2010.02.05UP
●入り口はKUWATA BANDの"Come Together"

――ビートルズとはどんな風に出会われたんですか?
サザン(オールスターズ)の桑田佳祐さんがKUWATA BANDをやっていた頃に、テレビで「メリー・クリスマス・ショー」という番組をやったんですよ。そのオープニングで"Come Together"をカヴァーしたんですけど、それを聴いて「なに、このカッコいい曲は!?」と思って。それで調べて、『Abbey Road』を買ったんですよね。ステレオを買ってから、初めて買ったレコードだったと思います。高2くらいの時かな。
――じゃあ、その頃から今回の映画「ゴールデンスランバー」のタイトルになっている"Golden Slumbers"は聴いていた?
そうです。その頃、バンドをやってたんですよ。サザンのカヴァーとかやってて、ギターを弾いてたんですけど、すごく難しかったんです。左手がもう、全然動かない。それで限界を感じて、高3の文化祭までやってやめよう、と思って。「最後にビートルズをカヴァーしたら面白いかも」って方針転換して、高3の文化祭だけビートルズと(ローリング・)ストーンズのコピーをやったんです。そこで初めてグルーヴ感というのを体感して、「バンドは面白い!」って思いました。
――でも、結局、音楽はそこで一段落して映画のほうに進まれたわけですね。
ええ。同じ頃に伊丹十三監督の「マルサの女」っていう映画を観て、「映画をやるのも面白いかもしれない」と思って。
●『Abbey Road』は自分のなかでものすごく大切なもの

『Abbey Road』を模した「ゴールデンスランバー」のプレス資料
――ビートルズは人生の選択期に聴いた音楽だった。
そうですね。とくに『Abbey Road』は自分のなかでものすごく大切なものだから、iPodなんかに入れなくても頭の中でいつも再生できるくらいです。
――そういえば映画のプレスの表紙も、『Abbey Road』を意識したデザインですね。
これは映画会社がやったことなんですけど、偶然の一致ですね。
――『Abbey Road』を入り口にして、ビートルズのほかのアルバムも聴くようになったんですか?
ええ。それでビートルズをいろいろ聴いているうちうに、ジョンのソロも聴くようになって。ジョン、カッコイイじゃないですか。その時、付き合っていた女の子がオノヨーコが好きだったりもして。二人で聴いてました。ジョンの命日の時は、楽器ができる仲間が集まってジョンの曲を演奏したりしてましたよ。"(Just Like) Starting Over"とか。
●歌詞を読んだら、小説「ゴールデンスランバー」のタイトルの意味がわかった
――今回の映画の脚本は"Golden Slumbers"を聴きながら書かれていたそうですが、改めてじっくりと聴き直してみていかがでした?
やっぱり歌詞ですね。これまで歌詞の意味を突き詰めて聴いていなかったので。伊坂(幸太郎)さんに「なんで〈ゴールデンスランバー〉にしたんですか?」っていう話をしたんですが、歌詞をよく読んでその理由がわかった。
――映画でも歌詞が紹介されていましたが、〈失われし美しき日々〉みたいな感じの内容ですよね。ちょっとノスタルジックな。
そうそう。確か、"In My Life"の歌詞もそんな感じじゃないかな。高校とか大学の時から、そういうお話とか映画がたまらなく好きだったんです。伊坂さんがそういうテーマで物語を書き、しかもタイトルが「ゴールデンスランバー」になってる。前から伊坂さんとは好きな音楽とか映画がすごい似てるのはわかってたんですけど、伊坂さんがこうやって勝負に出た時に「ゴールデンスランバー」というキーワードを出してきたのを知って、「もちろん僕が撮ります!」って感じでしたね。
――映画では斉藤和義さんが"Golden Slumbers"をカヴァーされていますが、これはどういった経緯で?
前に「フィッシュストーリー」っていう伊坂さん原作の映画で、斉藤さんに主題歌をやってもらっていたので自然な流れでしたね。ほかのミュージシャンは誰も考えつきませんでした。
――斉藤さんの反応はいかがでした?
もう恐縮してましたね。斉藤さんもビートルズが大好きだから「こんな僕が恐れおおい」って。そこを「斉藤さんの声で聴きたいんです」って説得して。最終的には「もし、ダメだったら使わないで下さい」って言いながらも、やってくれた。こっちも「そうですね、そのときは使わないことにしましょう」って。結局、使うんですけどね(笑)。

映画「ゴールデンスランバー」より
――できあがった曲を聴かれていかがでした?
やっぱり、お願いしてよかったですよ。英語もすごくうまい。全然、英語ができない俺からすると、ポールよりうまいかも、って思ったくらい(笑)。
――映画のどこで使うか、っていうのは悩まれました?
そうですね、秘密兵器みたいなもんですから。2回出してるんです。堺(雅人)さんにしろ、吉岡(秀隆)君にしろ、竹内(結子)さんにしろ、劇団ひとりにしろ、それぞれ("Golden Slumbers"を)歌う箇所があるんですけど、そういうシーンが来る前に一度かけておこうと。多分、いまの若い人の多くは曲を聴いたことがないだろうから。そういうのがまずあって、あと、もう一回は、とっておきのクライマックスですよね。花火があがる瞬間。最初、スタッフはそこで曲をかけるってことに違和感があったみたいなんです。「このクライマックスで大丈夫なんだろうか?」って。もちろん、僕の中ではイメージはできていたので、ある程度、編集が終わってから「じゃあ、ちょっと曲を入れてみて」と。それを観て、スタッフはビックリしてましたね。「こんなつもりだったんだ!」って。
――ほんとに物語と歌が密に結びついた映画ですよね。映画を観た後に"Golden Slumbers"を聴くと、映画のいろんなシーンがフラッシュバックするというか。最後にビートルズ・ファンには、こういうふうに映画を楽しんでほしい、みたいなメッセージを頂けますか。
熱心なビートルズ・ファンって、30代後半から上くらいだと思うんですよ。そういう世代の人たちって、大々的にロードショウ公開される邦画は、あまり観に来ないと思うんですよね。でも「パブリック・エネミーズ」とか、そういった洋画は観に行くと思うんです。まあ、俺が勝手に思ってるだけですけど(笑)。だから、そういう映画を観に行くつもりで「ゴールデンスランバー」を観に来てほしいですね。ビートルズの曲がかかってて、タイトルにもなってますよ、っていうことだけじゃなく、そういうあなた方の世代でも満足できる娯楽映画を日本でもやってるんですよ、っていうことを知ってもらえればと思います。
取材・文/村尾泰郎
中村義洋(なかむら よしひろ)
映画監督
1970年、茨城県出身。成城大学在学中に撮った短編「五月雨厨房」が、ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞。大学卒業後は、崔洋一、伊丹十三、平山秀幸らの助監督として現場に参加。 99年「ローカルニュース」で劇場映画デビュー。その後「仄暗い水の底から」、「ラストシーン」、「クイール」などの脚本に携わり、監督としては08年「チーム・バチスタの栄光」、「ジャージの二人」、09年「ジェネラル・ルージュの凱旋」といったヒット作を生み出している。07年に伊坂幸太郎の小説「アヒルと鴨のコインロッカー」を、09年には「フィッシュストーリー」をそれぞれ映画化。「ゴールデンスランバー」は、中村監督による伊坂作品の映画化3本目となる。
映画「ゴールデンスランバー」オフィシャルサイト http://www.golden-slumber.jp/
