2009.09.10UP
●ユーモア精神の原点

ビートルズとの出会いはね、『オールディーズ』っていうアルバムを小学生か中学生のときに聴いたのが最初ですね。誰かが持ってて借りたんだけど、"ビートルズ"っていう名前がなんかバカみたいでしょ?
――まぁ言われてみれば(笑)。
しかもタイトルが『オールディーズ』なんてね、アメリカの軽いポップスとかと同じ種類の音楽かと思ってそういう色眼鏡で聴いたんで、大して印象に残らなかった。その頃は高中正義とかね、レインボーとかね、アリスとか聴いてましたから(笑)。だから大したことないと思ったんだけど、良かったのが「涙の乗車券」。リンゴのドラムがね、ドンガガガガンゴンドンガガ...なんかすごい、あれだけやけに心に残っていて。そのあとYMOが「デイ・トリッパー」をカバーしていたんで、"あ、この曲確か『オールディーズ』に入ってた"と思ってもう1回聴いてみたら、ビートルズってすげぇんだな、と。それからだんだん聴くようになった感じですね。
――第一印象はそれほど衝撃ではなかったけど、ある程度他の音楽を聴いてからもう一度戻ってみたらすごかった。
ていうほど大げさな感じでもなかったんだけど。その頃はそれにしてもビートルズってあまりにバカバカしい名前のように感じて(笑)、やっぱり下に見てたから。高中正義のほうがやっぱり偉い、アリスのほうがやっぱり偉いと(笑)。アリスもレインボーも考えてみればバカっぽい名前なんだけど(笑)、子供だから先に聴いてたもののほうがすごいと思っちゃって。「涙の乗車券」だけはすごいと思ったけど、そのあとしばらくヘビーメタルとかハードロックとかの早弾きとかテクニカルなほうに行ってたんで、ビートルズみたいな歌モノは女子供向けみたいに感じちゃって。我々の世代まででしょうね、そんなことを思うのは(笑)。ちょうどそのテクニカル世代だからそっちのほうに邁進していて、高校時代とかは全然聴かないで、大学2年くらいのときにデキシード・ザ・エモンズを一緒にやることになるアベ・ジュリーと出会ったんだけど、そいつが何か忘れちゃったんだけど、ビートルズの曲をやろうって言い出してね。そいつはもう大のビートルズ・ファンだったから。"え~、ビートルズ? まぁいいや、じゃあやるか"って演奏してみたら、俺そのときはギターだったんだけど、うまくあのフィーリングが出せなくて。早弾きだったらできるのにおかしいなぁ、と。あのなんともいえない感じ、なんていうのかなぁ、エフェクターを使わないで弾くんだけど、あまり強く弾くと良くないっていうか、リズムを正確に弾くとあの良さが出ない。あのなんかちょっとマヌケな感じがね、どうしたら出るんだろうと思って。つまりテクニカル志向の考え方からビートルズがちょっと気になり始めた。どういう風に弾いたらああなるのかな、って。それで聴き始めた。1stとか2ndとか、アベくんに借りたりTSUTAYAで借りたり(笑)。
――1stや2ndはテクニックを研究するのに役に立った?
「テクニックっていうよりあの感じ。どういう風にしたらいいのか一応いろいろ聴いてみないと、と思って。肝心の何をコピーしたのか忘れてしまったんですけどね(笑)。なんだったんだろう...アベくんに訊けばわかるんだけど。で、「ホールド・ミー・タイト」とか「リトル・チャイルド」とかあのへんの感じのエイトビートの曲をそのときにかっこいいなと思って、それまでずっとエフェクターを使ってギターを弾いてたんだけど、エフェクター使うのやめたの。ちょうどその頃ドクター・フィールグッドとかウィルコ・ジョンソンも一緒に聴いてて、もう生音の良さにしびれて。ディストーションとか早弾きとか確かにもう飽き飽きしてたんで、それでビートルズをまたちゃんと聴くようになった。だから最初はやっぱりギターから。
――今ハッチさんがやってる音楽にあるユーモア精神は、どこから学んだもの?
あれね、やっぱり「イエロー・サブマリン」だと思う。今回のこの取材のために、しばらくビートルズを聴いてなかったから1回洗いざらいビートルズを聴いてみたの。そしたらいちばん好きな曲は「イエロー・サブマリン」だった(笑)。
――「涙の乗車券」じゃなかった(笑)。
なんとそうだった(笑)。あの曲のバカバカしさとか、想像の世界の感じとかね。今やりたいことがやっとできる感じになってて、でもそれがなんの影響なのかよくわからなかったんだけど、今回ビートルズを聴き直してみて、"なんだ、「イエロー・サブマリン」だったのか"と。(朗々と→)ランララ~ンって感じでしょ? "行け~!" みたいな。あの感じが、あぁぴったり。これだったんだ、今に通じるのは、って。あと『ホワイト・アルバム』に入ってる「ピッギーズ」とかね。ああいうのとかいいなぁ。"イギリス"って感じのものだよね。日本のフォークとかロックにはない感じ。なんと言っていいかわからない、"イギリス"って感じのジャンル。
――アイルランドとかね。なんかちょっと田舎のほうの感じ。
そうそう。ヨーロッパの農村のほう。映画とかに出てきそうな。そういうのが結局よかったのかなと思って。あとリンゴの歌もいい。「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」とかもいいんだよなぁ。改めて聴いたらビートルズの中でいちばん好きなボーカリストはリンゴだった。昔はそういうのは意識して聴いてなかったんだけど。一時はバンドのほうもサイケデリックな音楽をやるようになってたんで、やっぱり『サージェント・ペパーズ~』とか『リボルバー』とかもよく聴いてて、自分はマニアックなことには向いてないのに、アベくんの影響もあってモノラル盤とかミックス違いとかも聴くようになって、イギリスのモノラル盤も買うようになってたんだけど、今回探してみたら売っちゃって家賃になっちゃってました(笑)。結構高い値段で売れたの。そのときにビートルズの偉大さがわかった(笑)。ビートルズってすごいんだなぁ、って。
――買ったときはそうでもなかったの?
うん、イギリスで買ったらすごく安くて。1000円台だったんじゃないかな。"うわぁ、すげぇ"って思っていっぱい買ったの。日本に帰ってしばらく寝かせて、家賃に困ったときに売ってみたらすごくいい値段。あと逆もあった。日本盤の帯付きのやつがあるでしょ。あれを試しにイギリスに持ってって売ってみたの。そしたらこれもまたいい値段で(笑)。ビートルズは偉大ですね。こんなことで言うのもなんだけど(笑)。
●イギリス特有のひねくれた感覚

――話を変えると(笑)、ハッチさんが今やってるような冗談音楽の系譜はイギリスにはずっとあって、キンクスとかもそういうことをやってたでしょう。
あ、そうそうそう。このインタビューで言うのもなんだけど、僕はビートルズよりキンクスのほうがどっちかっていうと親近感が湧く。キンクスはね、本当にいいですよ。ああいうひねくれた感じはイギリスにしかない。アメリカの20年代の音楽の影響かもしれないけど、アメリカはもう少しストレート。キンクスとかビートルズとか、あとフーもやってたひねくれ根性が、ちょうどぴったり自分のやりたいものに合った。
――イギリスにはモンティ・パイソンもラトルズもいるし。
そうそう。ラトルズも好きで、ビデオも買った。ああいうの見るとイギリスに興味が湧くよね。モンティ・パイソンがBBCに出てるような国ってどうなんだろう、って。『Mr.ビーン』とかもそうでしょ。あれはもうちょっとポップだけど、ヤバイ感じだし。だからビートルズ好きっていうよりイギリス好きなのかもしれない。
――イギリスは何回くらい行った?
4回くらい。一度、デキシード・ザ・エモンズのミックスダウンでも行った。それがキンクスのスタジオでね、コンク・スタジオ。ミックスなんて日本でやりゃいいのに(笑)、エピックだったからお金も使わせてもらえて。そしたら、レイ・デイヴィスはスペインに住んでてスタジオにはいない、って言われたんだけど、ちょうど自分のミックスか何かの作業をやりに来てて、ふと見たらなんとレイ・デイヴィスがスタジオの入り口のところで踊ってたの。
――デキシーの音楽を聴きながら?
そうそう。うわ~~~~、って。憧れの人だからね。それだけだったんだけど、Tシャツにサインはもらった(笑)。
――アビイ・ロード・スタジオとかは?
行ってないなぁ。ビートルズに対してマニアックになる人は他にいっぱいいるじゃない(笑)。そういう人たちにはかなわないんで。キンクスのデイヴィス兄弟が生まれ育った家には行った。そしたらおじいさんが出てきて、"もうそういうのはやめてくれ"ってすげぇ怒られて(笑)。何人も来たんでしょうね。もう何代も前の家族なんだろうし。『マスウェル・ヒルビリーズ』っていうアルバムがあって、そのジャケットになったパブにも行ってね、"ここか~"って。ちょっと改装されてたけど、感慨深くルービー(ビール)を飲んでね(笑)。ロンドンは本当にいいよねぇ。ビートルズの映像とか写真とかで見てただけだから、完全なる憧れだよね。60年代の音楽がかかるクラブとか行くと、たまにビートルズもかかるんだよね。ロンドンの人はああいう明るい音楽でも無邪気に踊ってて、"すげぇなぁ"って。もう少しクールな感じだと思ってたから楽しかった。そのあと日本でも自分のイベントでビートルズをかけたりしたんだけど、全然だめ。踊りづらいのかね。
――ビートルズで踊るっていう感覚がないのかも。
そうか。踊ろうと思えば踊れるんだけど(笑)。あ、そうそう。デキシード・ザ・エモンズを始めたときはドラムだったから、そのあとビートルズを聴くときにドラムを聴くようになって、当たり前だけど「ストロベリー・フィールズ~」とか「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」とかすごいね。「サージェント・ペパーズ~」も「マジカル・ミステリー・ツアー」も。あのへんのドラミングは本当にすごい。単純に、リンゴのドラムで曲がよくなってる。普通に刻むようなドラムじゃない。多分、「ストロベリー・フィールズ~」とかを単純にズズチャッズズチャッダカダカダカダカジャ~ンとか叩くと曲が台無しになるんじゃないかと。キース・ムーンやジンジャー・ベイカーやミッチ・ミッチェルみたいに叩きすぎちゃうのはダメ(笑)。ああいうドラマーじゃなかったからビートルズはよかったんだと思う。メロディの裏のメロディみたいに聴こえるドラム。ジョンやポールがそうやらせたのかもしれないけど、でもね、それがすごいかっこいい。
――リンゴ独特のタイム感。
そうそう。なんかね、若干やる気がない感じ(笑)。それが曲を邪魔しなくていい。ジョン・ボーナムとかやっぱやる気のあるイギリスのドラマーだと曲を台無しにするような気もするんだよね(笑)。ビートルズは他のバンドよりメロディの浮き沈みが激しいでしょ。ああいう美しいメロディ・ラインに他のドラマーが入ってたらひどいことになってたと思う。もちろんポールのベース・ラインもすごい。ポールの曲も歌い方も好き。でもジョンの歌い方はなんかね、トシちゃんみたいな歌い方するじゃん(笑)。
――ト、トシちゃん???
(笑)声がニャ~ってなるような。中期あたりから。なんか気持ち悪、ってつい早送りをしてしまうんだけど、それにくらべて、ポールの歌い方はすごくいい。曲は両方とも好きなんだけど、なんか歌い方がポールのほうがストレートでね。でもポールはツラがあんまり好きじゃないんだよなぁ。
――...え?(怒)
あ...ここはちょっと意見が分かれましたな(笑)。
――音楽にユーモア精神は必要だと思う?
うん、俺はね。だからジョンが深刻ぶってるのが気持ち悪いんだと思う。ジョンもユーモアは好きなんだろうから、もう少し素直に歌ってくれればもっとよかったのになぁ。俺がビートルズより年上だったら絶対言ってやったのに(笑)。ジョンの曲でも「ガール」とか「ノーウェア・マン(ひとりぼっちのあいつ)」とか好きな曲はいっぱいあるんだけどね。あとジョージってのもちょっと中途半端な感じでしょ? どんな曲聴いても(笑)。一時インド音楽とかにはまったりして、好みとかもそのときそのときで変わっていったり。なんかそんな感じが自分にも似てるから、親近感が湧く(笑)。ビートルズとかキンクスが好きなのは、ただ音楽をやって楽しいなぁ、じゃなくて、絶対どこかブラックで、きつい冗談や言っちゃいけないようなことを言うところ。そういうブラック・ユーモアがいちばん面白いと思う。
――それでいて大衆的なエンターテイメントとして成立している。
うんうん。それはデキシード・ザ・エモンズ時代から個人的にやりたかったこと。で、今はそれをやってる途中。でもふだん聴くのはアメリカの古いジャズとかジャイヴとかで、ビートルズのことは忘れてたの。今回これがいい機会で、全部聴いてみて、"あ、もともとこれだったんだ、何に俺は感銘を受けてたのかと思ったら「イエロー・サブマリン」だったんだ"って。これで自分の方向性がさらにはっきりしたなぁ。
取材・文/佐々木美夏

P-VINEから出たアルバム『ビートル・クラシック』
「ビートルズを聴き始めた頃に、もっとよく知りたいからビートルズがカバーしてた曲のオリジナルのコンピレーションを買ったの。そしたらあまりにいいんで、一時はビートルズよりこっちのほうばかり聴いてた。カール・パーキンスとかリトル・リチャードとか、ラリー・ウィリアムズなんか特によかった。コースターズもこれで知ったし。このシリーズでエルヴィス・クラシックもあって、これも最高だった。もう廃盤らしいんだけどね。当時でも3640円だもん」

ハッチ・ハッチェル
ミュージシャン
1967年7月19日生まれ。千葉県船橋市出身。幼少時代からバイオリンを習い、中学~高校時代はギタリストとして高中正義、リッチー・ブラックモアのコピーに励む。大学に入ってからはキース・ムーンに憧れてドラムに転向し、デキシード・ザ・エモンズを結成。97年6月メジャー・デビュー。06年10月解散。並行してエレキギターも再び手にし、ブルース・バンド、ハウリンハチマを結成してアメリカ・ツアーも行う。01年にオフィス・バーベキューというレーベルを立ち上げ、"人生を楽しく生きる一流の男"としてハッチ・ハッチェル・ビア・オールスターズ、ハッチェル特急楽団、ハッチ・ハッチェル・バンドなどで活動。「デタラメインチキおかまいなし! クダラナの神に愛された心震わす底抜けメロディ、人生賛歌! 歓びの演奏に愉快でナンセンスなステージショー! 神出鬼没、天才ハッチ・ハッチェル率いる6人組素晴らし系楽団」というコピーそのままのライブは一見の価値あり。10月7日には高円寺ジロキチにてハッチ・ハッチェル・バンドの東京初ワンマン・ライブ。
オフィシャルサイト http://officebarbecue.com/
