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2009.09.03UP

#98 湯川潮音「60年代のロンドンに生まれたかった」

●自分の中に入りすぎているビートルズを歌うということ

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ビートルズの音楽を初めて聴いたのは、幼稚園とかそれくらいだったと思います。英語はもちろんわからないし、ビートルズっていうバンドの存在もわからないまま、曲だけを覚えて口ずさんでいたみたいです。

――それはやっぱりお父さん(ベーシストの湯川トーベン氏)の影響で?

そうですね。車で出かけるときとかに必ずかかってたから。植木等さんもそう(笑)。完全に父親の趣味ですけど(笑)。童謡のような、みんなのうたのような、それくらいなじみのあるものでした。

――特に好きだった曲は?

ポールのメロディアスな曲、「フール・オン・ザ・ヒル」とか「フォー・ノー・ワン」とかが好きだったと思います。

――子供の頃、合唱団に入ってたんですよね?

はい、合唱のアレンジでビートルズ・メドレーを歌ってました。海外に演奏旅行に行ったりするんで、ヨーロッパとかでビートルズを歌うと喜ばれるし。「イエロー・サブマリン」とか「ノルウェーの森」とか歌ってました。ビートルズは覚えやすいのがいいですね、子供でもデタラメ英語で歌える。

――自発的に自分から聴くようになったのは?

私、高校生まで音楽をほぼ聴いてなかったんですよ。クラシックの宗教曲とか現代音楽とかしか聴いてなかった。だからすっぽり抜けてるんですけど、自分でレコードやCDを買い始めたのが18歳くらいで、ビートルズをまた手にとったのもそれくらい。高校の音楽祭のときにみんなに"ソロで歌ってみたら?"って言われて、1曲アイルランドの民謡を歌ったんですよ。それはカーラ・ボノフの「ザ・ウォーター・イズ・ワイド」って曲だったんですけど、そのCDを手にとってから、この人はどういう人でバック・メンバーはどんな人とやってるんだろう、ってのが知りたくなって、いろいろ聴き始めました。そのときに、今まで自分ひとりの声を聴いたことがなかったな、と気づいたんですよ。いつも誰かの声が右か左にあったから、自分ってこういう声なんだ、って初めて認識して、あ、これだったら楽譜からはみ出しても怒られないかも、って。それまでは合唱隊の中でいちばん出来ない子だったんですよ(笑)。楽譜がまず読めないから、人が歌ってるのを耳で聴いて、楽譜を見てるふりをしながら歌っていて、でもいつも全然違うラインを歌ってたりして。なんか好きなラインを勝手に作っちゃってたんですよね(笑)。クラシックでは有り得ないことですけど。

――お父さんは、将来音楽の道に進んでほしいと思っていたのかしら。

いやぁ、まったくもって。でもクラシックが好きなので、合唱をやることは喜んでました。自分がウィーン少年合唱団に入りたかったらしいんで(笑)。まさかポップスをやるとは思ってなかったみたいですけど。

――話を戻すと、18歳からまたビートルズを聴き始めた。

自分が小さい頃に聴いててまだメロディを覚えてるのはどんなバンドなんだろう、って探したのがきっかけで。うちのレコード棚はAから順番に几帳面に並んでるんですけど、その棚を端から端まで聴いていったんですよ。AC/DCから始まって(笑)。

――ビートルズが最初のほうにあってよかったね。XやYだったら大変だった(笑)。

そうですよね(笑)。XTCとかもう疲れて何も覚えてなかったり(笑)。ビートルズは4人のメンバーのバランスが絶妙だな、っていうのは素人ながらに思いました。カリスマ性があったし、新しいことをいちばん先にやるのって本当にすごいですよね。

――こういうメンバーがいるこういうバンドだった、っていうビートルズ・ストーリーを知り始めたのもその頃?

そうですね、そこから個人個人のソロを聴き始めたり、自伝とかを読むのが好きなんで、全部読んで。ジョン・レノン・ミュージアムにも行きました。ヨーコさんからいつかかってくるかわからない電話っていうのがあって、結構ねばったんですけどかかってこなかったですね(笑)。(電話に)出た人の話は聞きました。本当にきまぐれでかけるみたいです。

――ソロではジョンが好き?

私はやっぱりジョン派ですね。男の人として憧れるというか。

――どんなところに?

う~~~ん...(笑)。好きな人の話をするみたい(笑)。ポールももちろんかっこいいし、ソングライティングは素晴らしいし、ライブとかの映像を見ててもエンターテイナーじゃないですか。キャ~ッて言われるのもわかる。でもジョンは違って、ウィットに富んでいて、ちょっと冷たいところが女心をくすぐるというか(笑)、もっと知りたくなる。「アクロス・ザ・ユニバース」なんてあの1曲だけで小宇宙じゃないですか。ああいうものがあの人を形成してるんだろうなぁ、と。あと顔も好きなんです、すごい好き。どの時期でも全部好き。

――実際は結構ダメ男だとも思うんだけど(笑)。

ねぇ(笑)。男の人にはジョージが人気あるみたいですね。当時の映画とか見ると、あの人気なんてものすごい想像も出来ない世界だけど、楽しそうですよね。バンドってこういうことなんだなっていうか、初めてバンドをうらやましいなと思ったのはやっぱビートルズでした。

――10月に出るビートルズのカバーアルバムで「アイム・ソー・タイアード」を歌っていますね。

LEO今井さんとジェームズ・イハさんとやったんですけど、イハが3曲候補を上げてきて。「フォー・ノー・ワン」と「アイム・ソー・タイアード」と「イフ・アイ・フェル(恋におちたら)」。どれも渋い曲なんですけど、イハが「アイム・ソー・タイアード」がいちばん好きだってことで。私はもう全部好きだからなんでもいいです、って言ったんですけど。

――他にビートルズのカバーをしたことは?

「ビコーズ」は何回かやってます。自分の最初のアルバムでもやってるし、鈴木惣一朗さんがプロデュースしたアルバム『りんごの子守唄』でもやりました。曽我部恵一さんとジョンの「ルック・アット・ミー(ぼくを見て)」もやりましたね。でもビートルズは自分の中に入りすぎちゃってて、あえて歌うのは恥ずかしいというか(笑)、そういう部分はありますね。あまりにも自然に入ってきてるものなので...なかなかね、原曲は超えられないものですよね。

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オノ・ヨーコ著『ただの私』
「本を読むのが好きでいろいろ読んだんですけど、ヨーコさんからの目線でジョンのことについて書かれてる本が好きですね。ここに書かれてるジョンのこととか特に好き。これ、直筆サインなんです。知り合いの方を通じて、誕生日にいただきました。実際にはお会いできてないんですけど、2~3年前、渋谷で見かけたことがあるんですよ。横断歩道を渡って、パルコに入っていきました(笑)。遠くからでもバチコ~ンと目に入ってきました。今度は別の場所でお会いしたいなぁ」


●ダコタ・アパートの前で泣きそうに

――イギリスに初めて行ったのは?

高校を卒業してからアイルランドに短期留学をしてたんですけど、その帰りにロンドンに寄ったのが初めてです。

――なぜアイルランドに?

そのときちょうどケルトの音楽に興味があって。さっき言ったアイルランド民謡の「ザ・ウォーター・イズ・ワイド」からいろいろ聴き始めて、町中でみんな演奏しているイメージがあったりとか、妖精がいるんじゃないかとか、ちょっと行って目で確かめてみたくなって。子供の頃から外国の曲を歌ってたのに意味がわからず歌ってるのももったいないな、っていうのもありました。自分が歌ってる歌の意味を知りたくて、語学を勉強してみようかな、っていう。

――ロンドンの町はどうでした?

アイルランドが田舎のイメージが強かったので、ロンドンは都会でした(笑)。もちろんアビイ・ロードにも行って、横断歩道で裸足になって、ひとりだったから通りがかりの人に写真を撮ってもらって(笑)。そういうことはばっちり一通りやりました(笑)。

――あのジャケットで裸足になってるのはジョンじゃなくてポールなのに(笑)。

一応(笑)。ポールがプロデュースしてたメリー・ホプキンも好きで、自分でよく歌ってるんですけど、歩きながら「ストリート・オブ・ロンドン」っていう曲を歌ったりして、ロンドン気分を満喫してました。

――去年は単身ロンドン・レコーディングに行ったんですよね?

はい、2週間くらい。スタジオは郊外のハウス・スタジオで、普通に人が住んでる家の隣にある。まわりには何もなくて、羊とか牛とかがいっぱいいて、リスとかキツネとか平気で出てくるようなところ。スタジオも最高でした。適当なんですよ、みんな(笑)。エンジニアもバンドも。私もすごい適当な性格で、日本にいるからちょっとちゃんとしなきゃ、と思ってる部分がどうやらあるらしくて(笑)。レコーディングなのに知らないうちにテープが回ってるし、夕陽が沈んだらやめようか、みたいなそんな感じで、ペースがばっちり合いました。

――リバプールへは?

ないです。行ってみたいですけど。NYのストロベリーフィールズとダコタには行きました。ダコタの守衛の人と仲良くなって、ちょっと中まで入れてもらったり。そのときちょうどヨーコさんがいたみたいで、ドキドキしました。あそこでジョンがいなくなったんだと思うと、泣きそうになったけど。冬なのに、蛍がすごいいっぱいいたんです。セントラル・パークは蛍が多いらしいんですよ。夕方になったらば~っていっぱい出てきて、なんか、いろんなこと考えちゃいましたね。

――もしジョンと同じ時代に生きていて、会うことができたら聞いてみたいことはありますか?

え~...いっぱいありすぎます。話せる立場なんだよね(笑)...う~ん...次にどんなレコーディングをしたいか。あ、でも新しいものが好きだった人だからそれは聞かないでいいです。オバマさんも好きだろうしね(笑)。ちょっと考えてもいいですか?(笑)...自分の曲の中でなにがいちばん好きか、聞いてみたいですね。

――なんて答えるだろう。

全部嫌い、とか言ったりして(笑)。

――そのときの気分で言うことが全然違いそう。

そうですよね~。

――じゃあその質問を返します。ジョンの曲でいちばん好きなのはなんですか?

...う~~~...「ヘルプ!」か「ウーマン」か...「アクロス・ザ・ユニバース」...。う~ん...「ヘルプ!」。年をとってからのジョンにしてみれば、あの頃は若かったからあんな曲を作ったんだよとか、ビートルズなんて若かったからやってたんだとか言うだろうけど、でも純粋に思ったことをそのまま書いた曲だと思うし、それがすごくジョンらしいと思うんですよ。本当に"ヘルプ!"だったんでしょうね。そりゃぁ"ヘルプ!"になるよね、あんな状況だったら。

――でももし60年代のロンドンに生まれてたら、自分も追っかけしていた?

確実にしてますね(笑)。私も失神するかなぁ。

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映画『HELP!』の宣伝用パネル
「昔のEMIのロビーに飾ってあったのを、移転ではずすときにお願いして無理矢理もらいました。EMIに入れたのはすごい嬉しいことですね。ビートルズがいるから。ポスターとかたまに隣に貼ってもらえてたりして。前、ストーンズ、ビートルズ、私って並んで貼ってあったことがあって、感無量でした(笑)」



取材・文/佐々木美夏


湯川潮音(ゆかわ しおね)
ミュージシャン

1983年12月19日生まれ。東京都出身。小学校時代から東京少年少女合唱隊に所属し、海外公演も経験。デモテープがきっかけでウォルト・ディズニー生誕100周年記念トリビュート・アルバムに参加することにより、初めてポップ・フィールドに足を踏み入れる。2002年、本人ボーカルだけで作られたアカペラ・アルバム『Tide&Echo』をインディーズでリリース。05年8月、映画『リンダ リンダ リンダ』に出演して歌声を披露し、東芝EMI(現EMIミュージック・ジャパン)からシングル「緑のアーチ/裸の王様」でメジャー・デビュー。その後、ロックフェスへの出演や、音楽だけにとどまらない数々のコラボレーションによってファン層を広げている。10月17日には京都KBSホール、18日には東京の早稲田スコットホールにてライブ。10月14日リリースのビートルズ・カバー・アルバム『LOVE LOVE LOVE』には湯川潮音+LEO今井+JAMES IHA名義で参加している。

湯川潮音オフィシャルサイト http://www.yukawashione.com/

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