

べリー・ゴーディーJr.の思想を反映したモータウンの黎明期は、60年代だというのが一般的な認識だ。
事実、モータウンを代表する数々の名曲が誕生したのは、70年にロサンジェルスへ移転する以前だ。
「だからといって70年代以降現在に至るまでのモータウンを切り捨てる気にはなれない」と語るのは音楽プロデューサーの松尾潔氏。
"後追い世代"の立場から、平井堅やケミストリー、EXILEなどのプロデュースに際しても、モータウンの制作システムが大きな影響をあたえているという。
取材・文/印南敦史 撮影/財津はやと
―― 初めて買ったモータウンのレコードはなんでしたか?
中学時代に買ったスティーヴィー・ワンダーの"Another Star"です。カップリングの"CREEPIN'"がメロウで、それでヤラれちゃったんですね。そのころは貸しレコード全盛期だったんですが、スティーヴィーは早い段階で「所有したい」っていう気持ちにさせてくれたんだと思います。
―― そう思わせたスティーヴィーにはどんなイメージをお持ちですか?
スティーヴィーって日本では神格化されたり、すごく崇高な音楽をつくる人みたいなイメージですよね。でも僕のなかでは、〈おもしろい人〉なんです。彼の音楽の非常に太い柱として、自己諧謔的な部分があると思うので。わかりやすいところだと、彼は曲のなかでしょっちゅう笑ってますよね。明るい笑いもあれば、冷笑的でシニカルな笑いもあるし、それってアメリカの黒人文化の縮図みたいなものだと思うんです。『Jungle Fever』からカットされた"Fun Day"のPVなんて、スティーヴィーが車を運転してますからね。最高でしょ? 僕はそういうところに彼のたくましさ、もっというと黒人文化の強靭さを感じるんです。
―― そんなこともあって、スティーヴィーからモータウンを意識しはじめたわけですね。
知識がないまま聴いていくうちに、音楽のつくり方とか背景などにも興味を持つようになったんです。当時ヒットしたフィル・コリンズの"恋はあせらず(原題:You Can't Hurry Love/シュープリームスのカヴァー)"やホール&オーツの"Maneater"を聴いたときにも「リズムが似てるなあ」と思ってたんですけど、そういったものが全部モータウンの模倣だっていうことに気づいて。それでルーツに入っていくわけです。それ以降はモータウンやタムラのロゴが、グッドデザインマークのように見えるようになってきました。しかもそれが、かなりの確率で当たっていたんですよね。なかには最初、ちょっとピンとこないものもあったりしましたけど。
―― たとえば、ピンとこなかったのはどのあたりですか?
後になって愛聴盤になるんですけど、マイケル・ラヴスミスのファースト・ソロとか、「ラスト・ドラゴン(原題:The Last Dragon)」っていう映画のサントラ。当時の新譜です。80年代のモータウンをモータウン・サウンドと呼べるかっていうと疑問もあるんですけど、少年時代ですから吸収はしますよね。「うーん、エル・デバージっていう人は軽いなあ」とか(笑)。要するに僕にとっては、シュープリームスのベスト・アルバムも新譜のマイケル・ラヴスミスも全部モータウンなんです。そこには20年ぐらいの隔たりがありますけど、でもモータウンのマークがついてるからといって、みんなが同じことをやってるわけじゃないですし。
―― 体系化してモータウンを理解したのはいつごろですか?
高校生ぐらいから掘り下げはじめて、大学生のころにはべリー・ゴーディやスタッフ・ライター、ファンク・ブラザーズと呼ばれるミュージシャンの存在にも興味がおよんでました。一時期は通ぶっちゃって、「俺はモータウンみたいなヤワなものは聴かない」とか言ってた時期もあったんですが、自分の根がヤワなんで長続きしませんでした(笑)。だから結果的には長らく聴いてますね。本も映像も、集められるものは集めてね。
―― 特に思い出深いレコードはありますか?
高校時代にカット盤で買った『Motown's Disco Party Pac』っていう12インチシングル4枚組のボックス・セットです。1979年リリースのアメリカ盤の企画もので、リック・ジェイムス、ハイ・イナジー、ビリー・プレストン&シリータ、タータ・ヴェガの4組。B面にそれぞれインストが収録されてました。あと、そのころは通販のオークションもはじめてましたね。モータウンを全部買うなんてありえないと早々に見極めがついていたので、特にドーナツ盤の泥沼のようなところには溺れずに済みましたけど。
音楽プロデューサー。平井堅、ケミストリーなどを数々のアーティストを手がける。プロデュース曲EXILE“Ti Amo”(2008)は第50回日本レコード大賞を受賞。制作活動のほかライター、ラジオDJなど全方位的にブラックミュージックにかかわっている。
松尾潔公式サイト - Never Too Much Producions -
