

── 今回、どうして、こういうことをおうかがいしたかったかというと、ここ数年、私のまわりでも、バンドをやる、音楽教室に行く、というような人が増えていまして・・。個人個人の生活の中でより"豊かな生活"を送るために、「音楽」の重要性が再認識されている気がしているんです。
それは善し悪しは別にして、そういう生活ができる社会、というのは素晴らしいですよ・・世界的にみれば。音楽的に豊かかどうかはわかりませんが。逆に若い世代が、そういうことをできなくなってきている気もしますが。
── 数年前から、IT業界の知人などが急に趣味でバンドを始めたりしているんです。
リタイヤした団塊の人たちがやっている、というのは聞いていたけれど、IT業界の人とかもやっているんだ。そうですか・・ストレスが多いからですかね。なにか満たされないんじゃないですか、きっとね。やっぱり、90年代は、インターネット自体が音楽かそれ以上に面白かったじゃないですか。今のインターネットには、そのような面白さはもうないですね。毎日変わっていて、それに自分も参加できて、個人と個人がつながって・・、夢のような話じゃないですか。まあ興奮していましたね。ああいうのはもうなくなってしまった。
YouTubeだってあっという間に囲いのようなものができて、Youtube自身が囲いのようなものになって、リジッドなものになっている気がするんだな。もっと柔らかくて、ふにゃふにゃしていて、わけわからなくて、だからエキサイティングだったと思うんだけれども。インターネットには、それはもうないよね。特にビジネスが絡んでくると、しばられた世知辛い部分にを気を使わないといけないし。ほんとうに自分でバリバリ新しいアプリとかを書けるようなヤツだったら、プログラムを書くことが、曲を作ったりする楽しさと同じだろうと思うんですが、ITに従事している人だってそんな人は少ししかいなくて・・。
そういう人たちだって、googleにいるような面白いことを考えているやつ、のようなそんないい条件ってなくて、みんなやっぱりクライアントさんがいて、そのためにやるわけで。結局、昔の代理店とかデザイン事務所とかと同じで、クライアントさまさまで・・辛いんじゃないですかね。そんな知っているわけじゃなくて、ぜんぶ、これ想像ですけれど(笑)。
── (笑)。まったく、ご想像どおりだと思います。この流れとは別ですが、世界には、音楽とともに豊かな生活を送っている人々も多いと思います。坂本さんは、この人たちは音楽とともに豊かな生活をしているよね、というようなご経験ありますか?
まず、いつもうらやましく思うのは、韓国に行った時に、韓国人はほんとうに音楽的というか、でもそれも最近の若い子たちをみると、ずいぶん渋谷っぽい感じになっているので、変わっちゃったから、変わりつつあるかもしれないけれど、日本人よりも遥かに歌うこととか、音楽で表現することが好きだし、上手ですよね。いろいろな感情表現がぜんぶ音楽表現に出てきますね。
日本人は、わびさび じゃないけれど、ぐっと抑えることに美を見出す、というか、僕の中にもそれはあるけれど、そういうのがあるでしょ。抑えて、わざと表現しないよさというか。僕の新しいアルバムもそういうところがあるかもしれないし、演歌だって、そういうところがあるかもしれない。苦しいところを苦しい、って言わなくて抑えているから、そのよさが出る、みたいな。そういうのはジェロがやったりしているわけだけど。そういうところに魅力を感じる癖があるでしょ、日本人って。お隣の韓国はそれはあんまりないのね。ストレートに表現するから、世界的にみると彼らのほうが表現は豊かですよ。だから何も知らないアメリカ人がみたら、あっちのほうにひかれるんじゃないかな。あんまり、日本人は音楽的じゃないと思いますね。
── 沖縄などはどうですか?
沖縄の民謡酒場は、ずいぶん流行っていたな。驚愕するよね。おじいちゃん、おばあちゃんまで何世代も、夜中まで踊っているから、びっくりしちゃうよ。
その感じは、ブラジルなんかもそう。ブラジルは、町単位でカーニバルのときにせりを出すじゃないですか。だから、町単位で練習するでっかい体育館みたいな広場があって、歩いていると凄い音がするから、音に引き込まれて入って行ったらもの凄いんですよ。練習している音の圧力、エネルギーが。ほんとにもう、そのへんのおばちゃんがやっているんだるけれども。技術というよりも、音のつぶが何万個も重なって、ぐわーっと押し寄せて来るそのエネルギーは凄いですね。それはちょっと似た感じはあるかも、沖縄に。
── そういうのは「伝統」によるものなんでしょうか。
コミュニティに根ざしているんでしょうね。ひとりの天才がいても、そういうふうにはならないわけですからね。日常的なことなのかな。彼らにとっては、回覧板まわすのと同じようなことなのかもしれませんね。キューバはまだ行ったことないけれど、たぶんそんな感じなんだろうなと思いますけれど。
あとやっぱり、"音楽が救い"というのはあんまり言いたくないけれど、そういう役割というのは絶対にありますね、音楽は。僕のオペラ「LIFE」の中で、ピナ・バウシュが、ロマの人たちのことを語っていて「辛い時に、泣くんじゃなくて歌え、って、おかあさんに言われた」というのがあって。「Sing!」と。今のガザでも歌っているかもしれない。そういうものすごい大きな役割というのはあるかもしれないね。だから、今、まわりで音楽や歌が必要とされている、というのは、そういうことじゃないの。「泣きたい」という・・たぶんね。
── ダイレクトに言ってしまうと・・救われたい、という気持ちもあるんでしょう。いっぽうで、音楽の情報そのものが過多なので、それで音楽と接するということが、以前は受け身でも楽しめたものが、自分でなにか音を出してみようか・・、ということもあると思うんです。
音楽が情報になりすぎていて、それが無限にある、と。そうなるともう拒否したくなりますね。それは僕もそうですから。このところは、あんまり聴かないですから。だから、ただ受容する情報としての音楽に、もうアップアップしちゃって、音を出して細胞が生き生きするところがあるんじゃないですかね。
── 個人的な経験でも、「音楽」というレベル以前に、音を出すのが身体に響いて心地ちいい、という感じることあります。
そういう研究があったよ、真面目な。「Nature」かなにかに載ってた。細胞かDNAと音に関することだったと思う。生物学的な。悦ぶ、というのはなにか快感物質が出ているんだと思うんだけれど。それは、別に概念的に悦んでいるわけじゃなくて、たぶんもっと生物として、細胞レベルで嬉しいということなのかもしれないね。
だからさっきの僕の話も、気持ちいい響きを聴いたり、自分で作ったりした時は、快感物質のようなもの、脳内麻薬のようなものが出ているんでしょう。気持ちいいな~と。よだれをダラダラ流して、そのへんに寝ちゃったりして。そんな感じですからね。
── 僕も、モレレンバウム夫妻とのユニットでコンサートを赤坂ブリッツでおやりになられた時に、あまりに気持ちよくて、途中で寝ちゃって、隣の人に怒られたことがありました(笑)。
それは、僕の持論でもありますが、よいコンサートほど眠たくなりますよ、必ず。だから、寝られないようなコンサートはダメです。
── そういう機会が増えるといいですね~。あと、自分たちで音を創るようなゆとりが持てるといいな、と思うんですが・・。
ただ、ある程度の経済的な余裕がないと、できないでしょう・・。
── まぁ、メシは食えないと・・。う~む。そのあたりは、社会構造の話に至りますね。今回は、そちらの話はうかがわなかったですが・・。
ぼくはね、今回の金融危機で、株式制度自体の見直しまで突き進む、と思っていたんです。そうなると思って期待していたんだけれど、今は対症療法というか、金をつぎ込んで傷口をふさいで延命させようとしていますが、わりと資本主義の根幹が揺らいでいるよね。次の持続的な経済システムに移行するチャンスではある。みんなそこまでいきたくないみたいで。今までどおりやりたい・・面白い時だよね。
── 結局、経済はマクロに頼らざるを得ないところがあって・・。
個人で解決するには限界がありますよね。
── そこで、「音楽だよ!」と。
開き直り・・、それはいいと思いますよ。嫌な響きを我慢すればそれは一種の救いなんでしょうね。それを素直に救いだって、喜べない僕らも不幸なのかもしれませんが、救いで何が悪い、ってことなのかもしれませんけれども。救い、というと何か抵抗があるよね。でも、ピナ・バウシュが言う「泣くな、歌え!」っていうのは、やっぱり凄いねえ。
参考:近年の坂本龍一氏へのインタビュー
・「食料や水を求めた戦争が始まる」2000年
(http://wiredvision.jp/archives/special/interview_musicians/200002150100.html)
・「9.11以後 ── ヒトは奪い、殺し、「帝国」を成す」2003年
(http://sound.jp/suitenet/sakamoto.htm)
1952年生まれ。178年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、細野晴臣、高橋幸宏とYMOを結成。1984年、自ら出演、音楽を担当した『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞他、映画『ラストエンペラー』の音楽でアカデミー賞、グラミー賞他受賞。1999年制作のオペラ『LIFE』を皮切りに論考集『非戦』の監修や、自然エネルギー利用促進を提唱するアーティストの団体artists'powerを創始するなど、活動は多岐にわたる。

2004年の『CHASM』以来、5年ぶりとなるオリジナル・アルバム。豪華ブックレット付きのフルアートワークCD、アートワークを排し、「音源」のみにフォーカスしたパッケージレスCD、2枚組重量盤のアナログ・レコードの3形態でのリリース。(写真はフルアートワークCD)
発売日:2009年3月4日
品番:RZCM-46128(フルアートワークCD)
価格:¥4,500(tax in)
品番:RZCM-46129(パッケージレスCD)
価格:¥1,980(tax in)
品番:RR12-88544,45(アナログレコード)
価格:¥3,990(tax in)
