2009.09.29UP
ハイエナは長い間、嘲りの対象としてあつかわれてきた。
ハイエナのような奴、と言われるように
けして好意的な存在ではなかったようだ。
しかし、アフリカを知る研究者や写真家は
口を揃えて「ハイエナは魅力的な動物だ」と言う。
15年前、タンザニアでネイチャーマガジンのために
ハイエナを2ヶ月間、観察してきた私も
「ハイエナは素敵」と、あえて言ってしまおう。
捕食動物にとって狩りは大変な仕事だ。
落ちているものや誰かのおあまりだけで生きていける
のなら楽ちんだろう。
スカベンジャー(腐肉漁り)と思われている彼らだが
ハイエナの名誉にかけて、「そんなことはない!」
だいたい、アフリカの平原に腐肉など、落ちていない。
草食獣の肉は、倒したものが食べ、その残りを
ジャッカルのような小型の動物が食べ
嘴を持った鳥類が食べ、甲虫類がやってきて
最後はハエがワ~ッとたかって食べ尽くす。
あっという間にキレイな骨になってしまう。
つまり腐肉となる前にほとんどのものは食べつくされてしまう。
だから、ハイエナも基本的に自分たちの食物は
自分たちで手に入れる。
しかも狩りに関しては、彼らが非常に優秀なハンター
であるという事実がある。
腰を落としたようなかっこうと眠たそうな目をしている
彼らも、やるときゃやる。
ハイエナのほうからすれば、むしろ怠け者はライオン
のほうなのだ。ライオンはハイエナの倒した獲物を
度々横取りするからだ。
ハイエナの研究者ハンス・クルーク氏によれば
「セレンゲティのハイエナは必要な食料の三分の二を
自分で手にいれる。これがライオンにとっては手軽な
肉の供給源でもある。実際平原で目撃した獲物を
食べているライオンのうち、ライオンが獲物をスカベンジ
した確立はほぼ五割であり、しばしばそれはハイエナ
から奪った獲物である」(「ブチハイエナ」より)
とある。
ハイエナの食事は喧しい。興奮して騒ぐので、それを
聞きつけたライオンは、「お!」とやってくる。
ライオンが一頭ならハイエナも集団で追い払うことが
できるが、数頭でやって来られると、悔しいが譲り渡さざるをえない。
ハイエナの狩りは、日没後か早朝のまだ暗いうちが多い。
夜明けさらに遅れてフィールドに到着する人は、そこで
ライオンが食べている獲物を奪おうとまわりでウロウロ
するハイエナを見るのである。
正確には、奪い返そうとしているのであるが・・・。

まあ、ライオンにはライオンの言いわけもあろう。
彼らは長い距離をダッシュできない。
だから、ブッシュなどに隠れて獲物がくるのを
ひたすら待つしかないのだ。
しかし、運良く獲物がそこにやってくる確立は低い。
「あ~、今日も腹へったなぁ」とお互い舐めあって
一日が終わる。
そこへいくとハイエナは時速50キロくらいで2キロ
くらいは楽勝で獲物を追走し、最後にはターボがかかる。
狩りの時のハイエナは背筋をのばし、たてがみを風に
なびかせ、腰を落として歩く姿からは想像もできぬ
秘めた力をみなぎらせた動物に変身する。
ハイエナの社会では、群れを率いるのは雌だ。
完全な女性上位で、からだも雌の方が雄よりおおきい。
けれどハイエナの雄と雌を見極めるのはとても難しい。
動物はパンツをはいていないから、おしりを見ればいい。
ということなんだけど、これが・・・。
なんと雌の生殖器は見た目、雄とそっくりなのだ。
ハイエナは草食獣の皮から骨にいたるまで、ほとんど
すべての部分を食べてしまうので、一度に消化しきれない
ものを吐き戻す習慣がある。
それを見た子どもたちは我先にと走り寄り、吐き戻した
ものの上でゴロゴロ転がり恍惚とした表情で酔いしれる。
強烈な臭いほど興奮するものは他にないと言わんばかりに。
うっ!やっぱり嫌だなぁ~、と当然思うかもしれないけれど
ここには書ききれないほど、まだまだいろいろたくさんの
ことをしてくれる、不思議動物なのだ。

ハイエナの糞は真っ白い。
手にとってみるととても軽く、割ってみると乾いた紙粘土のようだ。
糞の化学的組成は蛋白質の一種であるコラーゲンが含まれて
いないだけで、あとは骨とまったく同じ組成をしている。
骨を噛み砕くことができるハイエナは、そこからコラーゲン
を摂取できる極めて有効な能力も持っている。
何も余分なものが残されていない糞に、フンコロガシもハエも
見向きもしない。
無駄のなさは糞ばかりではなくて、倒された成獣のヌーを
ハイエナが食べた後に残るものは、尾と髭、頭骨の一部だけ。
しかもこの残ったものは子どもたちの巣穴に運ばれ
長く遊び道具として愛される。
ハイエナは食の天才だったのだ!
巣穴の入り口は人間の大人がひとり入れるくらいで、中に
いくほど狭くなり、奥は子どもたちしか入れない隠れ家に
なっている。
出来の良い巣穴は何世代にもわたって受け継がれる。

野生動物の間には弱肉強食などというものはない。
そんなのは人間が考える動物の世界である。
ライオンキングで、ディズニーはハイエナを悪者にしたけれど
野生動物の世界には善も悪もない。
先入観や受け売りが蔓延する。
だからというわけではないかもしれないが
アフリカのサバンナでのハイエナ人気は下位である。
おかげで、ハイエナは観光客のカメラに追い回されることも
なく、のんびりと水たまりで泥にまみれていることができる。
アフリカ、タンザニアのセレンゲティ平原。
ブチハイエナは、敏腕な狩人であり、一頭一頭が個性的で、
優れた母系社会をつくる。
謎につつまれ誤解され続けてきた草原の天才だったのだ。
