

女性的視点でありながら、男性の感情をも揺さぶるラヴロマンスを楽曲にしたため続けるシンガー・ソングライター、古内東子。作品を重ねるたびにアップデートさせてきた艶やかな世界観は、デビュー17年目に届ける最新アルバム『PURPLE』においても唯一無比である。独自のソウル・マナー、ムードをJ-Popシーンに落とし込んできた河野伸の全面アレンジ/プロデュースによって編まれた今作。いま現在の彼女の視点で見つめた12曲の〈LOVE〉を耳にしていると、恋をしている時のドキドキが、また甦ってきそうだ。
取材・文: 久保田泰平/写真:神ノ川智早

──今年でデビュー17年目になるわけですけど、ここに来て古内さんが作る音楽の存在感、唯一無二感をあらためて実感してるリスナーの方も多いかと思うんです。古内さんは、デビューの頃から一貫して恋愛をテーマにした曲を作り続けていますけど、新しい作品はいつもどのように生み出されているんですか?
アルバムを作る時、曲を作る時っていうのは、こういうサウンドを作りたいっていう具体的なことまであまり考えてないんですね。あくまでメロディーと詞が浮かんだところからスタートして、そのうえで、じゃあこういうサウンドが合うかな?っていう考えになっていって、一曲出来上がったら、なんとなく次はこういうふうにしたいなあっていうのが見えてくるというか。
──アルバムを作るにあたって、曲は余分に作るほうなんですか?
いや、あんまり(笑)。ほぼ決め打ちですね。昔から量産型ではないんですよ。
──新しいアルバムで劇的にサウンド・スタイルを変化させた、という例は過去の作品でもなかったと思うんですけど、常にさりげないアップデートはされてますよね?
そうですね、サウンドも歌詞もメロディーもちょっとずつではありますけど、自分のなかでは常に新しさがあると思ってます。今回の『PURPLE』で言えば、コード進行とか。4つのコードを繰り返したりとか、そういうシンプルなものが実はいままであまりなかったんですね。だいたいAメロがあってBメロがあってサビがあって、全部コードが違うとか、そういう曲が多くて、今回のようなアルバムはいままでにはなかったかな。あと、長いスパンで言うと、二人称を〈君〉って言ってる歌が増えてきたかなあとか、結果、こういうとこがちょっとずつ違ってきてるかな?っていうのはありますけど、作るスタイルっていうのはあまり変わってないので......そうですね、出来上がってからこうやってお話をするときに、言いながら気づくみたいなことも多いです。
──その〈君〉という表現が多く使われるようになったのはなぜなんでしょう?
まあ、時代性もあると思うし、年齢っていうのもあると思うんです。男性がいて、女性がそれについていくっていう恋愛観があたりまえのような時代があって、そのあと、女性がとても強くなったって言われた時代があって、今はもうちょっと人間同士というか、男と女である以前に〈人と人〉っていう感じで男女が接している印象を私は感じていて。〈対等〉っていうとすごく平たい表現なんですけども、女性も男性も、恋愛っていうものに対してすごく対等に、フラットに取り組んでいるような気がするんですよね。だから、「あなたについていきたい」っていうのは昭和な感じがするというか。〈あなた〉っていう言葉ももちろん美しいし、曲によっては〈あなた〉がいいなあって時もあるし、使い分けるようにはなってきましたね。〈君〉のほうがノリがいい時もあるし(笑)。

──さて、『PURPLE』は1年半ぶりのアルバムになるわけですけど、この1年半のあいだにどんなトピックがあったのか振り返っていただけますか。
前作の『IN LOVE AGAIN』は、レーベルを移籍して環境も変わったこともあるし、あいだが空いたこと(前々作『CASHMERE MUSIC』から約3年)もあるし、ツアーも含めてすごく新鮮な気持ちで取り組めました。ひさびさに聴きました!とか、初めて聴きました!とか、いろんな人に「聴いたよ!」って言ってもらえましたし。あとはまあ、アルバムのリリース日からブログを始めたんですね。それもあって、いろんなことが新鮮に動き出した時期でしたね。ライヴもたくさん、NYでもやりましたし、それはすごく刺激になって。あとはCHEMISTRYやKREVAくんとコラボレーションしたのも楽しかったですね。
──NYでのライヴはどんな感じだったんですか?
NYのライヴは、本当に思いつきみたいな感じでやることになって。自分へのご褒美じゃないですけど、そんな感覚で(笑)。NYはすごく大好きな場所なんで、そこでやってみたいなっていうだけの気持ちだったんですよね。でも、いざやってみたらものすごく緊張して。ライヴとかあまり緊張するほうではないんですけど、なんでこんなことやっちゃったんだろうなっていうぐらい緊張しました(笑)。でも、やってみてすごくよかったなと思いました、すごく月並みな感想なんですけど。現地にいる日本人のお客さんもたくさんいらっしゃってて、場所はどこであれ、歌うっていうことはこういうことなんだなっていうことを感じましたね。いろんな人が聴いてくださって、時を越え、海を越え、こっちが勇気をもらったっていうか......うまく言えないんですけど、続けたいことがひとつ増えたというか、また今年もやりたいなって思ってますけど。
──NYもそうですし、昨年は小さめのハコでのライヴを多くやられたり、あとはブログを始められたり、リスナーとの距離を近くに感じた一年半だったのではないかと。
そうですねえ。そういった体験が楽しいと感じてる今日この頃ですかね(笑)。なににつけても、それは自分が経験を積んできたからなのか、年齢を重ねてきたからなのか、時代の移り変わりなのか、まあ、全部なのかなって、いろんなことに対して思いますね。こぢんまりとしたイヴェントはそれまでまったくやっていなかったわけではないんですけど、なんだか、その時の繋がり方は今とは違いましたね。
シンガー・ソングライター。1972年11月1日生まれ、東京都出身。1993年にシングル“はやくいそいで”でデビュー。ソウル/AORをベースにした都会的なサウンドによるラヴソングを一貫して発表し続け、高い評価を獲得している。これまでに14枚のオリジナル・アルバムをリリース。

2010年3月3日発売
初回限定盤(CD+DVD):NFCD-27254/B ¥3,800(税込)
通常盤(CD):NFCD27255 ¥3,150(税込)
約1年半ぶり、通算14枚目のニュー・アルバム。古内東子の原点である〈せつない〉気持ちや感情を、デビュー17年目を迎えた今のリアルかつストレートな視点で見つめなおした作品。KREVAとのコラボレート楽曲“スロウビート”も収録。
