

―― しかも、音楽についての文章というのは、プロのライターがどれだけテクニカルに説明したとしても、決して実際の音を伝えることはできないという諦めの元に成り立っているところがあるじゃないですか。
うん。そのことは改めて感じたな。今回の作業でぼくがハッキリとわかったことは、実際の音楽と、それを批評した文章というのは、相容れないものだということ。この1冊を作ったということは、その確認だったと言ってもいいかもしれない。
たとえば、たいていの音楽雑誌のインタヴューというのは、アルバムのリリース・タイミングでブッキングされるにもかかわらず、すぐに音楽のことを離れて、〈人となり〉の話になるじゃないですか? あれっていうのは、とてもじゃないけど音楽を言葉でなんか説明できないという証明だと思うんですよ。どんな文章の達人でも、音楽のことを捉えることはできなくて、結局はその周辺のことを書いて、ページを潰さざるをえない。であれば、ぼくは、自分にしか書けない〈個人史〉こそを書くべきだと思ったんです。......本当に音楽についての文章は難しいし、そもそも両者は別物ですよ。ときに文章表現のほうが遥かに素晴しい、みたいな場合だってあるし。

―― どういうことですか?
「このアルバム、レビューで読んで想像していたほうがずっといい作品だったな」みたいな(笑)。最近、ぼくの周りでは、「買うけど聴かない」という人もいますからね。聴いたらそれで終わってしまう、みたいな(笑)。まぁ、その境地にいくまでは膨大な蓄積というのが必要なんですけど。
―― はい。なかなかぼくらには難しいものがあります(笑)。
ぼくは歳を重ねるごとに聴く音楽の幅が広がってきちゃって、最近は自分でも「これはどうなんだろうか......」ってところまできちゃってるんですよね。たとえば、昨日はクラシックとジャズの中間みたいなスタイルでなんでも弾いてしまう、ガット・ギターの達人たち──ジョージ・ヴァン・エプスとかアル・ヴァイオラとか──そういう人のレコードばかりを買っていたし、今朝は今朝で、五木ひろしのレコードをオークションで競り落としていたりする。『ひろしとギター』っていうシリーズがあって、彼がギター1本で演歌を歌っているんですけど、これがまた、素晴しくて。
だからここ何年かは〈日替わりコレクター〉みたいになってます(笑)。毎日まいにち、ずっとレコードのことばかりを考えてます。

―― 今回の本にしても、そういった音楽好きにこそ読んでもらいたいという気持ちはありますか?
そこまでいっちゃってる人っていうのは極端だとしても、なるべく大きな意味での〈音楽ファン〉に読んで欲しいと思いますね。たとえばギターに興味がある人であれば「ギター・マガジン」。レコード好きなら「レコード・コレクターズ」。たいていはそういうふうにいくじゃないですか。でも、ぼくの本は、もっと大きく音楽が好きな人に読んでもらいたい。
......ただ、それにしては、いわゆる名盤というのが少ないんだけどね。
―― それはたとえば、ビーチ・ボーイズやビートルズみたいなものですか?
そう。いまの時代の空気にこそ響くものばかりを選べたと思う反面、ぼくが学生の頃に夢中で聴きまくっていたようなレコードというのは、あまりフォローできていないと思う。
ただ、そういう音楽というのも、自分にとってはすごく重要なんです。たとえばプリファブ・スプラウトのレコードというのはもう聴くことはないけれど、決して手放してしまったわけではないし、『ペット・サウンズ』や『ホワイト・アルバム』に関してもそう。
DJやアレンジャーという仕事を続けていると、どうしても消費的に音楽を聴きがちになってしまうと思うんですよ。自分がサンプリングしたレコードは売ってしまうとかね。たとえば筒美京平さんなんかにしても、アレンジの参考にした膨大な量のレコードを、若い子に頼んで定期的に処分してもらっていた、みたいなことを聞いたことがあるんですけど、ぼくはとてもじゃないけど、そんなふうに音楽を切り捨てることはできない。
もしまたこういう企画を頂けるのであれば、今度は『もう聴かないディスクガイド200』というのを書いてみたいかな(笑)。
1985年、〈ピチカート・ファイヴ〉としてデビュー。その洗練されたサウンドとヴィジュアルは90年代初頭、日本で〈渋谷系〉というブームを巻き起こし、その代表的なバンドとなる。94年にはマタドール・レコードより全世界デビューを果たした。2001年のピチカート・ファイヴ解散後も自らレーベルを主宰。作詞、作曲、編曲、プロデューサー、DJ、選曲などの音楽活動以外にも、アート・ディレクター、映像監督として多方面で活躍。2008年秋より〈前園直樹グループ〉としてバンド活動を開始。ピアノ・アレンジメントとして参加。2009年6月にデビュー・アルバム『火をつける。前園直樹グループ第一集。』をアナログでリリース。

小西康陽が特に愛する200枚のCDをセレクトし、なぜその音楽に胸を打たれたのか、そこからどのような影響を受けたのか、自身の音楽遍歴を惜しみなく語るディスクガイド。執筆に加え、アートディレクションも本人が手掛けた。2009年5月26日発売。¥2,100
