

坂本龍一、5年ぶりのソロアルバム『out of noise』が発表する。5年ぶりのニューアルバム というと、ややもすると長いブランクがあったようにも感じられるが、この間、坂本氏の活動は、アルバ・ノトやクリスチャン・フェネスとのコラボレーション、「HASYMO」でのバンド活動、CDと本を組み合わせた音楽全集シリーズ「commmons:schola」の第一弾「J.S.バッハ」、高谷史郎とのインスターレション作品「LIFE」、映画音楽「SILK」、「ロハスクラシックコンサート」の監修・・と、まさに「ソロ」だけを除いて、さまざまな形式の"音楽活動"が行われてきた。
また、アーティストパワー、more treesといった社会活動の呼びかけを行っていて、音楽を根幹にして個から社会へと広がる波紋のように、精力的な活動が続いている。金融危機やオバマ大統領登場という、現代社会が一大転機を迎えているとされる今、そうした社会状況について坂本氏が何を考えているのかをうかがいたい気持ちも強かったが・・・。今回は、あえてそうした話題を避け(他のメディアで、そうした話題を見聞きすることもできるだろうとも思うし)、「音楽」そのもの、社会の中の「音楽」の役割、についてうかがった。
text:江坂健 photo:鈴木啓太(PLOT.lv04)
── これまでの坂本さんの音楽からは、構築的な印象を持つことが多かったのですが、今回は、絵画的というか、感覚的というか・・そんな印象を持ちました。今、坂本さんが音楽を作られるにあたって、もっとも大切にされていることは何ですか?
"響き"ですね。今回は、特にコンセプトもなく・・いつもないんですけれど(笑)。2、3年前から自分でとったメモを振り返ってみると、響きから何かを作ろうとしていた、しているんですね。響きは街にもいろいろあるじゃないですか。いろいろな好きな響きを追っているという感じですね。だから、構築的に何かを作るという、建築的なことはあまりやってなくて。
── それは、ここ数年、徐々にそうなられたんですか?
アルバ・ノトやクリスチャン・フェネスとのコラボレーションを通して、だんだん響き重視になってきたという感じですかね。う~ん、そうなんだろうな。建築と音楽ってよく比較されるけれど、建築的に音を重ねていって何かを作る、ということにはあまり興味がなくなってきたかな。 やったことないんですけど、生け花のようにね。枝を置いてみたり、花を置いてみて、見て・・納得する、腑に落ちるまで見て、また切ってみたり・・とかね。特に今回は生け花だったら刈る、音を抜くようなことを重視してきた。自然にそうなってきたんですけれど。
── 「美」といいますか、音のバランスというか、美というのが重視されている、ということですか?
まぁ、美なのかな・・。それはもう、個人的なものだからな、なんと言ったらいいのか。バイクのエンジンのブルルン~、という音が好き、という方もいるでしょうし。美と言わなくてもいいのかもしれない、好きな「音」ということですね。響きで。もっと簡単に言っちゃうと、自分の聴きたいような音を並べただけなんですよ。作った、ではなく。
── インターコミュニケーションセンターなどでおやりになられた高谷史郎さんとのインスタレーション「LIFE(http://www.ntticc.or.jp/Archive/2007/LIFE_fii/preface_j.htm)」では、霧の中に映像が浮かび、揺らぐという情景も、今回、思い浮かぶイメージに近いものがあります。
あれもやっぱり大きく影響しているかな。あれも構築的ではないですね。もっと空間的というのか、あの時は「庭」と言っていたんですが、2次元的な時間の流れで何かが生起していくとか、論理的に何かに移って行くというようなことはほとんど考えないで、空間にどう音を置くか、ということが面白かったんですね。似てるといえば、似てるかもしれない。
もうひとつは、副題で、「fluid, invisible, inaudible ...見えるものと見えないもの、聞こえるもの、聞こえないもの」と言っていたわけですが、この間、やっぱりノイズとサウンドとか、その境界とか、サイレンスとサウンドとか、聞こえるものと聞こえないものの境界とか・・響きも、ピアノのように減衰していくとノイズのほうに溶けていっちゃって、なくなるわけじゃないんだけれど、ノイズと一緒になって境がわからなくなる。そういう状態というのが面白いんですよね。
── 音楽を制作される時に、楽しい、と感じられる時というのはどういう時ですか?
耳の悦びですね。それは自分で作らなくても、ただ道を歩いていて出くわす場合もある。それも楽しいことですね。好きな音に出会う時。今回も、過去5、6年のいろいろな好きな音を"置いて"いっているんですけれど、ただ、切り取ってぽんと置くだけじゃ、作品にはならないような気がしているんですよね。そういうスタイルはありますけれど、ドキュメントみたいな、フィールドワークに徹するような。僕の場合は、それだとちょっと物足りなくて、なにかそこに何かを置いてみてですね(机の上にあった小箱とカードを重ねて置いてみる)、ピタッと腑に落ちた時が楽しいですね。あ、ここだ、と。
── それは、きわめて感覚的なものですね。
そうですね。それは公式はないですから、毎日、毎日、いろんなことをしてみて、たとえば、夜になって酔っぱらってきて、すごくいい気持ちでできた!と思って、翌日聴いてみると、やっぱり違うとか、というようなことはたくさんあるわけですけれど。(机の上の小物を並べかえつつ)これを取っちゃって、こっちに置くとか・・。これは絵とか、そういうものに近いかもしれないですね。絵もそうでしょ?
── ・・たぶん、そうなんだろうと思います(笑)。
(笑)、僕も知らないんですけれど。
1952年生まれ。178年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、細野晴臣、高橋幸宏とYMOを結成。1984年、自ら出演、音楽を担当した『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞他、映画『ラストエンペラー』の音楽でアカデミー賞、グラミー賞他受賞。1999年制作のオペラ『LIFE』を皮切りに論考集『非戦』の監修や、自然エネルギー利用促進を提唱するアーティストの団体artists'powerを創始するなど、活動は多岐にわたる。

2004年の『CHASM』以来、5年ぶりとなるオリジナル・アルバム。豪華ブックレット付きのフルアートワークCD、アートワークを排し、「音源」のみにフォーカスしたパッケージレスCD、2枚組重量盤のアナログ・レコードの3形態でのリリース。(写真はフルアートワークCD)
発売日:2009年3月4日
品番:RZCM-46128(フルアートワークCD)
価格:¥4,500(tax in)
品番:RZCM-46129(パッケージレスCD)
価格:¥1,980(tax in)
品番:RR12-88544,45(アナログレコード)
価格:¥3,990(tax in)
