2009.04.09UP
●独特の音色で、主張のあるベース
――ビートルズの曲を初めて聴いたのはいつ頃ですか。
小学校の高学年くらいです。二つ違いの姉が早くから洋楽が好きで、とくにアーティストにこだわらずいろんなドーナツ盤を買ってきて、そのなかにビートルズが混じってましたね。自分でさかのぼって真剣に聴くようになったのはもう少しあとです。最初に聴いていたのがシカゴで、管楽器が好きだったんですけど、高価なものだからショーウィンドウにへばりついてながめるだけ。友人のお兄さんが持っていたギターを弾かせてもらったら、おもしろいなと思ったので、形がクラシック・ギターでスティール弦を張ってあるギターを、当時3000円で買いました。

――ベースに興味を持ったのは?
高校時代ですね。やっぱりシカゴのピーター・セテラがピックで弾くベース、あのフレーズが好きで、それでベースに興味を持ちだしたのかな。文化祭とか友だちと遊びでやるときは、ギターとベース両方やってましたね。ベースのほうが弾く人が少ないから、両方できるとどうしてもベースをやる機会が増えちゃって。
――このベースはすごいと感じたビートルズの曲はありますか。
いっぱいあるんですけど、ポールらしさが出てるのは「カム・トゥゲザー」。少し丸い音だけど、ピックで弾いたら中音も抜けていて、ベースがすごくはっきり聞こえてくる。ほかのベーシストと違うのは、ポール独特の音色を持ってるところ。もっと違うのは、単にルートを弾くだけじゃなくて、メロディ・ラインをちゃんと持ってるところですね。あれが勉強になります。ベースだけをやる人にはできない、音楽をわかっていないとできない、マルチプレイヤー的な感じがしますよね。
――耳で聴いて気持ちいいベース・プレイと、ご自身でベースを演奏して気持ちいい曲は違いますか。
聴いて気持ちいいのは、やっぱりポールのバラードですね。たとえば、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」はバラードのなかでも名曲。ああいう曲のちょっとしたベース・ラインがかっこよかったですね。映画で見ると、あの曲ではジョンがベースを弾いてるけど、フレーズはポールっぽいんですよね。
弾いて楽しいのは「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」とかね。ああいうのはチューリップでもやったし。ロックンロールぽいフレーズなんだけど、やっぱりポールの主張があるんです。普通じゃないんですね。あとは「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」「レディ・マドンナ」が楽しいかな。ポールらしいフレーズが僕は好きですね。
――ほかにお好きなベース・プレイヤーは?
ベーシストとして尊敬してるのは3人います。ジャコ・パストリアスと、スタンリー・クラークと、ポール・マッカートニー。スタンリー・クラークはポールの『タッグ・オブ・ウォー』と『パイプス・オブ・ピース』でもやってましたね。あのときはファンとしてうれしかったですよ。あと、スタッフっていうグループのゴードン・エドワーズ。それに、ラリー・グラハム。今で言うスラップ、昔で言うチョッパーを始めたベーシストです。それぞれのスタイルがあるけど、もしかしたらポールはその人たち以上にすごい。彼みたいなベーシストって、ほかにいないんですね。いろんな名曲を作って、さらにベースまですごくて、自分のスタイルを確立している人はほかにはいないですよ。
――ビートルズの4人のなかでは、やっぱりポールがいちばんですか。
ジョージも好きで、ソロ・アルバムは何枚か買いましたよ。エリック・クラプトンも好きなので、その二人のつながりで、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は僕のライブでやりました。
●ポールと同じヘフナーのベース
――ウイングス時代のポールは主にリッケンバッカーのベースですが、ヘフナーとの違いはなんですか。
ヘフナーはショートスケールって言われてるんですけど、僕のなかではミドルスケールなんですよね。正確に言うと、フェンダーのムスタングっていうベースがショートスケールで、その次に長いのがこのヘフナー。その次がリッケンです。その次がフェンダーのプレシジョンやジャズ・ベース。大きく分けると、彼は中間の2本を愛用してるんですよね。ヘフナーは当時安くて、ポールが使わなかったら今はないかもしれないメーカーじゃないかと思いますけどね。そして左利き用があった。左右対称なので、左利きのポールが持っても不自然じゃない。それから、ビートル、カブトムシに形が似てる。でも、いちばんのメリットは、軽いことです。何時間しょっても、エレキ・ギターより、アコースティック・ギターより軽い。対照的なのがリッケンで、重いんですよ。ただ、テンションがフェンダー・ベースよりも若干弱いので、独特な粘りのある音が出る。ポールは硬いピックで弾くから。音の抜けはヘフナーよりリッケンのほうがありますよね。ポールはそうとういろんなことを考えてヘフナーの音を作ってるんですよ。そうじゃないとあんな音は出なくて、なかなかポールをまねするのは難しいですよね。リッケンバッカーも同じで、誰でもリッケンのベースを弾けばポールの音が出るかと言えばそうではないんですね。

――90年代になってからポールの来日公演はご覧になりましたか。
最近の(2002年)は行きましたよ。その前は93年かな。その2回です。
――ポールがまたヘフナーを使いはじめました。
そうそう。僕のベースは同じヘフナーの500/1ですけど、キャバーン・モデルなんですよ。キャバーン・クラブ時代に使われてたもので、リア・ピックアップが真ん中に来てるんです。ポールは今持っているヘフナーを63年に買ってるんですけど、そのときからキャバーン・モデルはサブになって、表にはあまり出てないんですね。でもレコーディングでときどき使って、両方使い分けてたんだと思うけど。大事にしてたのに、盗難に遭ったんですよね。
――宮城さんはいつ頃から使ってらっしゃるんですか。
これはチューリップ再結成のあとからですね。ほかのベースはいつも買うんですけど、このベースだけは譲ってもらったんです。チューリップのステージではアコースティックのコーナーでよく使うんですけど、音がやっぱりアコースティック・アレンジになじむんですよね。あまり出しゃばらず、あったかい感じで。見た目もアコースティックっぽいしね。
●武道館で深呼吸、行ってみたいキャバーン・クラブ
――ビートルズゆかりの地に行ったことはありますか。
武道館ですねえ。財津和夫が言ってたんですけど、チューリップがずっと武道館でやらなかったのは、ビートルズがやった場所だから、僕らはやっちゃいけないんだ、あそこではできないんだって。そのうち解散して、8年後の97年に再結成して、武道館でやったんですよ。そのときの気持ちの変化までは聞いていないんですけど、僕はあのとき、武道館の楽屋で思い切り深呼吸しましたね。ついに来たか!って(笑)。この景色をビートルズも見たんだなあって思いました。
――ステージから見た景色はどうでしたか。
第一印象は、思ったより小さいな、近いな。よく見ると、お客さんの顔まで見える。アリーナの端のほうでもステージが近いんですよね。拍手が上から降ってくるんです。桜吹雪のような拍手を浴びてる感じ、観客の声援に包まれる感じ。そういうステージでしたね。包まれてるし、届いてる、一体感が生まれる感じです。その後も武道館にこだわる人は多いですよね。
――海外で訪ねたところは?
イギリスではロンドンにほんのちょっとしかいなかったので、ゆかりの地まで足を延ばしたことはないんです。アビイ・ロード・スタジオでは僕以外のチューリップのメンバーはやってますね。
――今後行ってみたいところはありますか。
リバプールのキャバーン・クラブはぜひ見たいですね。一度、チューリップがキャバーン・クラブでやろうっていう話があったんですよね。31年ぶりに福岡の照和っていうライブハウスで、チャリティでやったとき(2002年、福岡市保健福祉局に寄付)。あの企画を立てたときに、もう二つ案があって、一つはキャバーン・クラブからネット中継をやるっていう案。もう一つ、チューリップゆかりの鈴蘭高原で野外ライブをやるという案があった。けっきょく照和になったんですけど、キャバーン・クラブ案もいい線まで行きましたよ。
――ビートルズのキャバーンに当たるのがチューリップの照和ですから、キャバーンの企画はぜひいつか実現を。
そうですね。やっぱりチューリップはビートルズがなきゃ生まれてないバンドですから。
取材・文/淡路和子
