四谷・荒木町で“ばんしゃく”を
ほそーい小路が縦横無尽に通り、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出す新宿・荒木町。そんな迷路のような街の“入口”ともいうべき車力門通りにある、「ばんしゃく奈美」という小料理屋に行った。
淡いむらさき色の暖簾をくぐり、格子戸を開けると、まずは「いらっしゃいませぇ」の優しい声。そして、うぐいす色の着物に赤いタスキ掛け姿で、髪をキレイに結った女将さんがにっこりと笑顔で迎えてくれた。
聞けばこの女将さん、かつて「奈美」という名で鳴らした元・芸者さん(17歳のときに、当時荒木町にあった料亭の専属の芸者になったそうです)。さらに、現在は「四谷車力門会」の会長も務める、“荒木町の生き字引”といわれるほどのお方なのである。「荒木町で私を知らなきゃ、アンタはモグリよッ!って、よくいろんな人に言うの(笑)。そういう気持ちが大切よね!」と女将さん。とっても気さくで、なおかつパワフルなのだ。
カウンター席と小さな座敷からなる店内は、こぢんまりとしていて居心地がいい。また、このお店には、メニューというものが存在しない。いわゆる“おまかせ”方式である。といっても、値段はかなりの安心価格。3,000~5,000円の予算で相談に応じてくれる。この日は、「5,000円ぐらいで!」とお願いしたところ、ウニ、エビといった魚介(女将さん自ら毎朝6時に築地に出向いて仕入れるらしい)や、銀杏、松茸をはじめとした“秋の味覚”などが、次から次へと運ばれてきた。いずれも、見た目は繊細で美しく、味わいは家庭的で優しい。まるで女将さんの人柄を物語っているかのような、凄くココロあったまる料理であった。
また、「昭和30年代の最盛期には芸者が100人近くいて、このあたりは料亭や待合茶屋ばかりだったのよ」や、「荒木公園の池には、昔は滝が流れていて船も浮かんでいたのよ」など、貴重なお話もいろいろ聞かせてくれた。こういう話を聞きながら飲むラガーって、しみじみ旨いんだよね。
ちなみに、女将さんはお店の切り盛りばかりでなく、「四谷車力門会」の会長として、街の活性化のためにお花見や餅つきなどのイベントも率先して行っている。しかも毎朝欠かさず築地にも行くというのだから、さぞや大変なんじゃないか?が、女将さんは、「辛いと思ったことはないわね(笑)。何事も、元気に頑張ってやっていれば楽しいし、幸せを感じるものよ」と。
美味しい料理とラガーの味がカラダに染み渡り、女将さんの言葉がココロに染み渡る。そして、自分も頑張ろうという“元気”がみなぎってくる。そんな“ばんしゃく”のひとときでした。
ばんしゃく 奈美(ばんしゃく なみ)
東京都新宿区荒木町2小林ビルB1
03-3357-8474
月~金曜 17:00~24:00(L.O.23:30)
土曜・日曜
平均5,000円
カード使用不可
東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅より徒歩3分
1977(昭和52)年オープン。元・芸者の女将さん自らが毎朝築地で仕入れる新鮮な魚介、季節の野菜を使った料理、さらに肉料理などなど、日ごとに異なる料理が味わえる。メニューはなく、すべて“おまかせ”。料理の予算は、3,000~5,000円までの間で相談できる。また、ときには女将さんが唄やお座敷芸を披露してくれることも。