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2009.04.30UP

#84 杵屋裕光「今なら三味線でビートルズをカバーできると思う」

●ビートルズは「手ほどき」、ロックの基本

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――杵屋さんが初めて触れた音楽というと当然、長唄だと思いますが、三味線を初めて弾いたときのことなど覚えていらっしゃいますか。

胎教から長唄と日本舞踊を体験してましたが、見よう見まねでバチを持って三味線を構えて、遊びで試し弾きしたのが6歳ぐらいだったと思いますね。それまでは、父に、三味線に触ってはいけないと言われてたんですよ。というのは、私を唄歌いにさせたかったのと、三味線は壊れやすいから、触って折ったりするといけないので。本格的に三味線を始めたのは中学1~2年です。

――洋楽やギターとの出会いはどんなきっかけですか。

僕の知り合いが持ってたベンチャーズのレコードを聴かせてもらって、それでギターっておもしろそうだなって思ったんですね。ギターを借りてきて、僕も欲しいと思って、お年玉をためて、いちばん安かった5000円のガット・ギターを買ったのが小学校5年のとき。歌謡曲のコードブックも買って、やっと弾けたのは天地真理さんの曲です(笑)。自己流ですけどもマスターして、ベンチャーズの譜面を買ったり、次はビートルズの譜面を買ったり。ビートルズはなぜ知ったかというと、当時中学1年の兄が『レット・イット・ビー』のアルバムとかを友だちから借りてきたからなんですよ。僕は5年生で、ああ、こういう楽団があるんだな、4人グループなんだなと。そういう人たちがすごい人気だっていうのを知って。ギターで弾いてみたらなんとなく弾けちゃったので、それでビートルズのコピーを始めたんですね。僕も中学1年になったら、エレキギターが欲しくなって買ったんです。それが手ほどきの始まりです。トムソンとか、モズライト、って知ってますか。ロゴがギブソンに似てるんですよ(笑)。中学生の頃の友だちがポール・マッカートニーと同じバイオリン・ベースを買ったと言うので、見せてもらったら本物のヘフナーで、触らせてもらったことがあります。ポールが好きだから、わざわざ左利き用のベースを買って、見せびらかすの。

――そのお友だちとはバンドをやらなかったんですか。

やらなかった。その人、楽器ができないんだけれども、ビートルズの楽器を集めるのは得意で、リッケンバッカーは持ってるし、ドラムもビートルズが使っていたセットは持ってるし、ドーンと叩くとドゥウゥンってミューティングするリンゴ・スター・チューニングにして。その人ドラム叩けないのに(笑)。

――コレクターですね。ビートルズ・ファンもいろんな方向に向かうようになって...。

僕はどちらかというと音を追究するほうですね。

――ビートルズではどんな曲をコピーしてたんですか。

ビートルズはもう、ほとんどやりました。「レット・イット・ビー」「抱きしめたい」「ラヴ・ミー・ドゥ」「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「ゲット・バック」...。中学校1年のときにもう、自宅の屋根の上で、アンプを置いて、フルボリュームでビートルズのナンバーを弾いてました。要するに、『レット・イット・ビー』の映画を観にいったんですよ。屋上で演奏したのをまねしちゃってね。通りがかりのおばさんに「危ないわよ〜」とか言われただけで、苦情は全然なかった。中1のときには、文化祭のためにバンドを組んで、ドラムをやる人がいないから、やってよって言われて、リンゴ・スターのドラムもコピーしたんです。そのときやったのは「サムシング」とか。中2からはギター担当。中学3年ぐらいになるとディープ・パープルとか、ハード・ロックをたしなむ(笑)という感じで。

――演奏してとくに思い入れのあるビートルズの曲は?

やっぱり「イエスタデイ」とか「ヘイ・ジュード」、あとは「サムシング」「レット・イット・ビー」。それを三味線で弾いたりしてました。「禁じられた遊び」の要領で、一人で「ヘイ・ジュード」をアルペジオで弾いたりしてね。単音じゃなくて、バッキングも入りつつ。学祭では披露してません、そこまでの腕はなかったから。三味線で弾くのは難しいです。

――バンドもやりつつ、三味線も本格的に始めたんですね。

小学生のときは、もちろん長唄より、洋楽のロックやビートルズが好きでしたね。長唄のお稽古にいやいやながら行って、絶対三味線で商売人にはならないと思ってたんです。ビートルズはとにかく、レコードがすり減るぐらい聴きました。

――ソロやウイングスの曲は?

もちろんウイングスも好きで、テープやレコードも持ってました。放送禁止になっちゃった曲、「ハイ・ハイ・ハイ」とか。ジョン・レノンのレコードも持ってましたね。そのあとヴァン・ヘイレンとか、TOTO、シャカタク、アース・ウィンド&ファイアー、マイケル・ジャクソンも聴いてましたけど、やっぱりビートルズの『アビイ・ロード』『レット・イット・ビー』もまた聴いたりしてました。ホッとするんですよね。基本に戻るみたいな感じはしましたよ。だから、ビートルズは手ほどきみたいな感じです。ビートルズはほんと、ロックもフォークもポップスも全部やった人だから。あの当時、ツェッペリンだってジミ・ヘンドリックスだって、あそこまでロックしてなかったと思う。ビートルズが先駆者だったんですよね。

●偶然に入ったジョンゆかりの喫茶店
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――リンゴ、ポール、ジョージそれぞれの来日公演は観にいかれましたか。

ポール・マッカートニーしか観たことないんですけど、最近(2002年)の東京ドーム公演を観ました。もう、夢のようでした。小学生の頃にビートルズを知って、憧れてた人をやっと生で聴いて、感動でしたね。アリーナが取れなくて、上手の3階でしたけど、音はよく聞こえました。ウクレレで「サムシング」をやって、これがまたすごくよかった。ポールのバンドの人たちもビートルズの曲をずいぶんやって、ギターの二人も鮮やかに弾くね。ドラムもうまい。

――その後、DVDで復習をして?

復習してます。
ジョン・レノンも来日したでしょ?

――おしのびで来ていました。

ジョンとオノ・ヨーコが歌舞伎を見たらしいですよね。歌舞伎座の裏のおそば屋さんの斜め前、そこの2階にある喫茶店にたまたま入ったら、ジョン・レノンが来たお店ということで、サインが飾ってあって。すごいなあって思ってたら、「ここに座ってましたよ」って教えてもらいました。

――樹の花という喫茶店ですね。海外でそのような体験は?

去年(2008年)の12月にロサンゼルスに行ってきたんですけど、ハード・ロック・カフェに入ったらポールのバイオリン・ベースが飾ってあって、写真を撮ってきましたよ。

――ロンドンはいかがですか。アビイ・ロード・スタジオとか。

生きている内に、絶対行きたいと、ずっと思ってるんです。アビイ・ロードっていうのは意外に普通の道だそうですね。でも行きたい。ロンドンはトランジットで降りたことがあるだけで、ゆっくり行ってみたいんですよ。ビッグ・ベンの鐘の音も聴きたいし。それからビートルズが育った町、リバプールにも行ってみたいんですよね。

●ポールとセッションする日を夢見て

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――『赤盤』のバンドスコアは1998年の版ですね。その頃ビートルズをふりかえる機会があったんですか。

そう。三味線でビートルズのカバーをやろうかと思ったことがあったとき。「カバーをやったらいいよ、ビートルズとか」って言われたことがあるんですが、その頃は自分のオリジナルでいきたいという気持ちがあって、僕はやりませんと答えたんです。でも一応、ビートルズの譜面を一応用意したんですよね。THE家元でベンチャーズのカバーをやったので、ビートルズもやればよかったんですが...。でも今、ビートルズの曲を全部三味線で弾けって言われたら、たぶんやっちゃうと思います。「ホワイル・マイ・シャミセン・ジェントリー・ウィープス」みたいなものも作っていいかなって思ってるんです。ただ、ビートルズは本当に完成された世界だから、それは絶対に壊したくない。

――ライブでも披露される機会があるといいですね。

そうですね。マッシュルームカットのかつらかぶって、黒いとっくり着てビートルズのかっこうして、三味線にリッケンバッカーって書いて(笑)。やはりビートルズなくして僕の音楽はなかったと思います。そして、いつかポールとセッションしたい。生きているかぎり、夢は大きく持っていたいと思います。



取材・文/淡路和子





杵屋裕光(きねや ひろみつ)
三味線演奏家、作曲家

1960 年東京都生まれ。長唄三味線演奏家・杵屋和四蔵の次男として誕生し、3歳で長唄の初舞台を踏み、16歳で三味線の長唄杵勝派名取師範、杵屋裕光となる。 90年、兄・杵屋崇光(現在は杵屋勝四郎)とともに三味線ファンク・バンドのTHE家元を結成、オーディション番組『いかすバンド天国』出演後にデビューし、ポーランドで開催された世界音楽祭で2位。ロック三味線では六九家裕光の名で活動する。2008年、杵屋裕光として初のフル・アルバム『地球→日本』を発表。09年、弟・杵屋利光との共演による長唄のCD『寶結』発売。同年7月13日、日本橋劇場にて「杵屋裕光 納涼浴衣会」を開催し、堅田喜三久(鼓)、山本邦山(尺八)、渡辺香津美(ギター)、鳴瀬喜博(ベース)らと競演する。
杵屋裕光オフィシャル・サイト http://www.kineyahiromitsu.jp/

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