2010.03.12UP
●小学6年の時には、ビートルズのすべてのアルバムを聴くことができた

――小西さんはビートルズと聞いた時、最初にまず何を思い浮かべますか?
うーん、人物だとポール・マッカートニーが浮かぶんですけど。でもね、サウンドだとジョン・レノンの声が浮かぶ。そんな感じですね。
――それは4人のなかで、いちばん興味があるのがポールということですか?
そうですね。僕もビートルズを知ってもう40年以上になるんですけど、その時その時でビートルズに対する興味が変わってきたんですよ。例えばピチカート・ファイヴをやっていた時は、僕はもしかしたらビートルズが好きなんじゃなくて、リチャード・レスター監督が演出したところの「ハード・デイズ・ナイト」と「4人はアイドル」の、あのビートルズが好きだったのかもしれないと思ってたんです。あの映画にやられたんだなって。でも、また最近変わってきて、自分が好きなのは結局、ポール・マッカートニーなのかなって思うようになったんですよね。
――それは何故なんでしょうか?
僕はいまのところ、人生の大半の時間を音楽家として過ごしてるんですけど、やっぱりポール・マッカートニーというのは、20世紀以降の音楽家としては理想的な人だと思うんですよね。
――その〈理想的〉というのは?
簡単に言うと、自分の好きな曲を書いて、それを商品として複製して発売して、大衆に喜んでもらえるってことですよ。
――レディメイドの大家ということでしょうか?
そう、ほんとそうですね。
――小西さんがビートルズを最初に聴いたのは、いつ頃なんですか。
僕は69年に、いわゆる洋楽ポップスに目覚めたんですよ。僕は小学生時代は北海道の実家から離れて、東京の叔母の家で暮らしていたんですね。それで69年にクラスのみんながGSファンだということを知って、慌てて僕もテレビでGSを追いかけるようになった。タイガースやスパイダースが出ている番組は片っ端からチェックしていったんですけど、そのうちのひとつに土曜の午後3時からフジテレビでやっていた「ビートポップス」という番組があって。タイガースを目当てにチャンネルを合わせたら洋楽のトップ30を紹介する番組で、そこで初めて外国の音楽と出会ったんです。それでゾンビーズ"Time Of The Season(二人のシーズン)"とかドアーズ"Touch Me"といったシングルを買うようになって、そのなかにビートルズの"Ob-La-Di, Ob-La-Da"もあったんです。
――初ビートルズは"Ob-La-Di, Ob-La-Da"。
そう。B面が"While My Guitar Gently Weeps"で。それで長距離電話で親に「ビートルズが好きになった」って言ったら、両親はビートルズのレコードをほとんど持っていて。家にあるビートルズのレコードを全部カセットに録音して送ってくれたんですよ。その後、小学校6年の夏休みだったか冬休みだったかに帰省した時に、まだ持ってないビートルズのアルバム、『No.5』とかそういうのを買ってくれた。すぐにビートルズのアルバムを全部聴くことができたんです。
――ラッキーですね。小学生にとってビートルズはどんなバンドでした?
やっぱカッコいい存在でしたよ。確かお年玉のお小遣いとかを貯めて『The Beatles(ホワイト・アルバム)』を買ったんですよ。4人の写真が入っていて、「ああ、みんなカッコいいな」と思った。とにかく、親が録ってくれたカセット・テープをすごい聴いて。で、親に感想の手紙を書こうと思って、もう一回、一生懸命聴いたんですよ。そしたら、いちばん良いと思ったのは『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』だった。
●オリジナル以上にビートルズのカヴァーが好きかもしれない
――映画もリアルタイムでご覧になってたんですか?
そうですね。特に「イエロー・サブマリン」は封切りで観てるんですよ。それも封切り初日の第一回目(笑)。あれほど待ちに待った映画はなかったですね。当時、僕は音楽以上にマンガと美術の世界にやられてたんです。特に横尾忠則さんとか宇野亜喜良さん、伊坂芳太良さんとか。その頃は、イラストレイターという職業が注目を浴びてスーパー・スターみたいな存在だったんですよ。だから僕も小学生のくせにビートルズ聴いて、もっとすごいことに「美術手帖」とか読んでた(笑)。でも、そういう子供は僕だけじゃなかったと思う。
――「イエロー・サブマリン」はいかがでした?
その頃、TBSテレビで朝の7時20分から「ヤング720」っていう若者向け情報番組があって、ジャックスを初めて見たのもこの番組だったんですけど、そこで「イエロー・サブマリン」の予告をやったんだよね。これは絶対観なきゃいけないって感じがした。だから、待ちに待ってた感じで観て、もう最高でしたよ。瞬きができないぐらい最高の映画だった。
――なるほど。ビートルズのサウンドについてお伺いしたいのですが、これまでビートルズの曲をカヴァーしたことはありますか?
思い出せる限りではないですね。僕はビートルズが好きな一方で、彼らの音楽性というか、作曲とかにおける独特のハーモニー感覚をわりと敬遠してたところがあるんです。
――それはどうしてなんですか?
ひとつには、ギターとかピアノでビートルズの曲を弾くとすぐわかるんですけど、結構難しいんですよね。ある意味、ビートルズの曲ってちょっとジャズっぽい。それも昔のスタンダード・ナンバーに近くて、メロディアスなメロディーに、それに準じてメロディックなコードを付けていってるんですよ。コード進行がすごい説明的なの。僕は中学~高校生ぐらいからソウル・ミュージックが好きになっていったんだけど、そこでちょっとビートルズと距離を持ったのかもしれない。ソウル・ミュージックっていうのは、上のコードは変わっていってもベースの音はずっと同じだったりする。ちょっとジャズのモードとかと近い、というか、ハーモニーはそれなりに単純ではないんだけれども、敢えてすごいシンプルにしてるところがあるんですよ。
――そこに距離を感じて、あまりカヴァーしなかったと。
それにビートルズを通して学んだことは、曲はカヴァーするものじゃくて自分で作るものだっていうことだったから。でも、一方で、ビートルズのカヴァーは大好きなんですよね(笑)。ビートルズのオリジナルより好きかもしれない、みたいな。

・「イエロー・サブマリン」のミニ・フィギュア
「確か東急のミニカー売り場で、モンキーズ・カーと〈グリーンホーネット〉(ブルース・リー主演のTV番組)の車と一緒に買ってもらったんです。小学生の頃で、もしかしたらビートルズの音楽を聴くようになる前だったかもしれないですね」。
●ポール・マッカートニーは、まだ会ったことのない最後の大物
――そう言えば最近、リミックス・アルバム『ATTRACTIONS!』をリリースされたばかりですが、リミックスしてみたいビートルズ・ナンバーはありますか?
いくつもありますよ。"Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band"と"Back In The USSR"と"Birthday"、この3曲はやりたいですね。今回のアルバムのジャケを作っている時、CDができたらポール・マッカートニーに渡したいって、ずっと思ってたんです。
――ピチカート・ファイヴのオリジナル作品じゃなくて、リミックス・アルバムをですか?
ピチカート・ファイヴの名前はミック・ジャガーも知ってたくらいだから、ポール・マッカートニーも聞いたことがあるって言ってくれるかもしれないけど、日本語だから面白くないかも。でも今回のアルバムは外国の曲がいくつか入ってるし、ポール・マッカートニーも「ああ、なるほど」って思ってくれるかもしれないでしょう。
――収録曲のなかで、とくに聴いてもらいたい曲ってありますか?
"マツケンサンバ II"(笑)? 「ジャパニーズ・バリー・マニロウ!」なんて言ってくれるかもしれないけど(笑)。うーん、ジェイムズ・ブラウンとかシュープリームスとかトゥイギーとか、そういった人たちのリミックスは聴いてもらってもいいかもしれない。それで気に入ってもらえたら、いつかビートルズのリミックスをやってみたい。僕にとってポール・マッカートニーは、まだ会ったことがない最後の大物なんですよ。ピチカート・ファイヴでデビューする前に憧れてた人、いつか会いたいと思った人は、もうほとんど会うことができたんです。バート・バカラック、ミシェル・ルグラン、筒美京平先生、村井邦彦さんにも会ったし、小泉今日子さんにも会った。横尾忠則さんの本の帯にコメントも書いたし。ポール・マッカートニーだけだな、もう残ってるの。
――じゃあ、もし直接会ってCDを渡せるとしたら、なんて声をかけたいですか?
「You Are The Reason Why Here I Am(あなたこそ、僕がここにいる理由です)」かな。ほんと、ポール・マッカートニーって、モノを作っている人なら、こうありたいっていう理想の人生を歩んでる人だと思うんですよね。
取材・文/村尾泰郎
小西康陽(こにし やすはる)
ミュージシャン

1985年、ピチカート・ファイヴのメンバーとしてデビュー。作編曲家。DJ。2010年より、新レーベル"READYMADE V.I.C."を発足。2009年、ミュージカル「TALK LIKE SINGING」(三谷幸喜 演出・脚本)の作曲・音楽監督を務める。現在は前園直樹グループの一員としても活動中。
READYMADE V.I.C.より、レーベルを超えた2枚組リミックス・アルバム『ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010』が、3月3日にリリース。iTunes、着うた(R)、着うたフル(R)でも配信中。
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