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「最近はスタンダードな女性ボーカルがいいね。ペギー・リーの『ブラックコーヒー』なんか特にね。この曲はサラ・ボーンも歌っているけど、ペギー・リーの方が染み渡るんだな。生き方そのものが歌になっているような気がする。それから、松田美緒というシンガーがなかなか良いわけで、ファドとかラテン系のスタンダードを歌うだけど、これがいい感じなんだよ」と、油井昌由樹さんは旨そうにラガーを飲みながら話してくれた。
油井さんは1947(昭和22)年鎌倉の生まれ。大学時代、世界一周旅行へ旅立ち、アウトドアライフに目覚め、帰国後すぐにアウトドアグッズのショップ「SPORTS TRAIN」を西麻布にオープン。これは1972(昭和47)年のことで、トートバッグやガタバウトチェアなど数々の商品を日本に紹介し、アウトドアの先駆者的存在である。
また、油井さんは高校生の頃、横浜の米軍のベースでアルバイトし、ベース内のラジオから流れるアメリカンポップスやブリテッシュロックを聴いている。60年代のロックの息吹を原体験して以来、いつも音楽は空気のように聴き続けていると言う。そんな体験を数年前のクリスマス・イブにあるラジオ番組に生出演し、話したことがある。
「それこそアメリカンポップス、ピンク・フロイド、テクノなど好きな曲をかけてもらって、思い出を話したら年配の女性の方から久しぶりに初恋の頃を思い出しましたとか、最後はビング・クロスビーのホワイト・クリスマスで締めたん
だけど反響が凄かったね」
油井さんのこれまでの活動はいつも多面的で、執筆、ラジオパーソナリティ、声優、CF、TV、ビデオなどの映像の世界での監督、また『夕陽評論家』としての肩書きを持ち、ウォールストリートジャーナルに紹介されている。
夕陽を見る旅も多く、最近、夕陽サミットがあったそうで、それは『夕陽と語らいの宿ネットワーク』が主催し、油井さんは『夕陽にありがとう』というテーマで講演をしてきたそうだ。
「夕陽のひとときに合う音楽は?ってよく聞かれるんだけど、特にこれを聴きたいっていうのはないんだ。偶然どこからか聴こえてくるようなそんな感じがいい。夕陽はどんな音楽にでも合うから(笑)」
また、夕陽を楽しんだあとは、その土地、土地での美味しい料理とビールのひとときが待っている。北海道では、たまたま入ったお店でカツ丼とビールの相性が良かったとか(油井さんはカツ丼研究家でもある)、また、博多ではサバやいわしのお寿司、松山ではじゃこ天などそれぞれ美味しいひとときの忘れられない思い出も多い。
「どこへ行っても事前情報なしで、そのお店ののれんとか、佇まいで入るんだけど、勘が外れたことがほとんどないんだよ。これは旅をしているうちに気がついたんだけど、いいお店、美味しいお店って何か発しているんだよね」
油井さんと言えば黒澤明監督の「影武者」では徳川家康、「乱」では平山丹後を演じた俳優であり、他にも「男はつ
らいよ 知床旅情」などいくつかの作品に出演している。
「黒澤先生のときはロケが長いから、長逗留。例えば『乱』のときなんか、夜の食事のあと、飲みながら、出演していた寺尾聰さんがギターを弾いて歌ったり、ピーターが歌ったり、そういうことはあったよね。やっぱり飲んだり食べたりしながら演出の話をしたり、特に黒澤組のときは黒澤先生のお話が凄く楽しかった。先生は特に具体的なことは言わないけど、何気ない雑談が勉強になった。面白い映画を作っている監督は、その映画よりずっと面白いよ」
また、油井さんは現在、南北朝時代をテーマにした映画のプロデュースを一人で手がけているのだが、映画で大切なのは我慢だと語ってくれた。
「撮影に入ると、天気が晴れていても風が吹いていちゃダメという撮影もあって1週間も10日も朝から待っていることもあって、それはみんなと待つしかない。また、撮影では一人がミスをするとみんなに迷惑がかかるから、だからみんな戦々恐々になっていくわけ。夜明け前の一番暗いような状況があって、そこをみんなで乗り越えると、我慢したからこその映画ならではの飛躍があるんだよ。暑い中でも飲まずに我慢していて、やっと飲むビールのような旨さのような、ね」
『山居』の松葉蟹の鍋をつつきながら、変わらぬ映画への情熱を語ってくれた油井さん。うーん、ものすごくビールが飲みたくなってしまった。
原宿にある「季節料理 山居」は、女将さんの故郷である山陰地方の鮮魚が味わえるお店。
魚は「一.焼き、二.生、三.煮付け」と言いますが、このお店では、それらのシンプルな調理法で、繊細な素材の旨さを最大限に活かした料理を楽しませてくれます。
ちなみに、今の季節には、「緋扇貝(ひおうぎがい)」や「あかべ貝」「きかな」といった、東京ではあまり馴染みのない魚介を刺身で堪能できますよ。
さらにもうひとつ、このお店の冬の醍醐味といえば、炭焼や鍋で味わう生の「松葉ガニ」。今回は鍋をいただいたんですが、蟹味噌を溶かしたダシでまずは大根、水菜、白菜、椎茸などを煮込み、野菜の旨みも染み出したところでさっと湯通しして食べる蟹……、これはホントに絶品ですよ。
そして、鍋のひとときにはやっぱりビールが欠かせません。寒い冬に、あったかい鍋をつつきながらのラガー。たまらないですね。
※「松葉ガニ鍋」「さしみ盛合せ」は、いずれも「淡香会席」(15,750円)の料理一例
※「松葉ガニ」は11/7からのメニュー

1947年鎌倉生まれ。日本におけるアウトドアの先駆者的存在。72年輸入会社「SPORTS TRAIN」創設。雑誌の企画・編集・執筆をはじめ、CF、テレビ、ビデオ作品の監督、イベントプロデュース、さらに俳優として黒澤 明監督作品を中心に出演するなど、その活躍は多岐に渡る。