作を発表したが、ここでは仕事を離れて最もよく聴いた好きなアルバム5枚を紹介したい。

 まず米オレンジ・カウンティ出身のコールド・ウォー・キッズのデビュー作は、07年度の最優秀新人賞を上げたい突出した才能を持つバンドだ。曲によってゴスペル風だったり、あるいはジェフ・バックリーやトム・ウェイツ、ビリー・ホリデイ等を連想させる飛び切りスピリチュアルでソウルフルなヴォーカルと、いかにもバンドっぽい型にはまらない血の通ったアンサンブルが素晴らしい。こういう異形の才能は、得てして最初は一般的には認められにくいものだが、それを見出して評価するのが音楽評論家の仕事だろう。

 米アルバカーキ出身のシンズの3作目は文句なしの彼らの最高傑作だ。米バンドでありながら、80年代のスミスに通じるような繊細で柔らかなポップ・メロディが何よりも素晴らしく、洗練されたサウンド・メイクも聴くほどに癖になる出来だ。この秋の来日公演の観客の入りはもう一つだったが、ピンク・フロイドのカヴァー曲も完璧にこなす演奏力も圧巻で、このバンドの良さが分からないとしたらもうロック・ファンは辞めた方がいい。

 ウェールズの至宝、スーパー・ファーリー・アニマルズの新作も、95年のデビュー以来、流行の音楽に迎合することなく追求し続けてきたビートルズ、ビーチ・ボーイズからピンク・フロイドまでを包括した万華鏡のような音楽性で頂点を極めた観がある。そのサイケデリックでポップ、人懐っこくて洗練された唯一無二のサウンドは、40代以上の元ロック・ファンでも無理なく楽しめるはずだ。

 また英新人で特に印象に残ったバンド、ザ・ヘヴィーは、ヒップホップやクラブ系の音楽が苦手というロック/ソウル・ファンにこそ聴いて欲しい注目株だ。と言うのもこのデビュー作の音は、喩えるならレッド・ツェッペリンがカーティス・メイフィールドをヴォーカルに迎え、ヒップホップ系のプロデューサーの下、思い切りサイケでブルージーなファンク・アルバムを作ったようなサウンドに仕上がっているからだ。解散後にファンク風なビート感が再評価されたツェッペリンとの共通性に気付けば、また一つ、彼らの魅力も深く理解できるに違いない。

 最後にカナダが生んだ偉大な才能で、ここ10年来の新人ではダントツの可能性を感じさせるアーケイド・ファイアの2作目。各曲の出来こそデビュー作には敵わないものの、それでもスピリチュアル&エモーショナルなヴォーカル・メロディとストリングスやコーラス隊を交え、スケール観を増したバンド演奏でじっくり聴かせる力作。今最もライヴが素晴らしいと評判の彼らだけに、08年2月の初単独来日公演が大いに楽しみだ。

いずれにせよ、まだまだ若くて才能豊かなロック・バンドは毎年登場するし、40年近くロックを聴き続けている僕でも新鮮な気持ちで楽しむことが出来る。昔のリイシュー物を聴いて懐かしむのも悪くはないが、今の新しいロックだって充分に刺激的で面白いということを、聴かず嫌いの元ロック・ファンにこそ知って欲しい。                           

文=保科好宏




CD REVIEW

2007年ベストアルバム 5枚 選者/小川隆夫


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 毎年この時期になると、いろいろなところから「今年のベスト3」とか「ベスト5」とかを選んでほしいと頼まれる。1年を自分なりに振り返るいいチャンスでもあるし、自分の好みを改めて確認できることにもなるので、こういう依頼は大歓迎だ。選ぶ作業も楽しいし。

 ただし、順位をつけるのは苦手である。そういうわけで、ここに挙げた5枚も順位については気にしないでほしい。明日になったら上原ひろみのアルバムが1位になっているかもしれない。というか、ぼくの中でこれら5枚に優位の差はほとんどない。

 さらにつけ加えさせてもらうなら、これらの作品以外にも『ウイントン・マルサリス/自由への近い』(EMIミュージック)、『メデスキー、スコフィールド、マーティン&ウッド』(ユニバーサル)、『キース・ジャレット/マイ・フーリッシュ・ハート』(ユニバーサル)あたりも心に強く残った作品である。これらが、気分によってはベスト5に入ることだってある。

 それにしても、これらの大半がユニバーサルミュージックからリリースされていることに驚かされる。小曽根真の作品以外はすべて海外からのライセンスだが、それでも話題の新譜や素晴らしい内容のアルバムを日本のユニバーサルが数多くリリースしている事実は特筆しておいていい。

 作品個々について紹介することに意味はないと思うが、『聖地への旅」は今年この世を去ったテナー・サックス奏者マイケル・ブレッカーの遺作で、余命いくばくもないと宣告されていた時期に最後の気力を振り絞って吹き込んだ作品である。しかしそんなことを知らずに聴いたら、驚くほどエネルギッシュなプレイに圧倒されるに違いない。スタジオでは鎮痛剤を打ちながらの収録となり、何度も録音は中断された。それでも、ぼくたちに伝えたいなにか、表現したいなにかがあったのだろう。その最後のメッセージをこちらもしっかりと受け止めたい。

 しかしこの作品を1位にしたのは、そんなメランコリックな気持ちからではない。あくまで内容が優れていたからだ。惜別の思いから1位にしたのなら、それこそブレッカーに失礼というものだ。いまは最後まで図抜けたクリエイターであり続けた彼の冥福を祈りたい。

文=小川隆夫




CD REVIEW

2007年ベストアルバム 5枚 選者/北中正和


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 2007年は『世界は音楽でできている』というムックや『世界の女神たち』というCDのシリーズを監修し、『事典 世界音楽の本』の編・執筆に関わるなど、個人的には幸せな仕事をさせていただいた年だった。『世界の女神たち』のシリーズのCDを入れると、それだけでいっぱいになってしまうので、ここではあえてそれ以外のアルバムを選んだ。入手しやすい輸入盤も含めた。いずれもきわめてポップで、ふだん英米以外の音楽を聞かない人が聞いても楽しめるアルバムだと思う(アルファベット順)。

 元マノ・ネグラのマヌー・チャオはソロ・デビュー作『クランデスティーノ』を発表して以来、スペイン語圏の反「巨大資本主導のグローバル化」の旗手のような活動を続けており、彼の活動拠点バルセロナは21世紀の地中海ミクスチャー音楽の発信地のひとつとなっている。約5年ぶりの新作でもスペイン語、英語などさまざまな言葉で歌心のあるシンプルなロックをやっている。これまでよりバンド色が強まった。

 ティケン・ジャー・ファコリーはコートジボワールのレゲエ・シンガーだ。国内の政争を批判して命を狙われ、マリに亡命してこのアルバムを作った。フランスのマジッド・シェルフィ(元ゼブダ)が曲作りに参加したり、マリのコラ奏者トゥマニ・ジャバテが参加したりしている。ボブ・マーリーに通じる哀愁のメロディとタイトな演奏のオンパレード。最近、帰国コンサートの舞台で対立する政治勢力を握手させたのもマーリー譲り。

 オーケストラ・バオバブは西アフリカのセネガルの大ベテラン・グループ。ベストセラーになった5年前の復活作『スペシャリスト・イン・オール・スタイルズ』に続くアルバム。曲は旧作の再演で、ゆったりとした歌声や演奏が気持ちいい。それでいてサウンドの細部は21世紀的。彼らのカムバックに尽力した大後輩のユッスー・ンドゥールも1曲ゲスト参加している。

 DJシャンテルはドイツ在住の東欧系のダンス・ミュージックのアーティスト。ルーマニアやバルカン半島のロマの音楽をサンプリングしたダンス・ミュージックで注目を集めてきた。いまやマドンナでさえロマのバンドと共演する時代。今回は多数のゲスト・ミュージシャンと共に楽しいバルカン・ポップを作り出している。かつてボスニアのゴラン・ブレゴヴィッチがやったことを、もっと陽気に歯切れよくしたよう。

 ティナリウェンは、サハラ砂漠に住むトゥアレグ(タマシェク)人のグループ。複数のギターによるアンサンブルがソリッドなブルースのように聞こえるところから、サンタナをはじめロック畑にも共演した人やファンが多い。2007年の来日がメンバーの病気で中止になっていなければ、もっと話題を呼んだだろう。プロデュースは現ロバート・プラント・バンドのジャスティン・アダムス。

文=北中正和




CD REVIEW

2007年ベストアルバム 5枚 選者/東郷かおる子


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 元来の「歌」好きな性分のせいか選んだ5枚のアルバムは、どれも声、歌の魅力に惹かれたものばかり。ミュージシャンとしての度量とか許容量の深さと広さを感じさせるアルバムだ。一見して時代とかトレンドに関係ない作品のようにも感じるが、「今」という時代に出るべくして、あるいは聴かれるべくして現れた作品のようにも思える。
 今年の話題を独占する勢いのエイミー・ワインハウスは、その圧倒的な存在感に、まず驚いた。ソウルとかジャズとか言う以前に彼女の「生」を生々しく伝える歌は怖いほどだ。自分のなかの弱さと強さを、こんな風に歌うシンガーはめずらしい。

 ルーファス・ウェインライトはヨーロッパに活動拠点を移した後、初のアルバム。仰々しいまでのオーケストレーションにのせた歌声は相変わらずシニカルで哀切極まりない。それでいて繊細で優しい。人間の虚実を、これほど美しくポップに歌い上げる人はいない。来年早々の来日公演が待ち遠しい。

 ここ数年のアメリカのロック・シーンはおもしろい。大手メジャー・レーベルから大物が離れたり、インディ・レーベルから新鮮なバンドが現れるのは、ひたすら消費させることに疲弊した業界の自浄作用のように思えなくもない。
 ザ・ナショナルはニューヨークを拠点とする結構キャリアのあるインディ・バンド。この「ボクサー」というアルバムは彼らの4作目にして日本デビュー盤。なにしろ初めて聴いた時は軽いショックを覚えてしまった。余計な音を排除したシンプルな構成と野太い歌声は実に魅力的で、聴くほどにはまってしまう。フォーク、ジャズ、ルーツ・ロック等をオルタナティヴな感覚で再構築したような印象。それがモノクロームの写真のようなクールな味わいを放ってカッコいい。

 カッコいいと言えばジョー・ヘンリーのアルバムも、そんな形容が似合う。1曲1曲にストーリー性があって、それを表現する歌声がまた渋い。最近はプロデューサーとしての個性的な活躍が目立つが、R&B、フォーク、ジャズなどのアメリカン・ルーツ・ミュージックへの造詣と愛情の深さを感じさせるアルバムが、この「シヴィリアンズ」だ。

 大ベテラン、ジョニ・ミッチェルが事実上の引退宣言をしたのは5年前。自分の居場所を失った彼女のカムバック作が「シャイン」だ。彼女への再評価の波が、活動再開に結び付いたのだろうが、5年のブランクなど感じさせない完成度の高さ、音楽に向かう志の高さに感動した。
 ちなみに、この5枚に順位はない。

文=東郷かおる子




CD REVIEW

2007年ベストアルバム 5枚 選者/天辰保文


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 カーリー・サイモンの『イントゥ・ホワイト』は、この1年間、ほとんど途絶えることなく聴き続けた1枚だ。いわゆるカヴァー・アルバムで、キャット・スティーブンスの表題作をはじめ、ジュディ・ガーランドにアントニオ・カルロス・ジョビン、ビートルズにエヴァリー・ブラザーズまで幅広く、それも勿体ぶったり、気取ったりしないで、アコースティックな演奏で歌い綴っていく。小さなホームパーティに招かれたような居心地のよさがあり、歌たちに、こころを温かく、豊かにしてもらったようで有り難い。かつて夫だったジェイムス・テイラーの作品を、彼との間の息子や娘と一緒に歌うあたりもこの人らしくて嬉しい。

 イーグルスのは、28年ぶりにあたるスタジオ録音の新作だが、深まった円熟味に28年という歳月を実感するというか、鏡の中の自らの老けた風貌を重ねてしんみりするが、同時に、小気味のいいカントリー・ロックで颯爽と現れた頃も思い出させる。『ホテル・カリフォルニア』で、当時の米国社会と真っ向から対峙した彼らが、ここでも時代と、国家としっかりと向き合っている。その姿勢が嬉しい。それにしても、人間は歴史から学ぶことをしない、その愚かさを問うように、鏡の中の自分を改めてみてみる。

 こうしたベテランの人たちの、その年齢なりの視点に共感を覚えるところも多いが、もちろん、若い才気にも驚かされることも少なくない。その筆頭とされるのが、かつてはオルタナ・カントリーの代表格とされていたウィルコで、歌とはなんたるかを心得ているあたりが好きだ。『ブルー・スカイ・ブルー』を聴いていると、冬とはいえ天気のいい午後には狭い部屋で縮こまっていないで、海の見える公園にでも歌たちを連れていきたくなった。

 ライアン・アダムスも、新しい世代の収穫を実感させるひとりだ。最近では、ニール・ヤングと比較されることも多く、確かに荒っぽさや大胆さと屈折した繊細さとが反発しあいながらも同居する様子が楽しい。この『イージー・タイガー』で彼は、「ティアーズ・オブ・ゴールド」(「ハート・オブ・ゴールド」ではありません)という曲で、今日は若いと思っていても明日には年をとる、と歌っている。哀しみから立ち直ろうと歌えば歌うほど、深い闇に落ちていくような切ない瞬間を描かせると、いまこの人の右に出る人はいないくらいだ。

 アイアン・アンド・ワインは、フロリダのシンガー・ソングライター、サム・ビームのソロ・プロジェクト名で、持ち味のカントリー・ロック、フォーク・ロックに加えて、『シェパーズ・ドッグ』ではアフリカから沖縄まで、その音楽的な視界が随分と広く感じられるようになった。米国の現状を辛辣な口調で皮肉った歌が多い。  

文=天辰保文




CD REVIEW

鈴木良雄 BASS TALKが放つ音楽のラヴ・レター


鈴木良雄 BASS TALK

Love Letter /鈴木良雄 BASS TALK
ラヴ・レター/鈴木良雄ベース・トーク
ONE/ FNCJ-1002¥2,500 (税込)


1. モーニング・サン2. フェアリー・ダンス3. ラヴ・レター4. フライ・イン・セプテンバー5. トゥ・チカ6. ア・デイ・イン・ザ・フォレスト7. ラヴ・フォーティ8. エピソード9. ユー・ネヴァー・マインド

 日本を代表するベース奏者の鈴木良雄は、一方で素晴らしいコンポーザーでもある。これまでに幾多の名曲を残してきたが、今回はいつも以上に心に優しいオリジナルの数々が集められた。美しいメロディと優しい響き。彼が率いる4人編成のベース・トークは、ジャズのスタイルでありながら、ジャズを聴かないひとの心まで揺さぶる爽やかなプレイを聴かせてくれる。鈴木の音楽がほのぼのとしているのは、そのひと柄ゆえかもしれない。
 鈴木はアコースティック・ベースが持つナチュラルなサウンドを最高の形で表現することに心血を注いできた。それだけに今回の作品でも、目立ちはしないが音楽の底辺を豊かな音色でしっかりと支えてみせる。彼のベースがコアになって音楽が紡ぎ出されていく。野力奏一のピアノと井上信平のフルートが、鈴木同様に優しくも美しいメロディを奏でる。ドラムスを廃し、岡部洋一のパーカッションがリズムを刻むスタイルも好ましい。
 とりわけ印象的なメロディとサウンドで迫ってくるのが冒頭を飾った「モーニング・サン」である。まとまりのいいグループのサウンドを中心に爽やかなソロが続く。この曲、この演奏で代表されるように、そしていつもの鈴木による作品と同じように、ここではことさら大袈裟に構えたトラックはない。それもアルバムの魅力につながった。いくら聴いても飽きのこない作品。『ラヴ・レター』と題されたこの最新作は、鈴木からぼくたちに贈られた心あたたまるプレゼントだ。        

文=小川隆夫




CD REVIEW

ロバート・プラント&アリソン・クラウスの異色コラボレーションが実現!


ロバート・プラント

Raising Sand/ Robert Plant Alison Krauss
レイジング・サンド/ロバート・プラント&アリソン・クラウス
ユニバーサル ミュージック クラシック/UCCU-1162¥2,500(税込)


1. リッチ・ウーマン 2. キリング・ザ・ブルース3. シスター・ロゼッタ・ゴーズ・ビフォア・アス4. ポリー・カム・ホーム5. ゴーン・ゴーン・ゴーン6. スルー・ザ・モーニング、スルー・ザ・ナイト7. プリーズ・リード・ザ・レター8. トランプルド・ローズ9. フォーチュン・テラー10. スティック・ウィズ・ミー・ベイビー11. ナッシン12. ユア・ロング・ジャーニー

 レッド・ツェッペリンの再結成で今年後半の話題をさらったレジェンド・ロック・ヴォーカリスト、ロバート・プラントが、米ブルー・グラス界の歌姫、アリソン・クラウスとコラボレートした異色デュエット・アルバムをリリースした。収録曲はトム・ウェイツの8、ジーン・クラーク(ザ・バーズ)の4、エヴァリー・ブラザーズの5等の隠れた名曲のカヴァーが中心で、プロデューサーがTボーン・バーネットとくれば、カントリー/ブルース/R&B色の強い大人のロック・アルバムになるのは当然だろう。とは言え、アレンジはマニアックなルーツ・ミュージックに拘るわけでもなく、モダンでコンテンポラリーな和めるカントリー・フォーク作品集といった趣があり、ジャンルとは無関係に幅広い音楽ファンが楽しめるヴォーカル作品に仕上がっている。
 驚くのはロバート・プラントのヴォーカルも殆どの曲で抑制の効いたジェントルな歌唱を披露していることで、柔らかく透明感があり、スピリチュアルで味わい深い歌声はすぐには彼と判らないほど穏やかだ。しかしながら「フォーチュン・テラー」のようなR&Bやアップテンポの曲になると、自然に活き活きと躍動感溢れる艶っぽいヴォーカリゼーションで本領を発揮するのは、生まれついての個性派ロック・シンガーの証左だろう。
 またツェッペリン・ファンには、ペイジ・プラント作品「プリーズ・リード・ザ・レター」の穏やかなカントリー風セルフ・カヴァーがお薦めで、しなやかなプラントと伸びやかなアリソンの歌声が絶妙のハーモニーを奏でるこのヴァージョンは、原曲以上に味わい深い名曲に仕上がっている。プラント自身の「今までの自分からは想像すらつかないような作品」という言葉も納得の注目作だ。        

文=保科好宏




CD REVIEW

ファッツ・ドミノへのオマージュにあふれた超豪華キャスト競演盤


ファッツ・ドミノ

Goin’ Home:A Tribute to Fats Domino / Various Artists
偉大なる足跡〜ファッツ・ドミノ・トリビュート・アルバム/ジョン・レノン、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ、B.B.キング・ウィズ・ネヴィルズ・ダンプスタファンク、エルトン・ジョンほか
キング KICP 1274〜5 /¥3,500(税込)


Disc 1
1.エイント・ザット・ア・シェイム 2.アイム・ウォーキン 3.ゴーイン・ホーム 4.ブルベリー・ヒル 5.マイ・ガール・ジョセフィン 6.エブリ・ナイト・アバウト・ディス・タイム 7.アイ・ウォント・トゥ・ウォーク・ユー・ホーム 8.ホール・ロッタ・ラヴィン 9.ドント・リーブ・ミー 10.アイム・イン・ラブ・アゲイン 11.プリーズ・ドント・リーヴ・ミー 12.ゴーイング・トゥ・ザ・リヴァー 13.ブルー・マンデイ 14.イット・キープス・レイニン 15.ワン・ナイト
Disc2
1.ウォーキング・トゥ・ニューオリンズ 2.ヴァレー・オブ・ティアーズ 3.マイ・ブー・ヘヴン 4. ハニー・チリ 5.ライジング・サン 6. ホウェン・アイ・シー・ユー 7. ビー・マイ・ゲスト 8. レット・ザ・フォー・ウィンズ 9.アイ・ヒアー・ユー・ノッキン 10. アイ・ジャスト・キャント・ゲット・ニューオーリンズ・オフ・マイ・マインド 11. ドント・ブレイム・イット・オン・ミー 12.アイム・ゴナ・ビー・ア・ホイール・サムデイ 13. ザ・ファット・マン 14 ソー・ロング 15. 聖者の行進(聖者が町にやってくる)

 私のような典型的なロック世代の人間から見るとファッツ・ドミノというミュージシャンは、もう少し上の世代にあたる。1950年代の、いわゆるロックン・ロール創世記に、R&Bとロックの橋渡し的な役割を果たしたアーティストだが、もともとはニューオリンズを代表するR&B〜ブルース・ミュージシャ ンで、ブギウギ・ピアノに乗せた数多くのヒット曲を世に送り出している。本作は、そんなファッツ・ドミノが自ら発起人となったハリケーンの被害で傷ついた地元の音楽界を援助するためのチャリティ・アルバムだ。 
 2枚組、全30曲の内容は、バラエティに富んだ参加ミュージシャンと相まって実に濃密。この顔ぶれを見ただけでファッツ・ドミノの音楽界における位置と重要性が理解できる。アラン・トゥーサンとコラボレートしたポール・マッカートニーに始まり、エルトン・ジョン、レニー・クラヴィッツ、ニール・ヤングなどのロック〜ポップス勢、ノラ・ジョーンズ、ルシンダ・ウィリアムス、コリーヌ・ベイリー・レイといったコンテンポラリーな女性シンガー勢、ボニー・レイット、ドクター・ジョン、タージ・マハールなどのベテラン勢などが敬愛を込めて、ドミノの曲をカバーしている。 
 こうして聴くとニューオリンズの音楽がロックに与えた影響の大きさを感じないではいられないが、そんな「お勉強」的な聴き方をするまでもなく、おおらかで懐の深いグルーヴが、ひたすらカッコいい。私の個人的なお気に入りはオル・ダラの「ホエン・アイ・シー・ユー」。どこかノホホンとした軽さのなかに潜む深い哀愁と、妖しい色気にノックアウトされた。その他にも、近年、自身のアルバムが精彩を欠いているように思えるレニー・クラヴィッツがニューオリンズのブラス・バンド、リヴァース・ブラス・バンドを従えて、どファンクに迫る「ホール・ロッタ・ラヴィン」にも、良い意味でびっくり!   

文=東郷かおる子




CD REVIEW

ジョー・ヘンリー、そのモノトーンの魔法


ジョー・ヘンリー

Civilians/ Joe Henry
シヴィリアンズ/ ジョー・ヘンリー
ソニーミュージック/EICP-878 ¥2520


1.シヴィリアンズ 2.パーカーズ・ムード 3.シヴィル・ウォー 4.タイム・イズ・ア・ライオン 5.ユー・キャント・フェイル・ミー・ナウ 6.スケア・ミー・トゥ・デス 7.アワー・ソング 8.ウェイヴ 9.ラヴ・イズ・イナフ 10.アイ・ウィル・ライト・マイ・ブック 11.シャット・ミー・アップ 12.ゴッド・オンリー・ノウズ

 エルヴィス・コステロ、アラン・トゥーサン、ドクター・ジョン、エイミー・マン等々との仕事を通じて、プロデューサーとしてもその活躍ぶりが印象的な人だ。現代のポップ音楽の世界で最も重要なひとりとして名をあげる人も多い。その意見に異論を唱える気は全くないが、この人の真価は、やはりシンガー・ソングライターとしての表現力に、そしてその歌声にあるということは加えておきたい。なにしろ、一瞬にして視界をモノトーンへと変える魔法の、それは歌声だ。
 しかも、気の利いた短編小説にも似た歌の数々を聴き進むにつれて、またひとつ、もうひとつと、闇というのが薄い膜の重なりで出来ているかのように次々に新しいのが現れては消えていく。トム・ウェイツが、場末のバーや深夜の路地と仲が良かったように、あるいはそれ以上に彼も夜の闇と仲が良い。だからこそ歌えるという、繊細な歌を彼は歌う。ここでもこういうフレーズが歌の中にサラリと出てくる。「人生は短いが、夜は長い」と。こういのに、ぼくは弱い。
 ビル・フリゼールやグレッグ・リーズら腕達者も、安易な場所に着地するのを嫌い、現代の闇を漂っているような、謎めいた演奏で酔わせる。ヴァン・ダイク・パークスのピアノだけで、彼はこんなふうにも歌っている。「時代を変えるような言葉なんてもちあわせてないが、ぼくは本を書こう」と。忘れるところだったが、マドンナの義理の弟にあたる人で、以前、二人でヴィック・チェスナットの曲をデュエットしたこともある。    

文=天辰保文




CD REVIEW

ワイクリフ・ジョンが豪華布陣で臨むニュー・アルバム 


ワイクリフ・ジョン

Carnival Vol.Ⅱ - Memoirs of An Immigrant/ Wyclef Jean
カーニバルⅡ〜ある移民の回顧録/ワイクリフ・ジョン
ソニー・ミュージック/SICP-1609 ¥2,310(税込)

1. イントロ〜ライオット 2. ライオットfeat Serj Tankian 3. スウィーテスト・ガール(ダラー・ビル)4. ウェルカム・トゥ・ザ・イースト 5. スロウ・ダウン feat T.I. 6. キング&クイーン feat Shakira 7. ファスト・カー feat Paul Simon 8. ワット・アバウト・ザ・ベイビー feat Mary J. Blige 9. ハリウッド・ミーツ・ボリウッド 10. エニー・アザー・デイfeat Norah Jones 11. ヘヴンズ・イン・ニューヨーク 13. タッチ・ユア・ボタン・カーニバル・ジャム(a. レット・ミー・タッチ・ユア・ボタン b. ルージュ・エ・ブル c. カーニバル) 14. アウトロ〜ミリオン・ヴォイセズ 15. オン・ツアー 16. チャイナ・ワイン 17. スウィーテスト・ガール(ダラー・ビル)(Remix)

 デスティニーズ・チャイルドのデビュー・ヒット「ノー・ノー・ノー」からシャキーラ「ヒップス・ドント・ライ」に至るまで。もちろんローリン・ヒルとのフージーズ作品を含め、ソングライター/プロデューサーとしてワイクリフは大ヒットを量産してきた。と同時に、ハイチ系移民としての視点を盛り込んだ充実したソロ作を何枚も発表しているが、前作はあまりにも意欲的すぎて商業的に失敗。そんな状況を踏まえて、今回は豊富な人脈を活かし、多数のゲストを迎えたオールスター作品に仕上げてきた。 
 ただし、だからといって彼が硬派な意識を捨てたわけではない。ロック色の濃い「ライオット」ではアルメニア系移民であるサージ・タンキアン(システム・オヴ・ア・ダウン)と共演、「スウィーテスト・ガール(ダラー・ビル)」にはセネガル出身のエイコンらをゲストに迎え、「ハリウッド・ミーツ・ボリウッド」ではアラブ歌謡の女王ウム・クルスームの曲をサンプリングしている。絶大な人気を誇ったテキサス系女性歌手を取り上げた「セレナ」を含め、そうした音楽要素がアメリカからハイチへと至るアルバムのストーリーをいっそう豊かにしている。ネイション・オヴ・イスラムの指導者ルイス・ファラカーンを、演説家としてではなくヴァイオリン弾きとして起用した「ウェルカム・トゥ・ザ・イースト」のアイディアも抜群だ。 
 もちろん、シャキーラが歌う「キング&クイーン」やポール・サイモンとの「ファスト・カー」、メアリー・J・ブライジをフィーチャーした「ワット・アバウト・ザ・ベイビー」も聴きどころ。ノラ・ジョーンズの声が柔らかなギターとヒップホップ・ビートに溶け込む「エニー・アザー・デイ」は特に素晴らしい。そして、コンパ(ハイチ音楽)を基調にした13分ある組曲でアルバムはクライマックスを迎えるのだ。  

文=高橋道彦




CD REVIEW

期待度ナンバー1! ホベルタ・サー、注目のセカンド・アルバム登場


ホベルタ

 サンバといえばブラジルのリオのカーニヴァルのパレードや露出度の高い女性ダンサーを連想させる音楽としておなじみだ。
 しかしサンバが最初に人気を集めた1930年代のブラジルでは、サンバはラジオで普通に流れるポップなヒット曲だった。サンバの女王カルメン・ミランダはハリウッドに進出して南国情緒豊かなこの音楽を世界に紹介した。残念ながらハリウッドは彼女に陽気でお馬鹿なトロピカル娘というステレオタイプな役しか与えられなかったが。
 その後スタイルが多様化し、人気の浮き沈みはありつつも、サンバはブラジルの国民的な音楽であり続けている。ボサノヴァだって60年代の都会的なサンバのひとつ、という認識も近年は広がってきた。ポップやヒップホップとの結びつきも珍しくない。ホベルタ・サーはそんなサンバの現在を強く感じさせる若手歌手だ。
 この2作目では、中庭で気楽に楽しまれるようなアコースティックなサンバに最先端のサウンド処理がうまくほどこされている。簡潔な曲が多いが、編曲が多彩なので聞き飽きない。パレード気分の曲もあれば、粋でお洒落な曲もあれば、思索的な曲もある。
 しかしなんといっても魅力的なのは、柔らかくて気取らない彼女の歌声だ。聞き手に媚びず、うまくうたおうともせず、ほんとに素直に楽しそうにうたっている。その楽しさがスピーカーの外まで自然に伝わってくる。 

文=北中正和




CD REVIEW

THE KINKSのフロントマン、レイ・デイヴィスがソロ・アルバムをリリース


レイ・デイヴィス

Working Man's Cafe/ Ray Davies
ワーキング・マンズ・カフェ/レイ・デイヴィス
V2レコーズ/V2CP-348¥2,520(税込)

1.Vietnam Cowboys 2.You're Asking Me 3.Working Mans Cafe 4.Morphine Song 5.In A Moment 6.Peace In Our Time 7.No One Listen 8.Imaginary Man 9.One More Time 10.The Voodoo Walk 11.Hymn For A New Age 12.The Real World

 前作から約1年半、近年の好調さを物語るように、レイ・デイヴィスが驚くほど短いインターバルで2作目のソロ・アルバムをリリースした。今回、共同プロデューサーに迎えたのは、デイヴィスと同名のカントリー系ミュージシャンでもあり、ウェイロン・ジェニングスやフリートウッド・マック、スティーヴ・アール作品も手掛けているレイ・ケネディ。しかもカントリー・ミュージックの聖地、テネシー州ナッシュヴィルのルーム・アンド・ボード・スタジオで、地元ミュージシャンを起用してのレコーディングなのだから悪いはずがない。  
 とは言え本作は、レイ・デイヴィスによるカントリー・ミュージック・アルバムというわけでは勿論ない。もともとキンクス時代の60年代からカントリー・フレイヴァー漂う数々の名曲を生み出してきた彼ならではの、仄かなカントリー・ロック・テイストは同様ながら、より深い味わいや芳醇な香り、シニカルな毒や渋味も増した、これぞ違いの分かる男の頑固なロック・アルバムに仕上がった。例えばグローバリゼーションをシニカルな視点で歌った「ヴェトナム・カウボーイ」や、過ぎ去った日々への郷愁を甘く切ないメロディで歌うデイヴィス節炸裂のタイトル曲、ニューオリンズで暴漢に銃撃された際、救急救命室で書いたというブラック・ユーモアに溢れた「モルヒネ」など名曲揃いで、しっとりした歌声が肩肘張らないしなやかなバンド・サウンドとまったり馴染んだ、コクと旨味成分たっぷりの傑作だ。 

文=保科好宏




CD REVIEW

日野皓正が盟友・菊地と無心の芸術表現に徹した、衝撃的デュオ作品


Edges /Hino-Kikuchi Duo

 9月にクインテットによる『カウンターカレント』をソニーからリリースしたばかりの菊地雅章と日野皓正が、今度はデュオによる新作を発表した。1968年に初レコーディングをして以来40年がすぎている。この間、ふたりは節目ごとに素晴らしくも創造的なコラボレーションを残してきた。この作品はその最新ヴァージョンだ。
 即興演奏にかけては超個性的なアーティストのふたりである。個と個のぶつかり合いから生まれるスリリングな世界を、彼らほど変幻自在な形で表現できるひともいない。そしていつも強く思うのが、菊地と組んだときの日野の大胆不敵ぶりだ。元来、彼のプレイは奔放で触発的である。それが、菊地と共演することで一層の輝きを増す。
 ここでは、ふたりともそれほどメロディックなプレイはしない。難解な音楽という言葉を用いるなら、かなりその色彩は強い。しかし、不思議と聴いていて心地がいい。あらゆるテクニックと表現を駆使しながら、ひとりよがりで終わらない音楽をふたりが追求しているからだろうか。そこにキャリアの重みが感じられる。
 ソロ・パフォーマンスも1曲ずつ収録されているが、残りはふたりだけの演奏である。どちらも思いのたけをぶつけるかのように、自己のスタイルで最初から最後まで押し通す。その一歩も譲らぬ姿勢に真剣勝負の迫力を感じる。いつまでも心に響く日野の名曲「アローン、アローン&アローン」もこの作品で生まれた大きな収穫のひとつだ。

文=小川隆夫




CD REVIEW

オーガニック・サウンドの貴公子デヴェンドラ・バンハートの新作


Devendra Banhart

 フリー・フォーク、アシッド・フォークの新たなカリスマとして、ようやく時代が彼に追い付いた感のあるデヴェンドラの通算5作目。デビュー時のオーガニックでフリーキーな弾き語りによる音響フォーク的な路線から、前作では多彩なゲストを迎えてのカラフルなバンド・サウンドで、演奏面だけでなくファン層も大幅に拡げ始めた彼だが、本作はいよいよ一気にオーヴァーグラウンドへと浮上しそうな予感を抱かせる、そんなアルバムに仕上がった。
 新作はツアーに同行した彼自身のバンドを従えてのレコーディングとあってか、どの曲もしっとり馴染んだアレンジが心地よく、アルバム全体に漂うタイムレスな音の空気感を醸し出しているのが何よりも素晴らしい。収録曲も映画『モーター・サイクル・ダイアリー』の俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルとスペイン語でのデュエットを聴かせる1、ブラック・クロウズのクリス・ロビンソンがチャランゴ(南米の楽器)で参加したサイケなサンバ3、弾き語りからラテン・ロックとマジカルに展開し、最後は初期ニール・ヤング&クレイジーホースを連想させる8分弱の4、カリプソ+R&Bの11、内省的なレゲエ・チューン13等、その歌世界は変化自在だ。
神秘的でエスニック、どこかトラディショナルでありながらサイケデリックでもある、聴くほどに癖になって繰り返し聴きたくなる不思議なアルバムだ。カエターノ・ヴェローゾやセルジュ・ゲーンズブール等が好きな人にもお薦めしたい、スピリチュアルで心豊かな音楽が楽しめる注目作。

文=保科好宏




CD REVIEW

約15年ぶりのニューアルバムをリリースしたケヴィン・エアーズ


The Unfairground/KEVIN AYERS

 同時期にリリースされたソフト・マシーン時代の盟友、ロバート・ワイアットの新作も素晴らしい出来だが、ケヴィン・エアーズ約15年ぶりの新作も文句なしの傑作に仕上がった。ここ30年近くスペインのイビサ島に住み、隠遁生活に近い気儘なヒッピー+ボヘミアン・ライフを送っていたエアーズだが、本作はアリゾナ、ニューヨーク、グラスゴー、ロンドンの4ヶ所を巡る意欲的なレコーディングが奏功してか、70年代前半の全盛期の彼に戻ったように瑞々しく、また滋味溢れる歌の数々が胸に染みる。
 世界各地のレコーディングには多彩なゲストが顔を揃えているのも話題で、エアーズを敬愛するティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクやゴーキーズ・ザンゴティック・マンキのユーロス・チャイルドといった下の世代から、元ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラ(ロバート・ワイアットの新作にも参加)、プリテンダーズのロビー・マッキントッシュ、元ソフト・マシーンのヒュー・ホッパーといった同世代のベテランまで、彼の人柄を偲ばせる。
 どの曲もほのぼのと大らかなエアーズのヴォーカル中心の音作りのせいか、メンバーの違いやスタジオの違いなどまるで気にならないレイドバックした空気が流れており、それがアルバムのトータル感を醸し出しているのがケヴィン・エアーズのケヴィン・エアーズたる所以だろう。何よりも力みや気取りとは無縁の、自然体でしなやかな彼の歌声が耳に心地よく、もしかしたら癒し系という言葉は彼のようなシンガーにこそ相応しいのではないかと思う。聴くほどに味わい深い、今流行りのフリー・フォークの元祖のようなベテラン・アーティストの注目作の登場だ。  

文=保科好宏




CD REVIEW

UKロック界の偉人、ロバート・ワイアットのニューアルバム


ロバート・ワイアット

 “元ソフト・マシーン”なんて紹介がなくても、今のロバート・ワイアットは若いリスナーに対して十分訴求力あるアーティストとして前線復帰している。特に97年の『シュリープ』以降のワイアットは、“うた”を基軸に置いたヒューマンな作風ながら、丹念な音処理や優美なアレンジを施すことで、音響面でロックを楽しむような世代にも受け入れられるようになった。ポール・ウェラーのような後輩世代もゲスト参加することで、英国ロックの歴史の縦軸をしっかり貫く存在であることも改めて伝えてくれるようになり、つまりは今のイギリスにおいて、最も現代的で先鋭的でリスペクタブルなオジサン・アーティストになったというわけだ。
 そんなワイアットの約4年ぶりの新作は、フランツ・フェルディナンドやアークティック・モンキーズなどを送り出した、今のイギリスで最も元気なインディー・レーベルであるドミノからのリリース。もう、それだけで今の彼の立ち位置がわかるだろうが、実際、オペラを意識して3つの章に分けた本作は、一見、隠遁生活を送っているような彼のシャープな創造性をそのまま飾らず形にした力作だ。最も聴きやすいのはスティール・パンを効果的に使用したアクト2だろうが、この人のエッジーな側面が出ているのはアクト3だろうか。全体を通して、アングロ・アメリカンが世界をリードしていることに対して、イタリア語やスペイン語で歌うことによって批判、揶揄したようなテーマを感じさせる1枚で、そんなところにワイアットの人生哲学を見い出すこともできる。ブライアン・イーノ、フィル・マンザネラ、ポール・ウェラーらいつもの仲間も応援参加。こういう大人がもっと増えれば世の中、俄然面白くなるのに、と思わずにはいられない。

文=岡村詩野




CD REVIEW

アフロ・アメリカン的な視点からの再創造―タンゴ・ネグロ・トリオ


タンゴ・ネグロ・トリオ

 11月初旬より日本ツアーを行なう(行なった)アルゼンチンのグループの最新アルバムだ。名前からしてタンゴを演奏するグループだが、このグループのタンゴは普通のタンゴとはちがう。なにしろタンゴでおなじみのヴァイオリン奏者が一人もいないし、バンドネオンもちょっとしか出てこない。それでタンゴができるのか。できるのである。ちょっと頭を柔軟にしさえすれば。
 ピアノを弾いているリーダーのフアン・カルロス・カセレスは、もともとジャズのトロンボーン奏者で、60年代にはパリで女優のマリー・ラフォレのバンドに参加していたこともある。以後、パリを拠点にミュージシャン/画家として活動してきた。アルバムのジャケットの絵も自分で描いている。
 その彼がこのところ熱心に取り組んでいるのは、ルーツをさかのぼって、アフロ・アメリカン的な視点からタンゴを再創造する試みだ。19世紀にタンゴが誕生したころには、アフリカ系の人たちが大きな役割を果たしていたのに、いまはそれがすっり忘れ去られていることへの異議申し立てと言ってもいい。1曲目にしても、お、キング・クリムゾンか、という感じのサックスを使ったブルース風のリフからはじまる。
 ゴタン・プロジェクトで現在進行形のタンゴにふれたロック世代の音楽ファンなら、こんなおもしろいタンゴがあったのかと思うのではないだろうか。

文=北中正和




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UKロックシーンの新星、ジャック・ペニャーテのデビュー作


ジャック・ペニャーテ

 今イギリス、そしてここ日本でも話題の23歳のシンガー・ソングライター、ジャック・ペニャーテのデビュー作は、時代やトレンドといった言葉とは最も遠い場所にありながら、同時に今という時代の瑞々しさを強烈に感じさせる不思議なアルバムだ。
 そのサウンドをひと言で形容するなら真っ直ぐで屈託のない清々しいギター・ポップ・ミュージックということになる。もう少し具体的に音の雰囲気を喩えるなら、初期スタイル・カウンシルやハウスマーティンズ、あるいはアズテック・カメラやヘアカット100を連想させる、軽快でフレッシュなサウンドの空気感が心地よいネオアコ系ギター・ポップと言えば分かってもらえるだろうか。はっきりいって音楽面、サウンド面共に驚くような新しさは何もない。しかし、それでもアルバムの最後の曲まで聴き手惹きつけて止まないのは、楽曲とヴォーカルそのものに、シンガー・ソングライターとして最も大切な訴求力が宿っているからだろう。
 そんなペニャーテの本作を聴いていて気付いたのは、しなやかで温かいポップ・メロディの裏に60年代のソウル/R&Bといった、若いにも拘わらずいかにも英国人アーティストらしい伝統的な音楽要素を持ち合わせている点で、結果的にそれがひと頃のポール・ウェラーを想起させる2や5等のメロディやアレンジに繋がっているのだろう。恐らく本人にそんな自覚は無いだろうが、ある意味実にオーセンティックでイギリス人ならではのアーティストではある。またそれだけでなくモータウン・ビートは勿論、レゲエやメロウなバラード等、歌本位のアレンジも実に柔軟で、敏腕プロデューサー、ジム・アビスとトニー・ホッファーによるペニャーテの素朴な持ち味を活かした簡素な音作りも好感が持てる。

文=保科好宏




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デペッシュ・モードのデイヴ・ガーンがソロ2作目をリリース


デイヴ・ガーン

 デペッシュ・モードのヴォーカリストによる4年ぶりのセカンド・ソロ作。もともと初ソロ作もバンドに対する音楽的な不満から作ったわけではないことは、同質の音世界からも見て取れたが、本作では前作以上にエレクトロニックなサウンド要素が比重を増したこともあってか、ますますデペッシュ・モードの音に近付いたように感じる。
 もうひとつデペッシュ・モードに接近した理由として、ガーンがツアー・メンバーでもあるギタリストのアンドリュー・フィルポット、ドラマーのクリスチャン・エイグナーを誘い完全コラボレーションで作り上げたこともあるのだろうが、それにしても驚くのは曲作りを始めてまだ間もない彼のソングライターとしての急成長ぶりだ。ご存知のようにデペッシュといえば絶対的なソングライター、マーティン・ゴアがいるわけだが、まるで長年の活動で曲作りの感性までゴアと同化してしまったようなガーンのメロディや歌世界は、デペッシュ・モードのファンなら何の違和感も感じることなく聴くことが出来るはずだ。
 逆にファンの中には、それならソロ・アルバムを作る意義はどこにあるのかと言う人もいるかもしれないが、初ソロ作以降、デペッシュの新作に初めてガーンが自作曲を提供するなど、着実にバンドの活性化に繋がっていることは間違いない。そして当然ながら、ガーンはこのソロ作でデペッシュの音世界を焼き直しているわけではなく、曲によってはナイン・インチ・ネイルズやデヴィッド・シルヴィアンを想起させる静謐にして深淵な音世界を垣間見せる瞬間も少なくない。そしてゲストとしてガーンの友人でもあるレッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテが参加し、オープニング曲の「ソー・サムシング」で彼らしい幽玄なギター・ソロを披露しているのも聴きものだ。
 それにしてもガーンのソウルフルながらも抑制の効いたヴォーカルの魅力は、デペッシュ・モードの精緻でエレガントな音世界の主役として欠かせない存在であることを、改めて再認識させられるアルバムだ。

文=保科好宏




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話題のジャズ・ボーカリスト、マット・ダスクの日本デビュー盤


マット・ダスク

 ここ数年、海外では若いシンガー、それもジャジーでポップな感覚を持ったシンガーの台頭が著しい。ここに登場したマット・ダスクもそんなひとりだ。メジャー2作目にして本邦デビュー作となったこの作品では、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドに乗せてご機嫌なヴォーカルを聴かせてくれる。ジャングル・ムードからジャイヴを経て、モダンなビッグ・バンド・サウンドまで、ゴージャスなサウンドを持ったオーケストラがこの若きシンガーをさまざまな形でバック・アップする。オールド・ファッションにしてウルトラ・モダン。この両面性がジャズ・ファンのみならずクラブ・ファンにも受け入れられ、本邦での発売が見送られた1作目も欧米では大きな反響を呼んだ。そしてヴォーカル面でもサウンド面でもさらにスケール・アップしたのが今回の新作だ。曲もオリジナルとスタンダード・ナンバーからいいものばかりが選ばれている。とくに強力なオーケストラ・サウンドをバックに力強い歌唱を聴かせる「オール・アバウト・ミー」が感動的。これなどロック・ファンにも訴えかける内容だと思う。一転して「ザ・ベスト・イズ・イエット・トゥ・カム」では、ロマンティックなビッグ・バンドとストリングスをバックにフランク・シナトラのカヴァーが取りあげられる。この都会的で洒落たセンスのヴォーカルこそがマットの魅力である。アレンジャーにも大御所のサミー・ネスティコやこのところ立て続けにいい仕事をしているヴィンス・メンドーサなどが顔を揃えている。

文=小川隆夫




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ジョニ・ミッチェルが5年ぶりに復帰作をリリース!


ジョニ・ミッチェル

 一度は音楽家としての自分に幕を下ろし、画家としての人生に邁進することを決意していたジョニ・ミッチェルが5年ぶりに復帰作『シャイン』を発表した。それも、スターバックスとコンコードによる新レーベル=ヒア・ミュージックから。レーベル立ち上げ第一弾となったポール・マッカートニーの新作に続くセカンド・リリースとなる。
 何かとジャズへのアプローチが指摘されるジョニだが、この新作では最近の作品では珍しくシンプルで比較的わかりやすいメロディ主体のナンバーが多く、飾り気のない素朴なジョニの横顔が伝わってくる内容。ジョニのかつてのパートナーでもあったラリー・クライン、ブライアン・ブレイド、パウリーニョ・ダ・コスタ、そしてジェイムズ・テイラーらも参加してはいるものの、今年64歳になる彼女が自ら奏でるギターやピアノを生かしたヒューマンな感触になっているのがいい。
 また今作は、彼女の地元、カナダのカルガリーにあるバレエ団から依頼されて公演『ザ・フィドル・アンド・ザ・ドラム』用に書いた曲や、かつてのヒット曲「ビッグ・イエロー・タクシー」の再演も含まれており、何かと映像的な仕上がりになっているのも特徴。ジャケット写真がその公演とリンクしたものなのかはわからないが、小さい頃にバレリーナを志したこともあるという彼女、だからこそ本作はこんなにも人間味溢れる1枚に仕上がったのかもしれない。知性溢れる女性の、ピュアネス、無邪気さを垣間見ることができる作品が、60代の彼女から届くことになろうとは。そう考えると実にかんがい深いのだ。

文=岡村詩野




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破天荒なアーヴァン・ソウル・ディーヴァの話題の日本デビュー作


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 歌というのは、持って生まれた声質や身に着けたテクニック以上に、改めて人生経験が滲み出る感情表現なんだなとつくづく思う。 早くも全世界で3百万枚を売り上げたエイミー・ワインハウスのセカンド作は、素行不良で16歳の時に学校を退学になり、10代後半で酒と男に溺れ、何かある度に身体にタトゥーを入れる(現在12〜13個)という、ワルカッコいい生き様を赤裸々に歌ったリアルな女の履歴書だ。例えばアークティック・モンキーズがライヴで歌う「ユー・ノウ・アイム・ノー・グッド」は、愛する男がいながら元カレともセックスしてしまうダメな女の歌だし、プリンスがカヴァーした「ラヴ・イズ・ア・ルージング・ゲーム」では“愛だけは運命に任せるしかない”と達観したように歌う、全て自身の体験に基づいた自作による“痛い想い出”の歌たちだ。
 しかも信じられないことに、この声、この歌唱力と表現力でまだ23歳という若さなのだから、ブライアン・フェリーを始め大物アーティストたちも絶賛し、今年のワイト島フェスティヴァルで大トリを務めたローリング・ストーンズのステージに招かれミック・ジャガーとデュエットするなど、破格のディーヴァぶりを見せつけているのだから注目されて当然だ。何を歌ってもサマになるこの声は、男なら誰でもグッとくること間違いなしだが、リリー・アレンも手掛けたマーク・ロンソンの、レトロ感と新しさが入り交じったジャズ、R&Bアレンジによって彼女の魅力を鮮やかに引き出したプロデュースも実に味わい深い。 僕の想像ではあるが、多分この手の女は一見恐そうでいて、実は寂しがり屋で情が深く優しいような気がする。そんな女の歌を聴いていると、何故か無性にお酒が飲みたくなる。

文=保科好宏




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30年経って思い知らされた(遅かった?)リビー・タイタスの魅力


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 ひょんなことから、この人のことを思い出したのは1年ほど前だ。ニューヨークの若手バンド、オラベルを知ったときで、メンバーの中にエイミー・ヘルムという覚えのある名前があった。ザ・バンドのリヴォン・ヘルムの娘さんで、母親が確かリビー・タイタスだったことを思い出したからだ。そしてそのリビーは、現在ドナルド・フェイゲンの奥さんで、フェイゲンの新作『モーフ・ザ・キャット』も、ちゃっかり彼女に捧げられていた。
 『リビー・タイタス』は、1977年に彼女が残したアルバムだ。この夏に紙ジャケットで復刻されて以来のぼくの愛聴盤で、それも、昔付き合っていて、知り尽くしていたつもりの女性と久々に再会してみると、実はなにもわかっていなかった、例えばそういう自分の未熟さを恥じ入るような思いで改めて聴いている。ポール・サイモン、カーリー・サイモン、ロビー・ロバートソンの3人がプロデュース、それを名匠フィル・ラモーンがまとめている。
フィルは、都会の大人の洗練された音作りには定評のある人で、ここでもドン・グロルニックのピアノやヒュー・マックラケンのギターなど、演奏者各自の手の動きや、息の遣いようがみえるくらいに鮮やかに音を描いてみせる。もちろん、彼女の歌声がいちばんの聴きどころだ。代表作「ラヴ・ハズ・ノー・プライド」をはじめとして、派手さを押さえてこそ艶やかな美しさが際立つことを知る人の、その歌いっぷりに、ぼくは溜息がこぼれる。そしてその溜息は、窓の闇に映る月にスーッと吸い込まれていくのだ。

文=天辰保文




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日本独自企画 ザ・フー 紙ジャケX5タイトル


 「紙ジャケ」という言葉は、今や世界中の音楽ファンの間でポピュラーになりつつあるが、その理由は紙質やオマケ等、細部にまで拘った日本メイドの緻密な仕事ぶりにある。今回のザ・フーのCD5タイトルは、好評だった全オリジナル・アルバム作品の紙ジャケ化に続くもので、5枚のうち2枚が日本独自のアートワーク、一枚がアメリカ編集盤、もう一枚がイギリス編集盤で、60年代ならではのアートワークが楽しめるのがミソだ。
 今回の5作品の中でも最大の目玉は、67年3月にテイチク・レコードから発売されたデビュー作『マイ・ジェネレイション』で、通称"ガールズ・ジャケット"と呼ばれる日本盤独自のアートワークが目を引く。実はこのオリジナル・アナログ盤、世界中のコレクター垂涎のレア盤で、もし帯付なら50万円は下らないことでも有名だ。もちろんお約束の帯まで再現し、24bitでリマスタリングされたモノラル・ミックスを使用しているのも注目で、本作のモノラル盤リリースは今回が初めてだ。
 また68年発売の『恋のマジック・アイ』は、イギリス本国では67年発表のサード作『THE WHO SELL OUT』と曲順も同様で、アルバム・タイトルを変更し、こちらもジャケットは日本オリジナルだ。この作品はザ・フーの中で唯一、ステレオ盤とモノラル盤が存在するアルバムで、今回の音源はCD化では世界初となるオリジナル・モノラル・ミックスを使用。ステレオ・ヴァージョンとはギター・ソロが異なる「過ぎし二人の恋」が、アルバムの形で正式にCD化されたのは特筆ものだろう。
 そしてアナログ盤時代も含めて、今回が日本初登場となるのが68年のアメリカ編集盤『マジック・バス〜ザ・フー・オン・ツアー』。何やらライヴ盤と間違えそうなタイトルだが、これは全米ツアー時に併せてリリースされたアメリカ独自の編集盤で、何と言ってもこの時代ならではのサイケ・ペイントされた2階建バスとサイケ・ロゴのタイトルがカッコいいジャケットとしてファンの間では昔から人気の編集盤だ。アルバムの内容は今回同時に発売されるやはり68年のイギリス編集盤『ダイレクト・ヒッツ』と三分の一ほど重複するものの、同じ曲でも本作でしか聴けないステレオ・ミックス曲も収録されているだけにファンにとっては無視できない作品だ。
 また、意外にも今回が世界初CD化となる『ダイレクト・ヒッツ』は、一応68年時点までのベスト盤的な英編集盤ながら、プロデューサー、シェル・タルミー『マイ・ジェネレーション』収録曲が一曲も入っていない。とは言えヒット・シングルでアルバム未収録だった「恋のピンチ・ヒッター」や、ローリング・ストーンズのカヴァー「ラスト・タイム」等を収録し、オリジナル・モノラル・ヴァージョンに拘って一部音源の差し替えも行ない質を高めているのも心憎い配慮だ。
 そして今回のリイシュー中、唯一の70年代編集盤にして60年代を総括した決定版ベストが、71年作品『ミーティ・ビーティ・ビッグ・アンド・バウンシィ』だ。使用したマスター・テープはオリジナルLP用のステレオ・ミックスという拘りようで、本作でしか聴けない「アイム・ア・ボーイ」の再録別テイク、「マジック・バス」のロング・ヴァージョンも注目で、フー・マニアはこのアルバムも要チェックだろう。もちろん全作品、紙ジャケ、帯も全て当時のアナログ盤を忠実に再現したマニアックな拘りが嬉しいリイシューだ。

文=保科好宏

※編集部注 『マイ・ジェネレイション』『マジック・バス』『ダイレクト・ヒッツ』に関しては、すでに在庫がなくなっています。
※編集部注 ジャケット写真をマウスオンするとジャケット裏面もごらんいただけます。




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ハービー・ハンコックが9年ぶり待望のジャズ・アルバムをリリース


 10月に来日するハービー・ハンコックの最新作。今回は独特の活動で知られるシンガー・ソングライターのジョニ・ミッチェル作品集であることに興味が惹かれる。ハンコックはこれまでジャンルを超える活躍によって幅広いファンから大きな支持を受けてきた。その集大成ともいえるのがこの作品。ミッチェル本人をはじめ、10年ほど前に引退宣言をしたティナ・ターナーまで参加しているし、その他のゲスト・シンガーも、ノラ・ジョーンズ、コリーヌ、レナード・コーエン、ルシアーナ・ソウザなど、これまたジャンルを超えて多士済々にわたっているところがハンコックらしい。加えて、盟友のウエイン・ショーターとデイヴ・ホランド、さらにはリオーネル・ルオケとヴィニー・カリウタで構成されたバンドが、ジャズであってジャズでないような演奏で音楽を盛り立てる。ハンコック自身は、いつもの繊細かつ内省的なプレイで、どんなタイプの曲を取りあげても本質を変えていない。その美しいタッチは「青春の光と影」を聴けば一目瞭然だ。単独リーダー作では9年ぶりのアコースティック作品ということだが、これはそれだけ彼がこの間にさまざまな音楽をやってきた証である。今回はこういうテーマなので、プロデューサーもジョニのパートナーで最近はマデリン・ペルーの作品も担当しているラリー・クラインがその任に当たった。これも功を奏している。

文=小川隆夫




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イギリスで今、最も注目を集めている3ピースバンド、ジ・エナミー!!


 今時の若いロック・バンドなんて殆ど興味がないというのが30代以上の音楽ファンに共通する思いだろう。しかしそれは単に聴かず嫌いというもので、今でも60年代〜80年代当時と同じ感覚で楽しめる、音楽性や演奏の質でも遜色ない素晴らしいバンドは少なくない。中でもスペシャルズとツー・トーン・レーベルの発祥地、コヴェントリー出身のジ・エナミーは、70年代の英パンク好きにこそお薦めしたいバンドで、ザ・ジャム・ファンだった40代半ば前後の元モッズ少年にこそ聴いて欲しい逸材だ。
 しかもこのデビュー作、ダムドやエルヴィス・コステロ等を輩出した70年代の名門レーベル、スティッフが、彼らのために運営を再開したのを始め、英メディアも挙ってオアシス、アークティック・モンキーズ等と比較して紹介しているのだから期待値の高さはかなりのものだ。実際、キャッチーなメロディが耳に残るギミック無しのロックンロールは、真っ直ぐな彼らの心意気が伝わる清々しいもので、ジャムを連想させる256、スミス/モリッシー系メロディの311等、英ロック伝統の香りを放つメロディ・メイカーとしての才能は、最近の新人ではピカイチだ。
 実は先日、サマーソニックで来日した彼らのライヴを観たのだが、若かりし頃のポール・ウェラーを彷彿させる熱血漢、トム・クラークを始め、このバンドこそジャムの再来。しかもデビュー直後にして全盛期のジャムを想わせる堂々たる演奏力と風格まで持ち合わせているのにも驚かされた。確かに閉塞感に覆われた社会に疑問を呈し、妥協せずに信念を持って生きろというメッセージは青臭いかもしれない。しかし今だからこそもう一度、そんな歌に熱くなってみるのも悪くない。

文=保科好宏




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ミスター・クラッシュ、ジョー・ストラマーが甦る!


 今年はデビュー30周年とあって、ベスト・アルバム『ザ・シングルズ2007』のリリース等、何かと話題のクラッシュ。この9月には没後5周忌を迎えたジョー・ストラマーの伝記映画『LONDON CALLING-ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー』も封切られ、改めて50歳という若さで突然逝ってしまったミスター・クラッシュ、ジョーを追悼するファンが連日映画館に詰め掛けているようだ。
 このアルバムはそのドキュメンタリー映画のサントラ盤だが、クラッシュという時代に選ばれたパンク・バンドのフロントマンだった頃の音楽だけでなく、その前後に遺した作品や、ジョーが晩年の3年間、BBCワールド・サービスの番組で好んでかけていたエディ・コクランやMC5、ボブ・ディラン、ニーナ・シモンといった多彩なアーティストの曲まで(ジョーのDJ入り)、彼の音楽に対する愛情や嗜好、人柄まで感じられる選曲なのが他の編集盤とは異なるところだ。
 その他の収録曲で注目曲を紹介すると、まずクラッシュ前に在籍していたThe 101ersが75年に発表した唯一のレコードで、パブ・ロック〜パンク前夜といった雰囲気の“キー・トゥ・ユア・ハート”の収録は貴重だ。勿論クラッシュ・ファンには初期の未発表デモ“白い暴動”の生々しいジョーのヴォーカルは鳥肌ものだろうし、同時期の未発表デモ“反アメリカ”や、84年のラスト・ツアーからの未発表ライヴ“ボウリング・レイン”も本作の目玉だろう。いずれにせよクラッシュ、ジョー・ファンにとって、この映画とサントラ盤は、ジョー・ストラマーというミュージシャンの生涯を振り返り理解を深める上で最高のアイテムだ。

文=保科好宏




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ドアーズの40周年に究極のベスト盤発売!


 没後36年経つ今も永遠のロック・イコンとして君臨し続ける希代のヴォーカリストにして詩人、ジム・モリソン。彼が生前に残したドアーズのオリジナル・アルバムは6枚だけだが、死後に出た作品は編集盤も含めれば優にその10倍は下らないだろう。そんなドアーズのデビュー40周年に当たる今年、満を持して制作されたのが、オリジナルのマスター・テープ音源を最新の技術で再生し、全面的にリミックスを施した6枚の紙ジャケCDと全20曲収録のこのベスト盤だ(DVD付きの限定デラックス・エディションもあり)。
 本作を聴けば一聴瞭然だが、まず驚くのは最近の録音作品のように思えるほど著しく音質が良くなったことだが、それだけでなくこれまで聴き慣れた作品と微妙にミックスが違うのが判るはずだ。例えば「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」はフェイドアウトが早いオリジナルにはなかったモリソンのフェイク風なヴォーカルを復活させたり、「ブレーク・オン・スルー」では当時ドラッグを連想させるとしてカットされたモリソンが歌う“シー・ゲッツ・ハイ”の“ハイ”の部分を復元したり、演奏部分でも新たな発見がいくつもある。
 この5月にインタビューに応じてくれたレイ・マンザレク(key)は、本作の制作時、スタジオでモリソンの存在を感じ、「ジムが“モア・クリスプ!”(もっと歯切れ良く!)と言うのが聞こえたんだ」と話していたが、正に目の前でジム・モリソンが歌っているようなそんな錯覚すら覚える生々しくクリアな音像は、これまでの古いオリジナルしか知らないリスナーには新鮮に響くに違いない。

文=保科好宏




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伝説のソウル・シンガーをライ・クーダーがサポート


 バスで白人に席を譲らなかった、それだけの理由で黒人女性が逮捕される現実が、僅か50年ほど前の米国南部地方にあった。そして、その女性ローザ・パークスこそが公民権運動の母と讃えられ、ネヴィル・ブラザーズが、その勇気ある「ノー」に「有り難う、ローザ」と歌った人だ。しかし、我々の普段の生活からもわかるように、いまもなおいろんな形で差別が存在していて、力のない弱い立場の人ばかりがいつも痛めつけられ、虐げられる。メイヴィス・ステイプルズの「ネヴァー・ターン・バック」は、そんな状況に改めて「ノー」といい、人間の尊厳と自由を守るために戦い続けると歌う素晴らしいアルバムだ。
 父親に率いられたステイプル・シンガーズを含めて、50年代から歌い続けて当年68歳。しかも、サポートするのはライ・クーダーだ。彼もまた、世界の片隅で細々と生きる音楽や人たちに光をあててきた人だけに、二人の気持ちが重なって大きな振幅を音楽にもたらしていく。メイヴィスの豪放な歌声に加えて、ライの縦横無尽に駆けめぐるスライド・ギターが楽しめるのも久々のことで、それだけでも嬉しい。「ジーザス・イズ・オン・ザ・メイン・ライン」のように、その昔ライが取りあげた曲もある。神様が電話にでてるから願いを言ってごらんと歌いかけるトラディショナル・ソングで、いずれも甲乙つけがたい出来映えだ。音楽に、技術と精神という筋肉がたっぷりついている。だから、歌に弾力があって、指で突くと生半可な力だと弾き返される、そういう歌ばかりだ。

文=天辰保文




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レバノンの至宝、ファイルーズの傑作が国内盤でリリース


 ファイルーズ(フェイルーズとも読む、トルコ石という意味がある)は、ぼくが死ぬまでに一度は来日してほしいと願っている歌手の一人だが、それは難しいかもしれない。なにしろ全アラブ圏最高の人気歌手だし、大オーケストラをバックにしかうたわないので、知名度が低い日本では、呼んでも採算がとれないからだ。中東との貿易でうるおっている商社や石油会社あたりが、ポンと一肌脱いでスポンサーになってくれないだろうか。
 それはともかく、11月で72歳になる彼女は、レバノンにキリスト教徒として生まれ育ち、いまも首都のベイルートに住んでいる。レバノンは、複雑な中東情勢の中で、たびたび内戦に見舞われ、諸外国の干渉や空爆を受けてきた。80年代の内戦で中東のパリと呼ばれたベイルートが瓦礫の山になったときも、街を離れなかった彼女の歌が、どの立場のレバノン人からも敬愛されてきたことは『愛しきベイルート』という映画に詳しい。
 その彼女が1972年に発表したのがこのアルバムだ。エルサレムはキリスト教徒にとっても、イスラム教徒にとっても、ユダヤ教徒にとっても聖地。故郷にいつか帰りたいとうたわれる冒頭の曲は、中東に暮らす人々には他人事ではない願いを意味する。だから彼女の歌は宗教の対立を越えて聞かれてきた。
 西洋風のオーケストラ演奏は時代を感じさせるが、クールな歌がはじまると空気が一変する。かけがえのない素晴らしい歌声だ。

文=北中正和


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