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2009.12.14UP

#109 直枝政広「ビートルズは幻みたい。どこにもいない感じがする」

●ビートルズになろうとした中学時代


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――直枝さんとビートルズの出会いは?

59年生まれなんですけど、幼稚園の頃の髪型がマッシュルームっぽかったみたいで。その頃、撮った写真の下に「まーちゃん、ビートルズみたい」って、従兄弟が書いたコメントがあるんですよね(笑)。小学生の頃はグループ・サウンズが好きで、近所の高校生に「エレキ・ギターってなに?」って教えてもらってたりはしたんですが、その時にヴェンチャーズを刷り込まれた。だからずっとビートルズのことは全然知らなくて。で、中学生になってヴェンチャーズを聴くようになるんですけど、当時は〈ヴェンチャーズ派〉と〈ビートルズ派〉の対立みたいなものがあったんですよ。

――ローリング・ストーンズではなくてヴェンチャーズ?

そう。それでビートルズ派のやつに「お前らヴェンチャーズなんて聴いんの?」なんて言われて(笑)。「とにかく聴いてみろ」って"Hey Jude"のシングルを50円で売ってくれたんです。それを聴いた時は、すごく親しみやすい感じで〈これ、どっかで聴いたことあるな〉と思いました。そこからハマッたんですよね。でも、裏面の"Revolution"は大っ嫌いだった(笑)。うるさくて、怖くて。子供ごころに怖かったんだよね。

――最初に自分で買ったビートルズのレコードは?

『Let It Be』ですね。毎月みんなでレコード屋さんに行って、それぞれがレコードを買うっていうのが恒例で。みんなうまく小遣いを貯めてLPを買うんですよ。「お前、今回なに買うの?」とか言ってね。それで僕が買ったのが『Let It Be』。確か、シングルを借りて気に入ってたのかな。あと、ちょうど映画(「Let It Be」)が公開されていて、映画も観に行きました。もう最高でしたね。ロックって屋上が似合うなと思って(笑)。それでもうヴェンチャーズはほっぽり投げて、友達とアップルっていう2人組のバンドを組んだんです。

――アップル! わかりやすいですね(笑)。ビートルズのカヴァーとかをやったんですか?

やらなかった。先にオリジナル曲に行ったんです。アコギ2つで歌詞は英語。でも辞書の例文を羅列したような、でたらめな歌なんですけど。それで、(レコード袋からビートルズのバンド・スコアを取りだして)こういうのを見てコードを覚えていったんです。あとビートルズを参考にして、その自分のバンドのディスコグラフィーやヒストリーとかを事細かに考えたりしましたね。きっと2枚目はこんなアルバムになるだろう、とか想像して(笑)。で、解散コンサートは友達が住んでた銀座のビルの屋上でやった。8mmもまわして映画を作りました。

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英国のディーラーから買った『The Beatles(ホワイト・アルバム)』。
通し番号は4千番台「最初の番号はメンバーが持ってるわけでしょ。
メンバーから5,000人以内にオレがいるって思うと興奮するよね(笑)」。

――そのまんまじゃないですか(笑)。ちなみに当時、いちばん好きだったアルバムは?

やっぱり『The Beatles(ホワイト・アルバム)』。最初に"Ob-La-Di,Ob-La-Da"のシングルを買ったんだけど、裏面が"While My Guitar Gently Weeps"で。もうこれ以上のものはない、っていうぐらい、オレにとってはもう夢の国だったね、そのサウンドが。今でも曲を聴くと、その時の空気が甦る。あと、当時、ビートルズのレコードを買うと、ディスコグラフィーみたいな小冊子をくれたんですよ。そこに加藤和彦さんのエッセイが載っていて、〈僕とつのだひろは毎晩"Happiness is a Warm Gun"を歌うのです〉って書いてあった。僕が最初に買ったレコードがフォーク・クルセイダーズの"帰って来たヨッパライ"なんですけど、それ以来、ずっと加藤さんを尊敬してたんです。だから、この曲が入っているホワイト(・アルバム)は間違いない!と思ってお年玉貯めて買ったんだよね。

●『Ram』から教わったサウンド・メイキングの面白味

――メンバーのソロも追いかけてました?

もちろん。それで、アップルの相方がポールのソロをよく買ってくれるので、「じゃあ、オレはジョンを買うよ」みたいな感じでやりとりしてた。そのうち「あいつの買った『Ram』スゲェいい、でも悔しいからいいって言わない」って(笑)。ひねくれてた。高校生ぐらいになってからかな、自分でも『Ram』を買って。トッド・ラングレンとかも好きだしザッパなんかも聴いてたけど、サウンド・メイキングの面白味みたいなものを改めてそこで教わった。そのマジックみたいものをね。ハマりまくっちゃって『Ram』はもう何枚持っているかわかんないんですけど、結局ここまで辿り着いちゃった(レコード袋からなにかを取り出す)。

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eBayで落札したポール・マッカートニー『Ram』のオープンリール。
これを手に入れた時期、いろんな作品のオープンリールを買い集めたとか。

――なんですかそれ?

オープンリールのミュージック・テープ。当時、こういうのが出てたんです。これが音がめちゃくちゃいい。マスター・テープに一番近いのはこれなんじゃないかと思いますけどね。ちょうど、オレが『HOPKINS CREEK』っていうソロ・アルバムを作っている時に手に入れた。手作りっぽいサウンドを改めて研究してたんです。あのアルバムは、もろに『Ram』ですね(笑)。

――ポールはすごく実験的なこともやってますよね。

そう。もともとビートルズのアート的なところを引っ張ってたのはポールですね。ポール・マッカートニーのファースト(『McCartney』)なんて、リヴィング・ルーム・セッションだからね、ほとんど。まあ、アビー・ロードの地下でも録ってるんだけど。つまり、リヴィング・ルームで作ったものが世界中で一位になっちゃったりするわけでしょ。超画期的だし、ポールがそれやったのはスゲェなと思う。現代アートだよ、やってることは。ジョンはわりとわかりやすい形で実験的なことをやったけど、ポールはポップという枠のなかでどうやってやるかってことを考えてたよね。

●ビートルズとの間にある見えない〈結界〉

――音楽以外に彼らのライフ・スタイルや発言などで影響を受けたことってなにかありますか?

(レコード袋から文庫本を取りだして)これ、ビートルズの詩集。片岡義男の訳なんだけど、原石のような荒々しい訳なんですよ。それがとてもよくて。例えばこのなかの「ドント・レット・ミー・ダウン」の訳なんて、「がっかりさせないでくれ、がっかりさせないでくれ、がっかりさせないでくれ」っていう、このリフレインがとにかく強力で。言いたいことはひとつでいい、ということをいつもビートルズは教えてくれる。だからリフレインって、ポップ・ソングではすごい重要。歌詞っていうのはほんと、ひと言でいいんだって思いましたね。今回のアルバムを作っている時も、この詩集とゲオルゲの詩集を机の上に置いてた。

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直枝氏が中学生のときに買ったバンド・スコア(奥左)と、
映画「Let It Be」パンフレット(奥右)。
手前は、今でも制作中に読み直すことがあるという
片岡義男訳のビートルズ詩集。

――音作りも歌詞も全面的に影響を受けてるんですね。

子供の頃は「ビートルズになりたい」って夢に描いてたけど、今ふと考えてみれば、結局はビートルズはどうものを作って残してきたのか?ということしか考えてないかもね。

――じゃあ、もし、ビートルズの誰かと一緒に仕事ができるとしたらどうします?

えーっ! いや~、困ったな(笑)。それよりも、『The Beatles(ホワイト・アルバム)』を作ってる時のスタジオに行きたいし、そのスタジオの掃除したい(笑)。みんなが帰っていなくなった後にただ掃除がしたい、それぐらいでいい。スタジオの空気に触れられるだけで幸せ、って感じです。彼らがここにいたんだ、って温もりを感じられるだけで。一緒に仕事なんかできないよ。

――直枝さんにとって、ビートルズは特別な存在なんですね。

だって、会っちゃいけない人達だと思う。もちろんロンドンへ行ったときにアップルのスタジオの前とか行ったけどね。でも、彼らがいないから行けるっていうか、そこは妙に謙虚です。ポールやジョージが来日した時はコンサートに行ったりもしていますけど、やっぱり彼らとの間には〈結界〉があって(笑)。ビートルズはオレにとって幻なんです。どこにもいない感じがするんですよね。



取材・文/村尾泰郎



直枝政広(なおえ まさひろ)
ミュージシャン

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1983年12月 「耳鼻咽喉科」を前身に「カーネーション」結成。当時からのオリジナル・メンバーは、直枝ひとり。 1984年 シングル"夜の煙突"(ナゴム)でレコード・デビュー。以降、数度のメンバー・チェンジを経ながら、時流に消費されることなく、数多くの傑作アルバムをリリース。練りに練られた楽曲、人生の哀楽を鋭く綴った歌詞、演奏力抜群のアンサンブル、圧倒的な歌唱、レコード・ジャンキーとしての博覧強記ぶりなど、その存在意義はあまりに大きい。2008年に結成25周年を迎え、2009年1月、ドラマー脱退。2009年11月25日に現メンバー、直枝政広(Vo.G)と大田譲(B)の2人による約3年ぶりのニュー・アルバム『Velvet Velvet』をリリースした。

カーネーション オフィシャルサイト http://www.carnation-web.com/

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