
ケースの脇(リューズの反対側)をちょいと指で押すと、カチリと留めが取れて時計ケース全体が並行移動する。そこで、端までスライドさせてから、ヒョイと裏返す。ラグやベースとなる部分はそのままだから、腕に付けた状態でこの動作ができる。
これがジャガー・ルクルト「レベルソ」最大の特長だ。誕生したのは1931年。馬に乗ったホッケーともいうべきポロ競技がきっかけだったという。当時、時計の風防はミネラルガラスが普通であり、衝撃に弱かった。そこでケースごと反転させれば、風防を保護できると発想したのである。ちなみに今の高級時計はダイヤモンドに次ぐ硬度といわれるサファイア・クリスタルを使用しているので、滅多なことでは割れない。
反転させるアイデア自体は驚くものではないにしても、時計としての実用化は決して楽なものではない。台となるプレートと時計のケースの間に最適な空間がなければならないからだ。あまりに近いと時計の風防を傷つけ、かといって離し過ぎれば透き間ができて見た目が悪くなる。カチリとヒョイ反転を気持ちよくできるようにするためには、やはり技術力が必要になるのである。
この「レベルソ」を開発したジャガー・ルクルトは、複雑時計を得意とするブランドが集まるスイスのジュウ渓谷で1883年に誕生した。今でもムーブメントから内製する生粋のマニュファクチュールであり、ついでにいえば、創業の地を一度として動いていない。そうした筋金が、「レベルソ」開発にも込められているのだろう。
機能だけでなく、アール・デコ調のデザインも優美で品格が高い。かくて銘品としての高い評価と同時に、ジャガー・ルクルトの名声を決定的にしたのである。
長方形から真四角へ
ケースを反転させると、裏側が表になる。風防保護が目的なのだから、それはそれで問題ないのだが、後には、この裏側にイニシャルを刻印したり、花柄などの模様が彫り込まれるようになった。近年になると、裏側にも別のダイアルを搭載した「レベルソ・デュオ」も登場している。たとえば同じ時計表示でも、表は現地時間、裏側は日本時間と海外旅行に便利なデュアルタイムとして使える。分積算だけという珍しいクロノグラフや、パワーリザーブ表示を裏側に配置するなど様々なバリエーションが発表されてきた。それが1つのムーブメントで駆動するというところが実はスゴいところなのだが。
そんなシリーズに2006年から加わった新顔が「レベルソ・スクアドラ」だ。これまでは優美な長方形だったが、「レベルソ・スクアドラ」は真四角。デザインもマッチョであり、それだけに重厚感、存在感がある。興味深いことに、この真四角デザインは、「レベルソ」誕生の時に採用されなかったB案だそうだ。70年ほど前と現代では確かに感覚は違うが、そのデザインを今まで残しておいたことがジャガー・ルクルトらしいのである。
個人的には、「レベルソ・スクアドラ」より長方形の「レベルソ」のほうに惹かれる。筆者が老いた証拠なのかなぁと、つい鏡を見てしまった。
文/笠木恵司
1│1931年に誕生した当時のレベルソ。2│「レベルソ・グランド・サンムーン」。自社製のパワーリザーブ8日間の手巻きムーブメントを搭載。ゼンマイの巻き上げ残量を11時位置のインジケーターで表示。反対側の5時位置にはムーンフェイズをレイアウトしたエレガントなモデル。シースルーのケースバックから美しいムーブメントを見ることができる。ピンクゴールドケース。¥2,205,000。3│「レベルソ・スクアドラ・クロノグラフGMT・ブラック」。6時位置の小窓で第二時間帯を表示するGMT機能付きのクロノグラフ。自動巻き、ステンレススティールケース。¥1,071,000。4│「レベルソ・レディ・ダイヤモンド」。ケースの上下にダイヤモンドをセッティングした華やかなレディスウォッチ。ムーブメントは手巻き(¥756,000)とクォーツ(¥630,000)の2種がある。ケースはステンレススティール。問い合わせ先/ジャガー・ルクルトTel:03-3288-6370